1-13《不器用な男》
―――どうしてこんな事に…
目の前にいるのは、水色の剣身をした片手剣を持つ男性の姿。
対してソフィアは、純白の槍を構え相手の様子を探る。
周りには多くの野次馬達が集まっている。
ここは冒険者ギルドの地下の訓練場である。広さは中々のものであり、ソフィアとダグラスの使う木に囲まれたそこの倍以上の広さだ。
その人に囲まれた空間の中心に、互いに対峙し合う2人。
「さあ!どっからでもかかってこい!」
何故このような状況に陥ったのか、それは約3時間程遡る―――
***
ギルドカードの登録を済ませ、やる事が無くなったソフィアは「どうしようかな…」と周りをキョロキョロと見渡す。
「ん?」
見渡した先にあったのは、ギルドから見て右斜め前辺り。
ギルドの看板と少し似た感じの、剣の彫りが描かれている模様だ。そしてその上の看板には、
「『メルフィス武器工房』…?」
要するに武器屋である。その店を見て、ソフィアは少し考える。
―――今はこの槍を使いたいし…特に買うものはないけど…
ソフィアは、今持っている純白の槍に馴染んでいる事もあり、今更お気に入りの槍を変えるきは全く無い。
―――だけど…時間もあるし何があるか分からないから、見るだけならいいよね?
そう自分に言い聞かせるように、1人でに頷き武器屋へと向かうソフィアであった。
***
―――ガチャ
と扉を開けて武器屋へと入るソフィア。だが前のカウンターのところには、店員らしき姿は見えなかった。
「あれ?店員さんはいないのかな…?…まぁいいや、取り敢えず槍は何処にあるかなー」
店員の姿が見えない事を、あまり気にした様子を見せずに、槍が置かれている場所を探すソフィア。
やがてその場所は見つかり、ソフィアはそれらをまじまじと見つめる。
―――いろんな種類の槍があるんだ…これも槍なんだ…凄いなぁ
そう思考を巡らせていると、不意に店の扉がガチャと、開く音が聞こえる。
「全く…アイツは本当に懲りないやつだ―――っ!?…………」
扉から現れたのは、40から50くらいの男性だった。その男性はソフィアの姿を目に捉えると、一瞬驚いたような顔をしてすぐに何かを探るようにソフィアを凝視する。
「あ、あの…勝手に入ってすみませ…」
ソフィアは自分が何かをしたのかと、必死に原因を考え店に誰もいないのにかかわらず、入った事に怒っているのではと考え、咄嗟にその事について謝ろうとするがその男性は、「お前」と言ってソフィアの言葉を遮る。
「はい…?」とソフィアは何故呼ばれたのかが分からず、頭に疑問符を浮かべる。
そしてその男性はフッと笑みを浮かべ、
「お前…『デキる』な」
「はい?」
その発言に言っている意味が分からず、さらに疑問を深める。
その男性はやがて激しく笑い、
「いやすまんすまん。俺も長年武器に関して扱っている癖か、相手の度量を見定めてしまう癖があるんだ。その人物の立ち居振る舞いとか色々なモノを見てな」
「はぁ…」
「それで分かったんだ。お前はとてつもない物を持っていると」
その言葉に意味が分からないと、首を傾げるがその男性はガハハハハと盛大に笑い「まぁ気にすんな、こっちの話だ」と言い視線は、ソフィアの槍に注がれる。
「その槍、お前のだろう?少し見せてもらっていいか?」
「あ、はい。いいですよ」
そう言ってソフィアは、その純白の槍をその男性に渡す。
その男性はその槍を持つと、「ほぉ」や「ふむ」と言った声を上げ、視線を変えながらもその槍を見ていた。
やがてその男性は満足したように「もう大丈夫だ、ありがとな」とその槍をソフィアに返し、ソフィアはそれを受け取った。
「あと申し訳ないんだが…これから少し野暮用でな、少しこの店を閉めないといけないんだ」
「あっそうなんですね。じゃあ私は店を出る事にしますね」
「色々とすまんな…」
「大丈夫ですよ!私も色々な物を見れて満足出来たので」
そう言ってニコッと微笑むソフィアに、「そうか」と一言返す男性。
そして男性は、店を後退ろうとするソフィアに向かって声をかける。
「あっ、お前の名前を聞いてもいいか?」
その言葉にソフィアは振り向き、キョトンとした顔でその男性を見ていたが、やがて微笑み、
「ソフィアと言います」
と一言。
その言葉に男性は、満足げに頷き口を開く。
「そうか!俺はラードンと言う者だ。察しはついているかも知れないが、ここの店主をしているな。店名の『メルフィス』も俺のファミリーネームだからな。まぁなんだ…また来てくれよな」
「はい!」
男性―――ラードンの言葉に、ソフィアはそう返事をして店を後にした。
***
―――さて…
ソフィアは思案する様に目を瞑り、やがて街の道なりに沿って進む。
―――これは確定かな…?
ソフィアは10分程歩きながら、そう考えやがて街の路地へと向かう。
路地の奥深くへと来た時、ソフィアは誰もいない空間で口を開く。
「分かっていますよ。ずっと
ソフィアは感情を殺し、鋭い目線でずっと感じていた
やがて路地にある建物の裏から、鞘に剣を収めた剣士然とした姿の男性が現れた。
「いやぁ…まさか気付かれるとは思っても無かったが…」
「何が目的なんですか…?」
ソフィアは更に目を細め、相手を威圧するように睨む。右手は腰に掛けてある槍に手を伸ばしており、いつでも戦闘態勢に移れるようにしてある。
「―――っ!?っちょ!ちょっと待ってくれ!誤解だ!別にアンタを誘拐しようとかするつもりは無いんだ!!!」
「じゃあ何が目的なんですか?」
その男性の言葉に疑問を覚えながらも、その鋭い目線を抑えずにその疑問を問いかける。
「お、俺と戦ってくれないか!」
「はい?」
言っている意味が分からず、思わず素っ頓狂な顔と声になるソフィア。発せられた威圧もおさまり、その男性はホッと胸を撫で下ろし口を開く。
「俺は剣士なんだが伸び悩んでてな…今日も意味なくギルド内の酒場にいたんだがそこに急に君が現れたんだ。俺はこれでも金IIIの冒険者でな。相手を見る目には自信があるんだ、そして思った。君は明らかに
先程も同じような事を聞いたような気がするが、ソフィアは槍に伸ばしていた右手を下ろしその男性に聞く。
「はぁ…分かりました。…跡をつけるなんて真似はせずに普通に話かければ良かったんじゃ…」
「…んだよ」
「え?」
その男性が何かを発するが、ソフィアの耳には最後の部分しか聞こえなかった為、ソフィアは男性に聞き返す。
その男性は顔を赤らめて、先程よりは大きいがやはり小さな声で、
「女と話すのが…その、あんま得意じゃないんだよ…」
ソフィアの跡をずっとつけていた怪しい男性。そして跡をつけていた理由が、話すタイミングが無く、本人自体女と上手く話すことの出来ない。
所謂その男性はコミュニケーションが不足しているのである。主に女に対して。
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