1-10《才の娘と、最の姉と父》

 その後なんやかんやあって、ソフィアのこれからの育成計画を立てていた。

 セレナも考えるのを放棄し吹っ切れたようで『ソフィア最強の戦士育成計画』に加担していった。

 


 ***



「ソフィ!実際に魔法を使ってみましょ!」

「うん!」


 そういってソフィアとセレナは木々に囲まれた空間の中心に立っていた。


「基本はさっき説明した通りよ、魔法にもレベルがあって初級や中級など、それぞれね。取り敢えず水属性の初級魔法を使ってみましょうか」


 そうセレナが言い、ソフィアは頷いて腕を伸ばす。


「じゃあいきます」


 そう言って、ソフィアは水属性の初級魔法を頭に思い浮かべる。


「『アクアリス』」


 水属性の初級魔法の詠唱を唱え、辺りにソフィアの声が響く。

 すると変化はすぐに訪れる。突然ソフィアの眼前に、比較的大きめの水の塊が現れる。

 その水の塊はやがて重力に沿って落ちていき、地面で弾ける。

 それを呆然と見つめていたソフィア。ソフィアはそのまま顔を上げ、セレナを見つめる。

 セレナはそれに気付き、ニッと顔を綻ばせ親指をグッと立てる。


「やったわねソフィ!これで貴女も『魔法使い』の一員よ!」


 ソフィアはそれを聞き、その顔に喜びの感情を露わにした。



 ***



 その後はソフィアのもう1つの適性、風属性の初級魔法『ヴェンテ』を放った。

 それも当然セレナから高評価で、「ソフィは何処までいくつもりなの…?」と言葉が漏れていた。

 

「じゃあ次は『特異属性』の方ね、こっちの方は少々扱い辛いの。因みに私も特異属性持ちなのよ」

「えっ、そうだったの!?」

「ほらさっきもあったでしょう?突然気配も無しに後ろから私が話しかけたこと、ソフィアなら今は人の気配を感じられることは出来る筈だし」

「…そういえば」


 その時は驚きの方が勝り考えてもみなかったが、ただの魔法使いのセレナが気配を悟られずに2人の背後に回るのはほぼ不可能だろう。それにダグラスもいるのだ、あのダグラスが気付かないのには何か理由があるはずだと、ソフィアは今更ながらそう考えた。


「私の特異属性は【時操】なの」

「【時操】…?」


 セレナの言葉に疑問符を頭に浮かべるソフィア。それに対し淡々と話していくセレナ。


「文字通り『時を操る』能力ね。あの時の仕組みとしては時を止めて、その間に私が背後に近づいたの。時を止めている間は私しか動けないから誰にも気配を探られることはなく近づけるってわけなの。それがたとえダグでもね!」

「本当にあれは心臓に悪いんだ…俺でもセレナ相手には結構神経を擦り減らすな」

「それでも全試合で私はダグに勝ったことはないのよ?これでも《王国魔星》の1人なのに…」


 時を操るというソフィアには想像もつかないような能力と、それに対して全勝しているというダグラスの言葉に、この人たちは本当に凄まじい人だなぁ、としみじみと感じていた。

 …因みにソフィアはその『その凄まじい人たち』の部類に入っていることを知らないのであった。無意識怖い。

 そしてソフィアは『王国魔星』という聞き慣れないワードに対して疑問に感じ、セレナ達に聞く。


「セレナ姉さん、『王国魔星』って何?」

「あぁ…そういえば言ってなかったわね」


 そう言ってセレナはダグラスに「私が説明するのは恥ずかしいからダグお願いっ!」と頼み、ダグラスは「ああ」と了承する。


「『王国魔星』っていうのはな。王国の魔法使いの中でもより優れた7人のことを指すんだ。セレナはその《時星》の名で知られているってわけだな」

「因みに戦士にも『王国武星』というのがあるのよ!因みにダグは元『王国武星』なんだけどね」


 セレナが言った『元』という言葉に引っ掛かりを覚えて、ソフィアは「元?」と聞き返す。


「『武星』と『魔星』の頂点に立つ10人…『王国魔勇十柱』というのがあるの。ダグラスは『武星』から『十柱』に成り上がった槍士なのよ!」


 『王国魔勇十柱』―――それは王国の要であり、柱として国を守護する王国最強の10人のことを人々が称えそう呼んだ言葉。

 これは300年程続く伝統ともいえるものであり、ダグラスがその中の1人と知ってソフィアは、開いた口が塞がらない様子で言葉を紡ぐ。


「え、……それって……父さんってものすごく強いってこと…?」

「そうよ」

「そうなるな」

「それで『魔星』のセレナ姉さんに、『十柱』の父さんから私は戦術を教わってるってことでしょ…?」

「そうね」

「そうだな」

「ふぁ」


 最強の1人と、最強に片足突っ込んでいる1人から戦う術を教わっている事実に、ソフィアは困惑を隠しきれず思わず変な声が漏れてしまっていた。



 ***



「えぇっと…なんの話だったっけ…そうだ『特異属性』の事に関してね」


 ソフィアの落ち着いた様子を見て、セレナは先程までの話の続きを話していく。


「『特異属性』には詠唱がいらないのよ」

「詠唱がいらない…?」


 詠唱とは魔力を魔法に変換するのに必要な、スイッチ的な役割を担う言葉である。それがいらない事に疑問に思っているソフィアに、セレナは訂正するように口を開いた。


「性格には『決まった詠唱がない』と言ったところね…魔法にはイメージが大事なの。実際に物が燃える様子を思い浮かべるとかね。そうしないと誰でも詠唱を唱えれば魔法が発生しちゃうから混乱が起きちゃうのよ」


 「だから」とセレナは、話を進めていく。


「決まった詠唱がない特異属性の魔法は、イメージ…想像力次第で威力も形も使い方も全て変わってくるのよ」


 「でもね」とセレナは人差し指を、ソフィアの眼前に立てて話を続ける。


「『詠唱を作る』ことは出来るのよ」

「えっ、そんなこと出来るの!?」


 ソフィアの純粋な驚きと疑問の混じった声に、セレナは「ま、誰だってそうなるよね…」と苦笑いになった。


「このやり方は『保存』と言ってね、魔法によって起こした事象を詠唱に記憶させるの。そしてその詠唱を唱えればその事象を発生させることが出来るのよ」

「へぇ…」


 ソフィアも大凡理解できた様子で、その話を真剣に聞いていた。そしてソフィアはまとめた結論をセレナに告げる。


「つまり…イメージした魔法を詠唱化させ、それを使いこなせるようにしなさい!みたいな…?」

「そういうことよ!流石ソフィね!」

「えへへー」


 ソフィアの結論を褒め、頭を撫でるセレナ。撫でられて朗らかに顔を綻ばせる銀髪の少女と、慈愛に満ちた笑みでその少女を撫でる金髪の女性。

 側から見れば、とても絵になる光景だろう。


 


 …そんな様子をダグラスは微笑ましく見ていたが、特異属性も持っておらず、魔法に対しての知識もあまりない本人は、先程の話には一切ついていけずに思考を放置していたことは2人は知らなかった。


 


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