sequence 2【ひのやまのおおかみ】part2
俺はその夜アカネを保護した後、その場にいた近所のおばさんの通報で駆けつけた警察やら救急車の対応に追われた。
アカネは目を覚ましたものの、化け物のことは一切覚えていないようだった。頭を打っているかも知れないということで救急病院に搬送され、その頃には東京から親父が慌てて戻ってきていた。命にも脳にも異状なしということだったものの2、3日安静にするように言われ、そのまま親父の車で帰ってきた。
「コウイチ。明日は警察にきて欲しいそうだ。学校休め」
「わかってるよ」
「俺はタマが縮み上がったぜ。アカネにはわかんねーだろうけどよ。はっはっは」
「…」
「やめろよ親父」
「ふむ…まあ無事でよかった!二人とも今日はゆっくり休め」
「ああ…」
アカネは車の中で、一点を見つめたまま動かなかった。
−*−
次の日に俺は警察署で事情聴取をたっぷり3時間ぐらいやった。三津岡駅にある県庁の隣にある馬鹿でかい建物。
アカネはまだ放心状態のような感じで受け答えははっきりせず、ポロポロと泣き出してしまったためにあまり会話にならず、もっぱら俺の証言だけが頼りになった。
俺は『不審な人物にアカネが連れて行かれそうになったから追い払った。アカネはその時に薬か何かを嗅がされて気を失ったのかも知れない』と証言した。デカすぎるナメクジかナマコみたいなモンスターと戦ったこと。山の中でオオカミに会ったこと。俺は自分の見たものが幻覚のような気がしていたし、下手なことを言うと精神鑑定とかになりそうだったから言わなかった。
警察は市内で連続する行方不明事件に関連する事件だと言うことで、アケボノ町近辺のパトロール強化という方針になるらしいことを聞いた。うちのカフェにも警官による監視がそれとなく入ることになり、町内は一気にものものしい雰囲気になった。犯人はアカネには手出しはできないだろう。だが…
アカネは確かにあの時消えた。化け物とともに。そして戻ってきた。あれはどこからどう見ても、アカネだ。しかし、何かが違う。俺の頭には、湯島ナツキの言葉がこびりついて離れなかった。
−−妹は、化け物に取り憑かれていると思うんです。
−*−
「あっ!コウちゃん!おはよう!心配したよ〜!アカネちゃんの具合が悪いから休むってとつぜん」
「あっ…睦ノ宮くんおはよう…!」
教室に入ると、近條シュウがいつもどおり声をかけてきた。
と…横にいるのはクラスメイトの
「おはよう。心配かけたな。アカネは大丈夫だ。今は親父が見てる」
「そ、そうなんだ!良かったよ〜!」
シュウはどことなくぎこちない感じの受け答えだ。俺は昨日の詳しいことはまだ言っていないが、耳が早いシュウならば、アケボノ町一帯で警察がものものしい動きをしているのを知っているだろう。
「シュウ、悪いな昨日LINE返せなくて。部活も」
「うん。平気平気。コウちゃんあのさ…」
「後で話そう。俺もシュウに聞きたいことがあるんだ」
俺はちらりと、シュウの横で俺と女友達の顔を忙しく見比べている小動物のような屋代芽有を見た。日本人離れした、鼻筋が通った顔立ちや白い肌、色素の薄い茶髪も助けて、みんなからはメアリーと呼ばれている。名前を訓読みするわけだな。ドイツ人ハーフのような見た目のくせに背も低く、腰も低い。あまり自己主張しないタイプでおまけに超がつく泣き虫。全く違うタイプだと思うんだが、なぜかシュウとは仲がいいみたいだ。
「なんか話してたんじゃないの二人」
俺はカバンの中身を開けながらそう言った。
「うん!ちょうど良かったよ。あのね、コウちゃん昨日さ、白い犬の話してたよね?電車で見たってやつ」
俺はどきりとした。
そして弾かれたように記憶が蘇る。白い犬。そうだ、あれは幻覚なんかじゃないはずだ。
山の中、月明かりが柔らかく差し込む広場にいたその少女。真っ赤な瞳と獣の耳のついた銀髪。古めかしい言葉遣い。そうだ、あいつは何か言ってなかったか。何か…。
「メアリーがね、聞いたことあるんだって。私としたことが…こんな近くに証言者がいるなんて不覚!」
「何だと。本当か屋代さん」
「うん。
−−貴様…我ら誇り高きオオカミをつかまえてイヌコロ呼ばわりか。
あの少女の、頭の後ろの方に響くような声を思い出す。
「そうなのか。
「メアリーはこう見えて神社の子どもなのだ!」
「何でお前がドヤ顔するんだよ…ってそうなのか屋代さん。神社の子なのか。知らなかった」
「クスクス…シュウちゃんって面白いよね。うん、そうだよ。おじいちゃん家だけど、小玄町の八幡神社だよ」
ドヤ顔を決めているシュウにつられてか、どっからどう見ても外人の血が入ってそうなツンとした鼻筋を気持ち高くして屋代メアリーは上目遣いでそう言った。俺は、あの少女の最後の言葉をようやく思い出した。
「屋代さん。ちょうどいい。お願いがあるんだ」
「ふぇっ…!は、はい」
「神社の子なんだよな?教えてくれ」
−−神前の作法も知らぬ
「神様に会う時の作法ってやつが知りたいんだ」
「コウちゃん…?!」
「ふえっ!?」
午後の予鈴が鳴り響き、休み時間終了の5分前を告げた。クラスの視線が刺さったが関係ない。
もう一度、あいつに会わなくちゃ。
はっきりとは分からないが、俺の直感が言っていた。あいつなら何か知っているはずなんだ。
−*−
To be Continued...
*この物語はフィクションです。実在の人物や団体とは一切関係がありませんので、本文中の表現をそのまま受け取ってしまう純粋ピュアな読者の方は、ご注意下さいませ。
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