第9話

 案外弱い奴なんだと、呆れて腹が立った。


 私に悪いことをしているという実感はない。これくらいで潰せるならもっと早くに仕留めておけばよかったのだと反省してしまうくらい、それはそれはあっけらかんとした暴力だった。


 床で声にならない声をあげて伏せている夫を見て、ゴキブリのようだと感じた。


 殺虫剤をかけても死なず、いつまでもしつこくもがき続けるあの姿を連想させ不快になった。


 死ぬ間際まで人を不愉快にする男などこの世に存在しない方がいいに決まっている。世のため自分のため、私は夫の頭を狙って再び椅子を振り下ろした。

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