静寂を切り裂くは神の雷霆 (七)
全身に衝撃を感じてライルは目を覚ます。
たった一瞬、気を失っていたうちに世界は朱く染まっていた。
「な……に、が…………」
気を失うときに強く打ち付けたせいか、身体の至る箇所が鬱血している。鈍痛を堪えながら立ちあがり、周囲を一瞥した。
「あ…………」
眼前に、逆巻く炎髪の女神が槍を掲げていた。
その周囲に
「目が覚めた?」
「こいつは……、リーラが、やったのか……」
「神代魔法で押さえつけているだけ。壊せてはいないよ。このまま御し続けるのは無理」
「……もう少しだけ、そのままでいてくれ。――カイナ!! 準備はどうだっ!?」
『――……繋がった!? 状況はどうなってるんですか!? なんだか急に空が朱くなったかと思えば、機鋼蟲の侵攻が一斉に止まったんですが!?』
「話はあとだ!! 電磁波動砲は!?」
『い、いけます!! あとは合図さえもらえれば……っ』
「了解。俺の指示を待ってろ!!」
言い終えて、ライルはその場に膝をつく。
「ふざけるなぁっ!! なんだこれはっ!? どうして魔人がここにいる!?」
ガレスは吠える。
だが、その声音に滲むのは焦燥と動揺だった。
機鋼蟲を押し潰さんと降り注ぐ紅蓮の神盾が、身動きの一つさえ取らせはしない。
「ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなぁっ!! こんな……こんなことがあってたまるかぁ!!」
「これで終わりだ、ガレス。あんたにふさわしい最期をくれてやる」
「死ぬ? この俺が? てめぇらみたいな雑魚にやられて? きはっ、きはははははははははははははははははははははははははははははっ!! どうやって殺す? 機鋼蟲を食い止めているだけだろうがぁっ!! イキってんじゃねぇぞ三下がぁっ!!」
「……あんたを倒さなきゃ前に進めねぇ。過去と決別できねぇんだ。重ねてきた罪は一生掛けたって償いきれねぇだろうけど、生き様を変えることはできる。だから……俺は俺が誇れる生き様を選ぶよ」
摺り合わせ、帯電させた両手をライルは地面へ置いた。
戦場にあまねく散らばった無数の黒鉄が蠢き、集積し、身動きの取れない機鋼蟲の下腹部へ潜り込む。
「神の
死ぬゆく咎人へ打ち込まれる墓標の如く無数の鉄棘が地から天へ伸び、戦場を跋扈する機鋼蟲を
「なッ…………、こいつ、は…………っ!?」
驚愕を顕わにするガレスへ、ライルは憐れみの眼差しを向けて言い放つ。
「あんたは俺にやられるんじゃない。あんたがこれまで散々コケにしてきた人間たちの、叡智の前に敗れるんだ」
「この……、俺が…………っ、こんな、こんなことで……ッ!!」
「そうやっていつまでも人間を見下し続けた、その報いだ。地獄に堕ちて後悔し続けるがいいさ」
「こんなこと、認められるかぁぁあッ!! 動け、動け動け動けぇぇぇぇぇぇぇえええッ!!」
「カイナ、撃てぇ――――――――っ!!」
はた、とガレスが顔をあげる。
視界の端、アスラステラ外縁に鎮座する極大の砲台。
鈍銀に煌めく砲身の存在をようやく認めると同時。
第六感が警鐘を鳴らす。
あれは、駄目だ。
撃たせてはならない代物だ。
だが、気付くのが遅すぎた。
最早どうにもならない。
「やめろ、やめろやめろやめろぉっ!! いまなら俺が特権で貴様を不問に付してやるッ!! だから即刻降伏し――」
『電磁波動砲、
刹那。
一条の極光が号砲とともに戦場を貫き。
黒鉄の十字架が突き刺さった機鋼蟲らへと墜ちた。
「が、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――っ!!」
断末魔すらをも飲み込んで駆ける砲撃が止み。
あとに残されたのは、その面影すら残さず拉げて潰れた鉄屑どもだけ。
「終わった……の?」
美麗な焔髪を揺らしながらリーラが小首を傾げた。
敵機から、その問いを否定する声はあがらない。
その沈黙こそが、なによりも雄弁な答え。
片膝をついたまま、ライルは大きく息を吐いた。
「……状況、終了」
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