第22話
鬱陶しいことが続くもんだと、うんざりしながら常に置いているサンダルを履いて玄関ドアのロックをわざとゆっくり解錠した。
ぐっとドアを開けたと同時に、外の熱気がむっと襲いかかってきた。会話もせず早くドアを閉めたいと思うほどの激しい熱量に反して、憔悴して温度を感じさせないような顔をした嫁が紙袋を持ってそこにいた。
「どうしたの?まだ何の準備もできていないんだけど、何なの?」
「・・・」
こちらを見ているだけで嫁は何も言わない。
「ねぇ、あんたどうし・・・うっ!」
様子がおかしい理由を聞こうとしたら、嫁がいきなり私のお腹に紙袋を強く押し付けてきた。咄嗟にそれを落とさないように紙袋を抱えてしまったから、何が入っているのかわからないようなものを意図せず受け取ることになってしまった。相手は腕を動かした以外、他に体も表情も動かさず目だけをしっかり見開いている。いつもとは違う異様さに言葉を封じられてしまう気がしたから思い切り声を張り上げた。
「ちょっとあんた、何のマネよ!ちょっ」
「うるせぇよ、クソアマ」
嫁の言葉が一瞬理解できなかった。理解できるまで三秒は時間がかかったと思う。その三秒の間は外の暑さも忘れて固まってしまった。憎たらしい嫁の言葉ごときに私の言葉が遮られたことに驚き過ぎて声も出なかった。
その間に嫁はくるりと背を向けて帰っていく。真夏の日差しの中、ゆらりゆらりと歩いて敷地から出て行ってしまった。
まるで物の怪だ。白昼夢に現れた物の怪に魂を抜かれたかのように、私は重たい紙袋を持ったまま玄関でしばらく立ちつくしていた。
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