1-9《氷結》
「そうなの。一般人は魔力の扱い方を知らないから無意識にも魔力が漏れちゃうの」
セレナの魔法講座はまだ続いていた。ソフィアもその話を真剣に聞いている。
「まぁ魔法使いはその魔力を意図的に循環させることも出来るし、漏れるはずの魔力を使って身体強化魔法や付与魔法に使う…のもあるけれどそれはまだいいわね。それで普通、人の魔力っていうのは時間と共に少しずつ回復するのよ」
「回復………あっもしかして」
「気づいた?要するに人の魔力の回復量が、魔力漏れに対する放出量を上回っているということ」
そしてセレナは「じゃあ次はソフィアの事に関してね」と話を続ける。
「その人の魔力の放出量よりソフィアは、倍以上あるのよ。そして魔力の回復量はそれを上回る……それだけで普通の人よりかなりの魔力量の差が出るってわけ」
魔力の保有量が100として、魔力漏れによる消費量が1と考えると、ソフィアはその一般的な消費量自体を普通よりも圧倒的に超えていっているので、相対的に魔力量が分かるのだ。
「魔力の放出量なんて人それぞれだけどね…まぁそれでもソフィアは魔力量が多いの。うーんっと…要するにソフィアはめちゃくちゃ凄いのよ!」
「おぉ…!!」
何が言いたいのか伝わったソフィアは、喜びを隠さないでいた。
「これで魔力量に関しては大丈夫ね…じゃあ次は『属性』についてね、魔法の基本属性は【火】【水】【風】【土】【光】【闇】の6つあるの、これも潜在的で生まれながらにして決まっているのよ。まぁ例外もあるのだけどこれはまだいいわね」
「なるほど…それでその属性はどうやって調べるの…?」
「んふふー、それはねー?」
何やら気持ち悪い笑みを浮かべたセレナが、何処からか取り出した鞄の中を弄り、あったあった!と声を上げて『それ』を取り出す。
それは球体だった。水色のような若干透明がかっているような、神秘性を感じさせるような物を感じられる。
なんだろうとソフィアはそれをまじまじと眺めているのに対し、ダグラスはその存在に気付き懐かしそうに口を開いた。
「あーなんだかそれ久し振りに見たわ…」
「まー普通なら生きている間に1回使ったら十分だからね」
その球体を持ちながら、セレナはソフィアにそれの説明を始めていく。
「ソフィ、これはね!『魔水晶』という物でその人の魔法適性を調べる為の道具なのよ!」
セレナは元気に説明を続ける。ソフィアも納得したように説明を聞き続けていく。
「これはその人の魔力に反応して色が変わるのよ。複数の属性待ちなら2色分反応することもあるの。…まぁ実際にやってみた方が早いわね。ソフィ、この水晶に手を当ててみて?」
「うん!…んーと、こう?」
セレナの言われた通りにソフィアは、手を水晶に当てる。
その瞬間、徐々に水晶の表面の色が変化していく。それを見てソフィアは綺麗…と思わず言葉を漏らす。
「うーんと…青と緑色になったわね。ソフィ、貴女は【水】属性と【風】属性の適性持ちよ!」
「水と風…」
セレナの言葉にその水晶を見つめたまま、ソフィアはそう呟いた。
それからその水晶の様子を見ていたら、やがて何か気になることがあったのかソフィアがセレナに尋ねる。
「セレナ姉さん」
「ん?」
「何かここに…『模様』が見えるんだけど…」
「「え…?」」
ソフィアの言葉にセレナだけでなく、ダグラスまでもが驚いた表情をしていた。
「ソフィア…お前、槍術の他に魔法の才能もあるのか…」
「えーっと…ソフィ…?本当にその『模様』が見えるの?」
「うん。あ、さっきはぼんやりだったけど今はハッキリと見えてるよ?…セレナ姉さんは見えないの?」
ソフィアのその質問に、セレナは額に手を当てて答える。
「その模様は魔力保有者本人にしか見えないのよ…」
「えぇ!」
セレナとダグラスは顔を合わせて同時に深く息をつく。
「「多分それは『特異属性』よ(だ)…」」
***
『特異属性』―――それは10人に1人という確率で現れると言われる
10人に1人と言うとそうでも珍しくはないだろうが、その属性の種類は基本6属性とは違い、ほぼ無限なのだ。
あとは自分の属性を把握していない割合が多いというものもあるだろう。
この世界は魔物という『悪』が存在し、戦争も起こるような世界である。
魔法は戦闘に使われることから、魔法使いはその属性を把握するのは必然だが、戦わない人の割合が多いのが普通なのでそれを知っている人はあまりいないのだ。
勿論その人達の中にとてつもない才能持ちがいたとしても、結局は個人次第なのだ。国も意欲もないような人を戦場に出させる程、非道でもないし、属性把握は義務ではない為仕方ないと言えるだろう。
因みに『魔水晶』を使った属性把握は、メルアリード魔法士団支部と、聖堂教会と言われるところだ。
使用料も多少はかかるが、それでも属性把握というのは1つのステータスとなるだろう。
セレナも多少なりとも驚いてはいたが、ソフィアか特異属性持ちだから、というわけではない。
要するに槍の才に、魔力量の多さ、遂には特異属性持ちなどが合わさっているという事に頭がパンクしそうなのだ。
やがて再起動したセレナは、ソフィアにとあることを聞いた。
「それでソフィ…?その模様はどんな模様だった?」
「うーん…『雪の結晶』だったかな?」
「雪の結晶…ってことは『氷』系統の属性か?」
「そうでしょうね…ちょっと調べてみるわ」
セレナはそう言って鞄から辞書程の分厚い本を取り出す。
明らかに鞄の大きさを上回るようなその大きさに、ソフィアは目を見開いていたがセレナは気にすることは無くペラペラと紙をめくっていた。
特異属性には1つの特徴がある。それはその属性持ちが『世界に1人しかいない』ということだ。
つまりは特異属性持ちが死んだとすると、その特異属性はどこかのタイミングで現れることがあるのである。
セレナの持つ辞書は、そんな過去の特異属性の記録を全て纏めた本なのだ。
過去に持っていたその人物、水晶に移るその模様、その属性の能力など、細かいところも載っているのが特徴だ。
「あ、あったわ!えーっと…属性名【氷結】…【氷】属性の最上位属性らしいわね…所有者は300年前…前女王陛下クレア=ベル=メルドラード!?」
「その名って、何処かで聞いたことがあるな…?」
「えぇ…《冷徹の女帝》様ね…」
冷徹の女帝―――かつての女王クレアの使用する魔法と、その冷え切った目線と性格から付けられた通り名だ。
実際は極度の人見知りであり、他人と話したくないオーラがそのまま雰囲気として出ていた事実は、今の人達には知ることはないだろう…
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