静寂を切り裂くは神の雷霆 (一)

『敵機を確認。各自、配置につけ』


 ウォードの冷徹な声音が無線へ響く。


『総数は不明。前衛はリーラに一任する。砲撃時は無線のみの警鐘にとどめる。聞き漏らすなよ』


 傍らで出撃に備える師団員らが生唾を飲んだ。


『ライル、準備はいいか』

「……ああ」

『カイナ。先鋒は任せる。最小限の労力で可能な限り攪乱させろ』

『了解』

『各位、武運を祈る。――迎撃戦開始』


 同時、荒野へ向けて師団員たちが駆けていく。


 その勇姿を一瞥し、ライルははるかにそびえる山々の稜線へ視線を向けた。


 かつては自分も、あちら側だった。


 国を滅ぼし、人を殺めることになんの感慨も抱かず、ただ自分が生き残るがために無心で尊厳を踏みにじってきた。


 けれど、いまは違う。


 自分にも守りたい人たちができた。


 だからこそ、過去の自分と決別しなければならない。


 なにも持たず、誇らず、ただ生きていた人形の頃の自分自身と。


「そのために俺は……あんたを討つ」


 視界の先。

 迫り来る敵機の先陣が深緑を駆け下り、その姿を土気色の戦線へと現す。


『ライル、頼んだぞ』

「……ああ」


 ライルは山々の上空に集う曇天へ手を伸ばすと、開戦を告げる号砲の如く叫び、


「万雷の喝采を以て敵のあまねくを焼き尽くさん――吠えていななけ、サンダルヴァーン!!」


 数多の爆雷を山々の深緑へ降り注がせた。

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