静寂を切り裂くは神の雷霆 (四)
アスラステラ戦線第二防衛戦――カイナの後方約二○○メートルにて。
「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおっ!!」
裂帛の咆哮をあげ、ウォードが豪胆に戦斧を振り回す。
無骨かつ鈍重な一撃はすべてが渾身かつ会心。
眼前に迫る敵機の悉くを一振りで沈めていく。
「右方からの侵攻を食い止めろ!!」
「注文が多い!!」
快進撃を続ける司令塔を追い抜きざま、リーラは身体を旋回させ、
「紅炎よ、爆散せよ――【プロミネンスプロード】!!」
叫び、ウォードの後方から槍を投擲。
死角から迫っていたキリングスパイダーの動力部を貫通し、爆炎を吹き上げる。
「すまん。助かった」
「久しぶりの前線だからって勘が鈍ってるのは困る」
「許せ。俺ももう歳だ」
「ここ一番で死なれたら元も子もない――てのっ!!」
挽き潰すように突貫してくる機鋼蟲を、リーラは一薙ぎで払った。
その軌跡から炸裂する紅蓮が二桁に迫る敵機を一呑みする。
「俺はもう大丈夫だ。カイナに追いついて援護に回れ」
「了解!!」
ウォードの指令を受け、リーラは戦場を駆け抜ける。
数多の敵機の猛攻をいなす。避け、躱す。
降り注ぐ雷矢の援護を一身にうけ、反撃の一手を叩き込みながら次々と潰す。
味方が唱える『ライジンレイン』の援護が頼もしい。
障壁装甲が剥がれ落ちてたキリングスパイダーの相手など、リーラにとっては赤子の手を捻るようなものだった。
そして、
「カイナ!!」
「ッ!? 先輩――ッ!!」
頼もしい部下の元へ駆けつけざま、間近の敵機へ紅蓮の一閃を見舞う。
だが、必中の距離にいたはずの機鋼蟲は脚部後方を跳ね上げ、躱してみせた。
「なっ――!?」
「周囲の機鋼蟲を操ってるのは恐らく部隊の司令塔です!! 動きが全然違います!!」
叫ぶカイナもまた苦汁を呑まされた表情を浮かべ、対峙していた機鋼蟲から距離を取る。
だが、この動きを読んでいた僚機たちが追い縋る格好で三方から同時に襲いかかった。
「やられっぱなしだと思うなよっ!! ――【フレアサンダラー】!!」
すかさずカイナは一機に狙いを絞り、真正面から飛び込んではすれ違いざまに一撃を叩き込む。
危機を脱しつつの反撃。
「……ッ、駄目か……!!」
制御系統を突こうにも、急吶喊で練り上げる中途半端な白熱雷閃はキリングスパイダーに取り付いたファスミダスが電撃を吸収してしまう。
雷撃使いのカイナにとってはまさしく天敵。
「カイナ!! 戻りなさい!!」
「でも、まだ彼が――」
「もうじき来る!! だからここは任せてやるべきことを優先しなさい!!」
「…………っ、任せますよ!!」
『獲物をみすみす逃がすと思うかぁ?』
地獄の底から這い出た蛇のような細い声がして。
背を向けたカイナへ数機が一斉に吶喊。
「――させるか!!」
大気を震わせる激音。
リーラが炎槍を振るい、リーラへ飛びかかったキリングスパイダーの前足を弾き返す。
『……ぬるいなぁ? 魔法使いごときがどうにかできるとでも思い上がったか!?』
「くっ――」
敵機と鋼を交えるリーラに落ちる影。対峙する機鋼蟲の背後から飛び出る新たな機体が飛び退ったカイナへ肉薄する。
「カイナ!!」
「っ――、雷剣よ、刺し穿ち、突き穿て――【ライトニングレイ】!!」
振り向きざま、カイナがレイピアを振り抜いた。
だが、
『馬鹿の一つ覚えがっ!!』
蜘蛛の後背部に跨がるファスミダスが歪な光を点し、雷撃を無為へと帰す。
重ねて叩きつけられる鋼鉄の一閃が剣閃を弾き。
「――っ、あ、がっ!?」
痛烈な一撃をもらったカイナの身体が宙を舞う。
『きはははははははははっ!! チェックメイトだ!!』
再び跳躍した蜘蛛が前足を振り上げた。
カイナの顔が歪む。いつか見た死の淵。
「――っ」
悲鳴をあげることすらままならない。
恐怖から逃げるように華奢な両腕が宙を掻く。
それを無様だと嗤う、砂漠に舞う乾いた声が響き、
『死ねぇっ!!』
「――させるかっ」
刹那、煌めいた極光が、ファスミダスもろとも正確無比に機体へ風穴をぶち開けた。
『――ッ!?』
「きゃっ!?」
死線を逃れて自由落下するカイナの身体を受け止め、
「危機一髪、ってところか」
ライルが冷や汗を拭った。
「遅い!!」
「これでも急いだほうなんだ」
眼前に広がる敵機群を見据えてライルはごちる。
「……カイナ、下がれ。準備は俺が八割がた済ませた。悪いが残りは任せたぞ」
「了解。先輩のこと、任せたよ」
「心配すんな。あいつは死なせない。それに、」
数多の敵機から向けられる殺意に思い出したくもない懐かしさを覚え、反吐を吐いた。
感情を度外視しても対峙したくない相手。
だが、逃がしてはくれないだろう。
「あの野郎はもう、俺にしか興味がねぇだろうからな」
『き、ははっ』
耳朶を叩くは、何度耳にしても慣れない不気味な哄笑。
「いけ、カイナ!! こっから先はもう、お前を庇ってる余裕なんかなくなる!!」
『はははははははははははははっ!! 来やがったっ!! ようやく出てきやがったかぁ!!』
脱兎のごとく最前線から離脱する魔法使いになど目もくれず、百あまりの機鋼蟲らの光学センサが一斉に標的をただ一人に絞る。
『会いたかったぁ……遭いたかったぞぉ、裏切り者っ!!』
「……なんの因果だろうな、こいつは。神とやらが決別の機会をくれたっつうことでいいんだよな?」
『ほざけるなよ雑魚がっ!! これだけの機鋼蟲を前になにができると思い上がってやがるんだ!?』
「……貴様こそ、魔人の本領を舐めるな」
視界を埋め尽くす機鋼蟲を舐めて一瞥し、ライルは口元に笑みを浮かべてはそう吐いた。
「こいつら全部、
『…………きはっ』
ガレスは嗤う。
憐れみを込めた眼差しをくれてやる。
心底馬鹿馬鹿しいと蔑んで、腹の底から漏れ出してくる感情をそのまま垂れ流し、裏切り者へ聞かせてやる。
彼我の差すら測ることのできない雑魚どもめ。
『きははははははははははははははははははははははは!!』
神の威光を知るがいい。
『これは神の啓示であるっ!! ユグドラスに抗うすべての生きとし生ける愚かものどもよ、その腐りきった
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