世界樹と有翼人
七海けい
第1話:世界樹と有翼人
私は世界樹だ。人々は私のことを
私の取り柄は、……むやみやたらに、背が高いことだろうか。無駄に長く生きてしまったせいで、身の丈ばかりが高くなる。
ところで。
私みたいな、動けない
月に一度、気まぐれに。
「──爺さん。今日もよろしく」
この日。彼は夕暮れ前に来た。
***
私の
「よっ……と」
彼はヒョイ、ヒョイと身をこなし、あっという間に、私の頭に
「ここからの夕日。綺麗なんだよね」
彼は、私の一番高い枝に腰を下ろすと、時折、健在の片翼をばたつかせながら、目当ての時間を待った。
私の天辺からは、穏やかな海と、開けた空が見える。
虹の橋が架かることもあれば、星の涙が振ることもあるし、人魚が跳ねることもあれば、
「──」
彼は、スゥッ。と息を呑んだ。
ここからは、彼の時間である。
「──
──
──そよぐ木の葉の
──風は
──
──
──
──
──真っ赤に安らぐ
──
──
──
「……」
とっぷりと日が沈み、水平線も光をひそめ、星空が
彼は、ヒョイと私から飛び下りた。
「ありがとう。これから推敲をして、それなりの作品に仕上げるよ」
彼は、ゆっくりとした足取りで去って行く。
私は、少しだけ木の葉を風に揺らしてみる。
「……」
彼は立ち止まり、私に振り返る。
「……鳥たちを導く海風も、天を融かす太陽も、
いたずらに背の高い私には、俯いた彼の表情を
「でもね……」
彼は、溜息とも微笑とも付かない息を漏らす。
「……僕の詩は、僕の羽根よりも、僕の気持ちを遠いところに運んでくれるから」
それだけ言うと、彼は夜陰の地平に消えていった。
月が君を照らすには、今しばらくの時間が必要だ。
気を付けるんだよ。と、私は木の葉を風に揺らす。
──また来るよ。
彼の声が、朗らかに答えた。
世界樹と有翼人 七海けい @kk-rabi
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