第23話

 桃太郎、無事生還。


 お供も刀も持たず、爆弾めいた紙袋を一つだけ持って鬼ヶ島に乗り込み目的を達成することができた。


 暴言を吐いたときの義母のあの顔ったら・・・。


 今までの鬱憤を晴らすには物足りないけれど、最期に言いたいことが言えて本当によかった。そう思うと口角が少し上がった。夫を義母の腹に帰してやることもできたし、もう想い残すことは何も無い。


 さて、これからどうしたものか。腐った夫のいる家になんて帰りたくないし、他に帰ることができる場所もない。夕方近くになってもまだ衰えていない太陽。アスファルトから立ち上る熱と顔にかかる生ぬるい風を感じて徐々に生命力を奪われるような感覚に陥る。


 私が萎れている時でも、鉄とアスファルトでできている歩道橋は力強い存在感を持って目の前の道路に君臨している。その逞しさに縋りたくなった私は歩道橋の階段を上る。


 いろいろなことに疲れ切った体は、もう足を上げることすら拒否し始めている。死刑になるときってこんな感じなのかな・・・。いつか見ることになるかもしれない処刑場の階段を上る予行演習のように、ゆっくりゆっくり一段一段丁寧に上った。


 喘ぎながら歩道橋の一番上に辿り着いたとき、ごうっと鳴く一陣の風に体を煽られた。血の臭いが混じったその風が通り過ぎる瞬間、耳元で誰かが甲高く笑った。


 私もつられて笑った。溢れ出した涙をそのままにして独り大声で笑い続けた。


 

 

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夫、贈られる 千秋静 @chiaki-s

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