sequence 1 ろじうらのよびごえ part 3
それからシュウが話したことは確かに不気味だった。
「被害者は現在のところ4人居て、その中の一人女子中学生の話。その女の子には高校生の姉がいて、その姉は妹が戻ってきた後の一連の出来事をツイッターでつぶやいていた」
シュウはスマホを取り出し、画面を眺めながら言った。
「でも今はツイートはなぜだか削除されてるの。ここ一ヶ月つぶやいてもいない。でも…」
そこまで言ってシュウは片目をつむって首を傾げた。こいつは妙にウインクが上手いのだ。ショートカットにした栗毛色の髪が揺れる。小学校から一緒だからあまり意識しないようにしているけど、結構かわいいんじゃないか?
「削除される前にスクリーンショットを撮っていたから大丈夫って言いたいんだろ」
「ふふん」
今度は両眼をつむって鼻を高く上げる。見事なドヤ顔。
ここからはシュウがツイートを交えながら話したことを俺なりにまとめたものだ。
姉のナツキは、行方不明になっていた妹の”あーちゃん”が帰ってきてとても喜んだ。体を医者にも診てもらったが外傷もなかった。”あーちゃん”の記憶は多少混乱していたが、家族に会って泣く場面もあり、何かしらの怖い思いをしたのだとナツキは感じた。(ちなみにナツキは行方不明事件が立て続けに起きていることは知らなかったようだ)
”あーちゃん”は一月ほど学校を休むことになり、家にいた。母はパートを休み、家で療養する”あーちゃん”の側にいた。二日後くらいには普通に会話や食事もできるようになり、買い物に付き添うために外出もしていた。
一週間くらいして、ナツキは近所に住む”あーちゃん”の友人と話をした。帰りを待つ友人たちからのメッセージにナツキは”あーちゃん”が喜ぶことを期待したようだが、反応が少し違った。
『なっきー @natsuki_luv ・6月13日 あーちゃんの友達とばったり会っちゃったから少し話した!みんなもう中学生って感じになってたなぁ〜。吹奏楽部のみんなはあーちゃんのフルートがないとしっくり来ないねっとか話してるんだって。早く帰ってあーちゃんに話そう〜!』
『なっきー @natsuki_luv ・6月13日 やっぱり、あーちゃんまだ疲れてるのかな。友達の話喜ぶと思ったけどなんか無表情だったし。目が全然笑ってなくてなんか怖い。あんなに一生懸命練習してたフルートも吹かなくなったし。早くいつものあーちゃんに戻ってほしい』
ナツキはそこから”あーちゃん”の違和感に気づき始めた。一度もそんなことしなかったのに、新聞を読みたがるようになったり、一人で居る時に一心不乱に自分の服や持ち物のにおいを嗅いでいたりする。歯磨きをするナツキのことを遠くからじっと見つめるのが鏡ごしに見えていたり。
まだある。
『なっきー @natsuki_luv ・6月17日 あーちゃんのお気に入りのスヌーピーのマグ全然使わないからおかしいなと思って「これ使わないの」って聞いたら「うん」って言うから「おかしいね絶対これしか使わなかったじゃん」ってちょっと怖いけど聞いてみた。そしたら「へぇ、じゃあ、つかう」って言った』
『なっきー @natsuki_luv ・6月17日 「じゃあ、つかう」って言った時のあの時の妹の目とか棒読みの言い方とかめっちゃ怖いてか「じゃあ」って何 まじで何なの意味がわからない。どこからどう見てもあーちゃんなのに、なんか、言いたくないけどあーちゃんじゃないみたい。ホントに怖い無理吐きそう』
『なっきー @natsuki_luv ・6月17日 お母さんに話した。考えすぎって言われた。なんでお母さんもお父さんも気付いてないの?「妹は元気だし何も変わらないわよ」って。お母さんももしかしたらおかしい?てかおかしいのはあたし?怖いんだけど。無理』
俺は想像した。
自分の親しい誰かが、ある日突然別の何かになってしまうこと。
好きだったもの、周りが知っている癖、言いそうな言葉、言ってほしい言葉。
姿形はそのままなのに、何かが違う。まぁそれは確かに…
「ゾッとするよね。きっと」
知らず知らずに顔を歪めていたらしい俺にシュウが言った。いつの間にか俺たちの周りにはギャラリーができていて、ちょっとした怪談ライヴだ。「なにそれこわ」「えーどういうこと」「妹入れ替わってんじゃん?」「えーあり得ないっしょ」クラスのみんなが口々に感想を言い合っている。
「まぁでも、記憶も混乱しているっていうし、そういうこともあるんじゃないのか。かなり怖い思いして精神に異常を来してるとかさ…」
俺たちって、どうしてこう、ゾッとした時とかにもっともらしい理由を考えて納得しようとするんだろうな?この時の俺もそうだったのかも知れない。
キーンコーンカーンコーンというお馴染みのチャイムが鳴った。朝のホームルームまであと五分の合図だ。俺たちの周りのクラスメイトが自分の席に戻っていく。
シュウは周りのギャラリーが居なくなったくらいに声を潜めて言った。
「取材しよ!」
「やっぱりそう来たか」
「このナツキちゃん、私の知り合いの友だちなの!」
「連絡とれてるのか?」
「うん。今日の放課後。三津岡駅で待ち合わせ。コウちゃんも気になるんでしょ〜?!」
そうそう、言ってなかったけど俺たちは”新聞部”なんだ。
俺はこの幼馴染に奇妙な事件の記事ばかりを書かされているしがないライターだ。こいつが俺に怖い話をする時は、決まって取材の前フリ。俺はスマホの裏に貼ったアカネのおつかいのメモを見ながら言った。
「少し用事があるんで遅くなるなら先に帰るが、いいか?」
「いいよ!やった〜!」
周りのクラスメイトの視線が痛いけど、無頓着な幼馴染は気付いてなかった。
To be Continued...
*この物語はフィクションです。実在の人物や団体とは一切関係がありませんので、本文中の表現をそのまま受け取ってしまう純粋ピュアな読者の方は、ご注意下さいませ。
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