善と悪
私は目の前の友人を殺した。その身体から出た血は私の服を真っ赤に染め上げていく。『私』に申し訳ないと思った。
サイレンが聞える。どうやら『私』は通報でもしたようだ。
もう救急車やパトカーが来ている。早いなと私は感心した。
私は警察官と共にパトカーに乗り込んだ。こんな血だらけの服で大丈夫なのか。私は署に着くまでずっと黙っていた。その時間は長く感じた。
大男は優しい物腰であれこれと質問をしたが、私は黙っていた。私は『私』から喋るなと言われているからだ。大男はだんまりを決め込む私に徐々に怒りを示していった。
『私』は待ったをかけたようだ。無意味だとわかっているはずなのに。正直に話した方が罪が軽くなるはずなのに。今までそうやってきたはずなのに。
拾ったのではない、最初から持っていた。それで友人を刺した。
服は血だらけなのは当たり前だ。私がやったから。
知らないはずない。『私』は知っているはずだ。いつまで嘘をつくのだ。
私は驚いた。『私』が犯人は友人だと言い始めたことに。友人が殺されたはずなのに。
大男から友人が被害者だと告げられた。それ見たことか、ついたことも無い嘘をつこうとするからだ。いや、おかしい。何故、『私』が嘘をつこうとした。噓をつくのは私のはずなのに。何故、『私』は友人に罪を着せようとした。罪を着せるのも私のはずなのに。
『私』は喚き散らした。見るに堪えないくらい暴れた。私のせいで……本当に申し訳ない。
私達は昔、一つだった。人間が悪とする行為をしてしまう人間だった。困った私(『私』かもしれない)は人格を分離した。善と悪で真っ二つ。分離することで悪の私を善の『私』が抑えていた。
時々私が出てしまい、犯罪に手を染めることもあった。私達は二重人格ということで刑は軽くなった。そうやって生きてきたはずなのに。『私』は少しの刑ではなく、無罪求めた。
善い『私』が悪くなった。私達はこれからどう生きていこうか。
あれ、何故、私は『私』の心配もしているのだろうか。自分さえ気分が良ければいいのに。私は悪のはずなのに。何故、私は『私』に申し訳ないと思っているのだ。私は自分勝手で人間の倫理なんてどうでもいいはずなのに。
悪い私が善くなった。私達は今まで通り生きていける。
善と悪 じょーかーてぃーけーあい @Joker-tki
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