第7話

 リモコンは私のこめかみの辺りに当たって床に転がった。


 「お前、女として生まれてきた意味あんの?子供も産まずになにしてんの?」


 その言葉だけははっきりと聞こえた。いろいろな感情が渦巻いてぐらんぐらんと揺れているような状態の頭では、夫が発した言葉の全てを聞き取ることはできなかった。ただナイフのような言葉だけは悲しいほどしっかりと聞き取れた。そして私の心を殺した。


 その後にも夫は何か言っていたようだが、もう覚えていない。


 しゃがみこんで蹲っている私の目には何故だかダイニングの椅子の足が妙にはっきりと映っていた。


 綺麗に整えられた四つの角。木目の艶。普段気付くことのない椅子の美しさに目を奪われた。






 ジィー・・・ジィー・・・・ィィィィィィィ・・・。






 私の世界だけに訪れた静寂と、辛うじて現実との繋がりを示す急な耳鳴りが私を変えた。


 その瞬間、獣になった。


 


 


 

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