1-14《高速の四連撃》

 その後、その男―――ルーカスと名乗った男とソフィアとで、何処で戦うかを話し合おうとソフィアは告げるが、ルーカスは淡々とした風前で言葉を発する。


「あぁ、アンタはギルドに登録したのも今日だったんだっけか?実はギルドの地下に冒険者用の訓練場があるんだよ。そこなら割と派手にやらかしても、魔法結界でコーティングされてる壁があるから崩れることはないんだ」


 その初めて聞いた真実に、ソフィアは目を丸くするが、気持ちを切り替え口を開く。


「そんなところがあったのですか…そうですね、そうしましょうか」

「よし!じゃあ行くぞ!」


 ルーカスはニッと歯を出して、親指を立てて笑う。それに釣られてソフィアも、表情を緩め微笑む。

 この空間には、先程までの張り詰めた空気は既に無かったのだった。



 ***



 時刻は既に夕方。ギルド内の受付のある部屋には、依頼を終えた冒険者の姿や、その隣に隣接してある酒場で賑やかに一杯やりあう者、様々な人達で賑わっていた。

 

 当然訓練場にも人はいるわけで。




「お、おい、アレを見ろ!」

「あ?んー…アレは…もしかして金IIIランクのルーカスじゃないか!?」

「それに剣を構えているぞ…それにあの銀髪の白い槍を持ったあの少女は誰だ…?」

「俺意外とあの子タイプかも」

「分かる。てかめっちゃ美少女だな」

「貴方達、何やってるのかしら…?」

「「ひぃぃ……!!!」」


 水色の剣身の片手剣を構える男性―――ルーカス。


 対して純白の槍を構え相手の動向を探る少女―――ソフィア。


 金IIIランクで有名な人物と、見知らぬ美少女の槍使いが対峙しているのである。

 当然集まるのは依頼を終えた男女の冒険者達。

 

―――どうしてこんな事に…


 ギルドを出た後から跡をつけられ、その怪しい男に突然戦闘を頼まれ、そして今周りには多くの冒険者達がソフィア達に注目しているのである。

 

 思うところは沢山あった。いや、思うところしか無かった。


 それが事の始まりであった―――



 ***



 ガヤガヤと賑わいを見せていたソフィア達の周囲は、次第に鎮まり返り、張り詰めた空気だけが場を支配していた。


―――トンッ


 先に仕掛けたのはソフィア。

 地面を軽く踏み込み、低い姿勢で右手に純白の槍を持ちルーカスの元へ駆ける。

 

 槍の優位性はそのリーチの長さこそである。そのリーチの長さを活かし、ソフィアは全力でルーカスに高速の突きの先制攻撃を放つ。

 

―――《リーニア》。


 瞬間的に、一直線に。速さと鋭さだけを高めたそれは、究極のである。


 その突きは、並の戦士なら見えないだろう。ソフィアはその年で、そこまでのレベルに上り詰めていた。

 

 だが相手はの戦士。その突きを見極め、構えていた水色の剣でその槍を受け流すだろう。


 そうソフィアは思っていたのだが。


「嘘っ!?」


 ルーカスは、その槍を受け流す事はせずに後ろへ大きく跳躍したのだ。

 そして、剣を地面と平行になるように構え突きを横に躱す。それは槍使いにとっては一番危機的な状況。槍の間合いに入られる事だった。


「《アクアリス充填チャージ》」


 その瞬間、その剣が水色に発光する。


―――ヤバイっ!?


 ソフィアは《リーニア》の勢いを、無理やり殺すように右足を地に踏み込む。反射的に槍の柄を両手で掴み、正面に構える。


 それはほぼ同時だった。


 ソフィアの防御の構えと、ルーカスの剣の攻勢。槍の正面に剣の重さと勢いが直接伝わり、その勢いに大きな砂埃が上がる。


 周囲には見えないが、ソフィアは苦闘の表情を浮かべ、咄嗟にバックスピンで後ろに下がる。


―――これが対剣との戦闘…


 ソフィアは今まで、ダグラスとの特訓で槍使いとしか戦った事が無かった。つまり剣士との戦闘はこれが初であり、剣に対する知識もあまり無いため、ソフィアは実力を活かせないでいた。


『もっと色々な事に関わりを持ったり、いろんなことを見たり、経験したり…な。その経験が思わぬところで役に立つことなんて、しょっちゅうあるしな!』


―――成る程…そういうことね、父さん。


 ソフィアはダグラスの言葉を思い出した。

そして少しの間目を瞑り、やがてその目を開く。その目は先程までとはまるで違う、真剣な色を浮かべていた。

 ルーカスは少し驚いた表情をしながらも、すぐに表情を戻し剣を構え直す。


―――見たり、経験したり、…早速そのチャンスが来たってことなのかな…


 ソフィアとルーカスは同時に駆け出す。地面を蹴る音がシンクロする。


―――キィィィイン!


 互いの金属が交わり周囲に耳をつんざくような音が鳴り響く。


 周囲の者の中には、その耳に障る音に耳を抑える姿が見えた。


 その空間には金属が交わる音だけが響き、次第にその勢いは増していく。ソフィアは槍のリーチを活かし、時に槍を回転させ様々な方向からの攻勢を繰り出し、ルーカスも的確に槍の攻勢を受け流し、懐に入り込む隙を探る。


「はぁぁぁぁあああっ!!」


 再びソフィアの突きが放たれる。それは先程見た《リーニア》であり、当然先程と同じように後方へ跳躍し、ルーカスは槍を横に躱す。


「…っ!?」


 だがソフィアもその戦術は既に

 その突きはルーカスが横に避けた時には、既に引っ込まれており即座に2回目の突きは放たれ、ルーカスは、正面に剣を防御の構えで受け止める。


―――………おっも!?


 その槍の重さに顔を歪めるルーカス。その一撃で姿勢が少し崩れるが、それを見過ごすソフィアではない。

 その突きはまだではない。一切のブレを見せずに3回、4回と強烈な突きをお見舞いする。

 高速の4連突き―――《カドラプル・リーニア》を正面から食らったルーカスは、後方に地面に沿うように吹き飛ばされ前傾姿勢で体勢を立て直す。


―――《カドラプル・リーニア》をまさか正面から受け止めて、それに姿勢を崩すだけなんて…


 ソフィアは全力の4連撃を受け、姿勢を大幅に崩したもののそれを受け止め切れたルーカスに、驚きを隠せなかった。だが戦闘はまだ終わっていないと気を引き締め、相手の動向を探るようにルーカスに目を向ける。

 対するルーカスも崩された体勢を立て直し、剣の構えをとるがその表情には焦りの色が見て取れた。


―――久し振りだ…まともに誰かから攻撃を食らったのは。


 ルーカスは、正面にいる槍を構えた銀髪の少女を見据える。


―――強者だとは思っていたが、これは想像以上だな。そしてその相手が成人していない、少女………これはマジでやり合わねぇと負けるぞ。


 それはルーカスが初めて見せた、獣を彷彿とさせる獰猛な笑みだった。

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