1-幕間1《無能才女の槍使い》
『何故こんな事も出来ないんだ!』
――ごめんなさい。お父さん。
『お前に才能はない』
――うん。私には才能はないの。何も出来ないの。
『お前はこの家の者とは認めない。今すぐこの家から出ていけ!』
――私なんていらないよね。…ありがとう、お父さん。
『『―――!!』』
――お母さん、ミリア、いいの。これも私が何も出来ない所為なの。だからそんなに悲しまないで――
***
「嫌な夢を見た…」
少女―――アリシアはそんな夢の途中で目を覚ます。
――お母さんとミリアは元気かな…お母さんは不器用で料理も不味いけど…流石に成長したのかな…?ミリアも目標に向けて頑張っているかな?
アリシアは、夢で久々に思い出した母と妹の姿を想像し、笑みを浮かべる。だがその笑みは徐々に真剣な顔つきになり、夢に出てきた1人の男を思い浮かべる。
「お父さん…」
アリシアは実の父に家を追い出された時の記憶を思い浮かべ、先程の優しい笑みとは打って変わったような表情になる。だがその表情にあるのは怒りや恨みなどの感情ではなかった。
――お父さん、決して感謝…という言葉は到底口には出せませんが決して、お父さんを恨んだりはいません。
アリシアはベッドから起き上がり、部屋の横に置いてある物を目に捉える。
そこに置いてあったのは2本の
――私には才能が無かった。でも可能性は1つでは無かった。そう、私には
***
此処はとある森の最深部であり、そこには小さな小屋があった。当然最深部なので、まず普通の人なら魔物の危険性もあり、森に近付こうとすらしないだろう。たとえそれが冒険者であっても、森の最深部付近は何が起こるか全く予測出来ず、遭難の可能性もある為近付くものはいない。
そんな普通は誰も寄らない森の最深部に、小屋が建っている。魔物が徘徊している森に小屋が建っていて大丈夫なのだろうか?普通ならば誰もが疑問に思うだろうが、此処に関してはその心配は無用である。
小屋の裏に大柄な熊の死体が置かれていた。それが小屋に魔物を寄せ付けない原因である。
森の主。
魔物の世界でも、基本は弱肉強食であり、強者であればその頂に辿り着ける。その頂に辿り着いた魔物がその大熊。
魔物達は本能的に悟ったのだ。この小屋の中に森の主を倒した何かがいる…と。当然、森の中で最強のその大熊よりも強い
その大熊を葬った本人が
***
「アリシア…?どうだい?僕の作ったスープは。昔よりは大分マシになったんじゃないかな?」
「
「なんだい、アリシア…?」
等のその少女は、そんな魔物達の気持ちなど知らず…いや、魔物に感情などは無いのだが。小屋のリビングのテーブルには、アリシアとその対面に座る青年の姿があり、どうやらその青年が作ったらしいスープを飲んでアリシアは、何処か含みのある言葉を発した。やがてアリシアは目を見開き、声を荒げ口を開く。
「味が薄いんですよ!昨日は塩の味しかしなかったけど、今日は素材の味しかしないんですけど!極端なんですよ、レオンさんは!」
レオンと呼ばれた青年は、アリシアの鋭い指摘にうっ、とたじろぐ。レオンは料理が苦手なわけではない。寧ろ人並み以上に料理の技術はある。ただ壊滅的に味付けの
「本当に…5年も過ごして私も教えるだけ教えたのに…レオンさんに任せるとどうしてこうも極端な味付けに…」
「そ、それは悪かったよ…――だけどアリシアはそんな僕とは違って徐々に腕を上げてきている。正直に言って今はほぼ敵なしと言っても過言では無いんじゃないかな?」
「そ、そんな事無いですよ…これも私の才能を見出してくれて、槍術を教えてくれたレオンさんのおかげです」
アリシアはレオンの素直な称賛に、照れたように頬を赤くする。
「そんなんだよ。アリシアには槍の才能があるってのに…君の父親ときたら…一発ぶん殴りたい気分だね」
「別にもう気にしてませんから!今の私には槍があります。それに《双槍》の技術をそのまま教授してくれて、感謝しかないです」
今度はアリシアの素直な感謝の言葉に、レオンが照れたように顔を俯かせる。
「でも、そんなアリシアももう15歳で成人だ。何かしたい事はあるのかい?」
「んー…特には無いですね。家族に会うのもまだ早い気がしますし」
「なるほど」
アリシアの言葉にレオンは素直に頷く。
暫くの間沈黙が続くが、アリシアは「あっ」と声を上げる。「どうしたの?」とレオンが口を開こうとする前に、アリシアが口を開く。
「私、もっと槍術を極めてお母さんや妹を安心させてあげたいです!私は大丈夫、こんなに強くなったんだよーって。そしてお父さんに違う道を歩んだけど、努力してここまで成長した姿を見て欲しいです」
「うんうん」
アリシアの言葉に納得するようにレオンは頷く。「なら…そういえば」とレオンは奥の引き出しを開いて中身を漁る。アリシアが疑問符を頭に浮かべると「あったあった」と何かを取り出す。そこには1枚の広告の紙があった。
「アリシア、これに出てみない?」
「なんですかそれ…?えーっと…『アルタリア魔闘武祭』出場選手募集のお知らせ…?」
見知らぬ言葉に頭の疑問符が1つ増えるアリシアに、レオンは苦笑しながら「そうだよ」と答える。
「要するにアリシアは今よりも更に強くなりたい…って思ってるわけだよね?」
「はい」
「この『アルタリア魔闘武祭』っていうのはアルタリア…通称武の街って言われてるんだけどそこで年に1回行われる武闘大会なんだよ。そこに行けば色々な人がいるし、アリシアの成長にも繋がるんじゃない?」
「アルタリア魔闘武祭…」
レオンの説明にアリシアは、暫く考え込むが決心したようにレオンに告げる。
「出ます!アルタリア魔闘武祭に!」
この言葉が同年代の槍士を引き合わせる事となる―――
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