07 鴛鴦の契り
「
野原は着実に槇を守るための力をつけているのだ。いじめられて、気味悪がられているだけの野原
「
槇は呟く。
「知っている……おれたちでは力不足。能力も人脈も、そして腹の括り方も……だ」
「実篤。おれも手伝うから。一緒にやろう。そして、おれは守られたいんじゃない。おれも守りたいから」
野原は拘束されている両手をそっと差し出して、それから、ぎこちなく笑みを見せた。
——おれは一体、なにを見てきた? なにをしてきたのだ?
槇の目からたくさんの涙が溢れた。
「……ごめん。雪。おれ、お前にひどいこと、ばっかり……っ」
「いつものこと」
「……いつものことで済まされないだろう。おれって本当にバカで。お前のことを傷つけてばっかり」
野原の腕を取って、抱きしめながら槇は子どもみたいに泣きじゃくった。
「本当、小学校の頃から変わっていなんだから……」
そんな野原のつぶやきが耳に係る。それから、野原は優しく槇の頭を撫でてくれた。野原のために自分は……と息巻いていたのに、結局は、ずっと野原に守ってもらっていたのかも知れない。
自分は、彼がいないと生きていけない。自分の人生は野原雪と共にあるのだ。
「実篤」
「ごめん。辛い思いさせて」
「実篤になら、何をされてもいい」
ふと近づいた唇が重なる。どちらの涙かなんてわからない。涙と唾液がグジャグジャでも、そんなことなんてどうでもよかった。
「雪」
彼の名を何度も呼びたい。野原は自分のものであるという証が欲しい。彼の舌を乱暴に吸い上げると、野原の口から吐息が洩れた。
——誰にも渡したくない。
執拗に口付けを繰り返すと、野原の瞳の色がぼんやりとするのがわかる。自分の刺激で、彼の意識が混濁していく様が嬉しい。彼の全てを支配しているという感覚は、槇の欲を充足させてくれた。
野原が出て行ってから、ずっとさいなまれていた不安や焦燥感が、雲が晴れるように消えていく。
彼は、言語で自分の気持ちを表現することが苦手だ。だから、体を重ねる行為は、野原の本音を知る機会でもある。触れてくる彼の指先からは、自分を受け入れてくれているという気持ちが伝わってきて、野原の心に触れた気がするのだ。
「雪は変わった」
槇を受け入れながら見上げてくる瞳は、濡れていてゾクゾクした。
「なに?」
「おれは、いつまでたってもガキみたいなもんだ。叔父さんがいないと、なにもできない情けない男だ。雪はちゃんと仕事して、ちゃんとここまで自分の居場所を作り上げてきたじゃないか」
「それは」
「おればっかり置いてきぼりで、なんだか情けなくて。ごめん。お前に甘えてばっかりな」
「ねえ、実篤」
野原は槇の首に腕を回して引き寄せる。体が近づいて、更に奥深くまで繋がり合う感覚に、野原が一瞬、息を飲むのがわかった。そして、槇の耳元で囁いた。
「そういう謝罪の言葉は、終わってから、ちゃんと土下座して言って」
「な……っ、雪っ!」
こんな雰囲気も度外視してしまう野原に笑うしかない。
「お前ねえ……萎えるから、本気でやめてよ……」
——涙出るだろっ。
「実篤が土下座して、泣くの見てみたい」
「このサドっ! 加減なんてしてやんないんだからなっ」
耳まで真っ赤にして、怒って見せても関係ない。
「いいよ」
いつも無表情だった野原は口元を緩めて微笑を浮かべていた。
——ああ、やはり雪は変わった。
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