善と悪

じょーかーてぃーけーあい

人が倒れた

 目の前で人が倒れた。その身体からは血が噴き出していた。落ち着いて私は119番をした。

 すぐに警察、消防、救急が来た。

 警察官らしき男が付いてくるように私に言った。話がしたいそうだ。

 気づくと署に着いていた。あっという間だ。

 小さな部屋に入れられた。私と机を挟んで目の前に大男が一人、その奥に別の小さな机があり、そこに痩せた男が一人いた。ドラマでよく見る取調室のようだ。

 私はいきなり人が倒れたと説明するだけだ。さっさと帰ろうかと考えていると目の前の大男が怒っているように感じた。否、怒っているのだ。言葉の雰囲気は最初の優しさが消え、鋭さだけが増していく。聞くに堪えない暴力的な言葉の端々をかき集めて考えると、私が犯人であることが前提で話が進んでいる。私は急いで待ったをかける。

 私はやっていないと言う。大男はお前が包丁を持っていたと言う。私はそれは拾っただけだと言う。

 大男はお前の服は被害者の血が大量に付着しており、真っ赤だったと言った。

 私は知らない。やってないんだ。信じてくれ。その血は近くに居たからたまたま付いたんだ。私はそう必死に訴えた。だが、大男から信じる気配を微塵も感じない。

 私は名案を思い付いた。すぐさま実行した。アイツがやったんだ。私は友人に呼び出されたんだ。そう私が言った瞬間、大男は怪しむような顔をしたが、振り返って痩せた男に指示を出した。いくら妄言のように感じても、職務上しっかり調べないと後々大変だからだろう。痩せた男が私に近づいてきた。友人の名前を聞かれた。私は躊躇うことなく答えた。

 次の瞬間、携帯が鳴り響いた。大男はズボンの中からうるさい携帯を取り出し、静かになった携帯を耳にあてた。電話が終わると大男は口を開いた。大男が言うには被害者の身元が判明したそうだ。その被害者の名前は私がさっき言った友人の名前だった。

 私は裁判するまでもなく有罪のようだ。そこからの記憶はない。

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