1-幕間2《凡人の底力》
世の中の人々は、いくら努力しても経験を積んでも、自分より相手が優れているのを見かけると『天才』という言葉で片付けてしまう。それが成人したばかりの少年少女なら尚更だ。
――天才という言葉を、そんな軽々しく使うんじゃねぇ。
その少年はまさに、側からみれば天才と言わざるを得ない
――才能が無い人でも努力すれば才能持ちと互角にやり合えるハズ。人の努力も知らねぇのに天才って言葉を軽々しく使うんじゃねぇ…
大人達は彼を
だが彼は
『お前は平凡だ。良くも悪くも普通。だが俺は違う。周りからは天才と呼ばれ、実際俺は強い。平凡が天才に勝つなんて絶対にあり得ないんだよ』
彼の最も嫌いな人物の言葉を思い出し、
思わず歯軋りしてしまうが、「アル?」と不意に隣から声がかけられ意識を強制的に呼び戻される。
「あぁ、エナか。ごめん、少し考え事をしてた」
アルと呼ばれた少年は、隣の少女―――エナへその言葉と共に謝る。エナは頬をむぅっ、と膨らませ不貞腐れた様に口を開く。
「またアイツの事なの?」
「まぁな」
仏頂面な表情で答えるアルに、エナは深く溜息をつく。
「アンタはいつも変わらないわね。別にもういいんじゃ無いの?アンタの努力を知っている人はいるんだし」
「それじゃダメなんだ」
アルは眉間に皺を寄せ、エナに淡々と語る。
「いいかエナ。アイツはあの時俺達を見下して言ったんだぞ?『平凡が天才に勝つなんて絶対にあり得ないんだよ』って。それでイラッてくるだろ?」
「まぁ確かに私も少しイラッてきたわね」
「だろ?天才って周りから褒められたが故に、アイツは凡人を見下すようになったんだ。まるで自分が1番偉いみたいな言い方で!マジでイラつくんだよな!」
「う、うん」
「それで俺は決闘を仕掛けた。あぁ!呆気なく負けたよ!そりゃ見事に!マジでイライラするよな!」
「ちょっと…声が大きいわよ…!」
アルの言う
「私は今、アルに対してイラついてますが?」
エナは笑みを浮かべるも、眉はピクピクと動き、その笑顔の先にある暗いものを見たアルは冷や汗を流し、「あ、あぁ。お、俺が悪かったから許してくれ…」と懇願する。
「はぁ…まぁ気持ちは分からないでも無いわよ…アイツに次こそは勝ちたいっていう気持ちも。それに自分は精一杯努力したのにそれを
エナはアルの苛つきの原因でもある事実を述べる。アルはそれを無言で聞いていたが、やがて目の前のテーブルに深い溜息と共に突っ伏し項垂れる。
「そうなんだよ〜。俺とエナの努力を知っているのは極一部の人達だけ。それって理不尽だと思わないか?」
「うーん…別にそうでもないけど…?」
「エナはもうちょっと自分に自信を持ったらどうなんだよ…」
情けない声でアルは口を開く。アルは次に
「なぁなぁ、もうすぐアレが始まるらしいぜ?」
「はぁ?アレってなんだよ。もっとハッキリ言ってくれねぇとわかんねぇよ」
「おまっ!?まさかアレを知らないのか?『アルタリア魔闘武祭』の存在を!」
「それくらい分かるわ!最初からそう言えクソ!」
「なんだと―――」
なんだか隣が物凄くうるさいが、エナは気にした素振りを見せずに会話の中に出てきた1つの単語について口を開く。
「『アルタリア魔闘武祭』ねぇ…やっぱり今年も始まるのね。でもなんか暑苦しそうだし面倒臭そう。ねぇアルもそう思わ「それに出よう」」
突然話を中断されたかと思ったら、アルから思ってもみない言葉が発せられ「は?」と思わずエナは口をポカンと開けてしまう。
「俺が、俺達が証明するんだ。凡人も天才に一泡吹かせられるって所を!」
「ちょっと待って。俺
「え?勿論その通りなんだが?」
何言ってんだコイツ見たいな表情で言われ、エナは先程以上に苛立ちを覚えたが今年から成年ということもあり、その感情の昂りを理性で抑える。エナは大人になったのだ。
「はぁ…結局私は巻き込まれる側なのね…」
エナは苦労人である。アルとは幼馴染みであり、小さい時からアルの奇抜な行動に巻き込まれる羽目になっている。まぁだがアルは何事にも全力なのだ。今も決闘で打ち負かしたい相手がいる為に努力し、周りに示す為に大会に出る。決してそれは悪い事ではない。寧ろ昔からエナはアルの良く言えば1つの物事に全力で取り組む、悪く言えば猪突猛進な部分に関しては協力的で、巻き込まれながらもアルを支えてきている。
――まぁアルもここまでやる気を見せてるわけだし…私も頑張らないといけないわね。
エナはアルの姿を見る。アルは大会に向けてなのか、鼻息を荒くしテーブルに両手の指を立て、模擬戦?らしい事をしていた。
その様子に可笑しくなり、思わず笑ってしまうエナであった。
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