静寂を切り裂くは神の雷霆 (三)
『カイナが交戦を開始した。各位、所定位置から迎撃および援護を開始しろ。あの蟲どもを一匹たりとて城へ近づかせるな!! ミサイル、砲弾はありったけをぶち込んでやれ!!』
無線の向こう、ウォードが柄にもなく吠えている。
後方支援に回っている精鋭たちは一糸乱れぬ手捌きでミサイルや砲弾を装填し、着火、発射していく。
砲塔はありったけを展開して八門。
アスラステラが有するすべてだ。
ミサイルは直前になってアルシェラが開発したもので、機鋼蟲に組み込まれるチップを標的とするよう仕組んである。ライルの入れ知恵だ。
だが、それでよしとしなかったのも彼だった。
「着弾を前提とすれば即座に対応される。だから、起爆のタイミングをいじれるようにしておくべきだ。雷撃で信号を送り、着弾せずとも爆発させることさえできれば脅威の度合いは一気に膨れ上がる」
「奴らはその程度でまごつくのか?」
「最大効率しか考えていないユグドラスの連中は全員が大量の機鋼蟲を操作している。全神経をそっちに回している以上、迎撃のために神代魔法は使えない。ましてここ数年は文明の利器に頼り切っている愚鈍どもだ、咄嗟の機転も利きやしない。ミサイル起爆は第二波だ。第一波は俺が仕込む。想定外に想定外を重ねて出鼻を挫く。これが上手くいって、
ようやく五分に持ち込める」
果たしてその結果は助言のとおり。
戦況もいまのところ当初の想定どおりに推移している。
望遠レンズで視認する限り、敵機の大半が朽ちた隣国の跡地に残留したまま。
ミサイル爆撃を間近でくらって破損し、あるいはカイナが引きつけ、潰して回っている。
この調子でどうにか乗り切れることさえできれば、それでもう充分だ。
一国の主として、アルシェラはただそう願うことしかできない。
「長距離電磁波動砲の準備はどうだ?」
「順調だ。あとはことが思ったとおりに運べばいい」
アルシェラの問いにメイは砲弾の次発を装填しながら淡々と告げた。
「うまくいけばいいのだが……」
「国王なんだから信じてやりな。少なくともあたしは賭けてるよ、あの坊主に」
「最初はあれだけあやつに反発していたくせに」
「なにがあいつを駆り立てているのかは知らない。けど、少なくともこの国の存亡のために前線張ってる姿に嘘はないだろ。曲がりなりにも命張ってるやつのことをいまさら冷たい目で見るなんてできやしないよ」
メイは毅然と言い放つ。
「あんたもそうだろ? でなきゃ、連日徹夜してこんな兵装を準備しないはずだ」
「まぁ、そうだな……」
否定はしない。
本人の前で泣き縋るような真似までした以上、いまさら誤魔化すつもりもない。
出会いからなにから、すべては偶然。
けれど、アルシェラたちにとってはまたとない僥倖だった。
ライルがいなければとっくのとうにこの国は終わっていただろう。連日におよぶ大攻勢に耐えきることなど不可能だった。
救われている。つくづく。
「この国はまだ天に見放されてはいない」
「そうだな。そんで、ここがまさしく正念場ってわけだ――っ!!」
間近で大砲が万雷の咆哮をあげる。
「……そろそろ弾倉が尽きるか。――ライル!!」
メイが叫ぶ。
視界の先、電磁波動砲に備え付けられた操縦棍を握るライルは閉じていた瞳を静かに開いた。
「まだ八割だ。充分な蓄電ができてない」
「潮時だ。あんたが出張らねぇとカイナが万全の状態で戻ってこられねぇ」
「……あと何発撃てる」
「三巡だ。それであたしらの役目は終わりになっちまう」
『ライル、出撃してくれ。流石の数だ、進軍を防ぎ切れん』
無線越しの指令。ウォードの声音はいつにも増して切羽詰まっている。
そろそろ奇襲による動揺から建て直してきていることは想像が及ぶ。
「…………了解」
ライルは目を眇めたまま砂塵の舞う戦場を睨んだ。
「残りの充填は戻ってきたカイナに任せる」
「無事に帰ってこられるよう、できるだけ遠距離砲撃でフォローするよ」
「頼んだぞ」
「それはこっちの台詞だ」
目配せを一つ。
外縁から身を投げ出したライルの姿がみるみる小さくなっていく。
その後ろ姿を見送って、メイは声を張り上げた。
「遊撃ミサイル第八巡、全弾、撃て――――――――ッ!!」
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