1-8《魔法講座 入門編》

「ここはこうだ…うん、そうだ。流石だな!飲み込みが早い!」


 ダグラスは、かつてソフィアに言った「全てを与える」発言通りに自分の持ちえる技術をソフィアに叩き込んできた。

 勿論ソフィアもその怒涛の勢い、そしていつも以上にハードな特訓により疲労もあるにはあるがそれでも次々と技術を吸収していくソフィアを、ダグラスは驚きを隠せなかったがそれ以上にダグラスの好奇心を上昇させる。


 …『ソフィアを世界最強の戦士に育てよう計画』は徐々に形をなしてきてようである。



 ***



 そんなとある特訓の日の休憩中。

 ソフィアは、ダグラスに色んな場面を想定した時の立ち回りなどを聞いていた。


「もしこの時、相手が…こうやって動いた時ってどうすればいいの…?」

「ああ、こういう時は…ほら、こうやれば相手の間合いに入らないだろ?」

「ああ〜確かにそうだね。でも相手が剣とは限らないし…」

「まぁまだ実践も数を積んでないし慣れだな。俺とやり合っても対槍しか学べないからな」

「なるほど〜」


 そんな休憩中なのに休憩していない2人は、迫りくる者に気付くことは無かった。



 ***



 そんな2人の背後から、突然声をかけられる。


「2人とも久しぶりっ!」


「「…!!」」


 2人は咄嗟に後ろを振り向く。

 その姿が見えた途端、ソフィアは驚きの顔を露わにし、ダグラスは呆れた表情で『彼女』を見上げた。


「本当に急だな…セレナ…」


 そこにいたのは美しく長い金髪に青目の女性―――セレナの姿があった。

 つばの広い先のかなり違った帽子に、白いミニスカート状のローブ。まさに魔法使い然としたような格好だ。

 そしてセレナの持っている杖は、白銀のような色をしておりその先端は歯車のような形をしている不思議な杖だ。

 ダグラスはセレナのあっけらかんとした様子に、再度溜息を深くつく。


「セレナ姉さん!?!?ってビックリしたぁ…全く気付かなかったよ」

「あはは、ごめんごめん。まぁ私の気配に気付く人なんてそうそういないんだけどね♪」


 そんなセレナの意味深な発言にソフィアは首を傾げるが、そんな様子を気にせずにダグラスは口を開く。


「実に半年ぶりだな…急にどうしたんだ?」

「ほら言ったじゃない!『また機会があったら此処に来る』って!今がその時ってこと!」

「そ、そうか…毎度言っていると思うが突然現れるのは心臓に悪いからやめてくれ…」

「家にいなかったダグが悪いんです」

「それはすまん」

「わかればよろしい」



 ***



「それで…あれからどうなったの?特に生活面とか生活面とか生活面とか」

「おま……んまぁぶっちゃけソフィア様々って感じだな」

「でも父さんも料理の腕をかなり上げたんだよ?」

「へぇ…」

「な、なんだよその目は」


 セレナは、ソフィアが多少料理を出来ることは知っていたのでソフィア任せだろうと思っていたが、ダグラスが料理をするとは思っていなかったため思わずジト目でダグラスを見つめる。

 

「生活面はまぁなんとかなったのね…ダグが料理をするとは思ってもみなかったけど。…あと戦闘面はどうなの…?半年でそんなに変わるとは思わないけど…」

「まぁ実際に見てもらった方がいいだろうな」



 ***



 セレナはポカンと口を開けたまま固まっていた。

 『鳩が豆鉄砲を買ったような顔』をその身で体現したような顔である。


 ソフィアとダグラスのいつもの練習風景を見学したセレナが見たのは、まさに驚愕の連続で溢れていた。

 その小さな身から放たれる圧、仮にもセレナは魔法使い。戦闘もそれなりに数をこなしているので、相手の強さもそれなりに測ることは出来る。

 だがソフィアの圧は、セレナが今まで感じたとある圧だった。




―――これは…『本物』の強者の圧だ…




 なぜ『本物』という言い方をするのか。強者は強者でも『並』のレベルの強者ならば出せないもの。ただ目前に強い相手がいることに対する恐怖だけではない、このプレッシャーは相手に対して勝つ算段を見つけられないような…要するに『やる』はずだったのに自分が『やられる』のではないかと体が無意識に悟ってしまうようなもの。

 この表現には出来ない感情を感じさせる相手、そしてそれ程の圧を出せるような圧は一定の強者しか出せないのだ。

 それをソフィアは発しているのだ。その小さな身を持ってして…



「あぁ…」


 その可憐な容姿から発せられるとは思えない圧。そしてその人物が槍という物騒なものを持って鍛錬をしているということ、そしてまだ今があれから半年程しか経っていないということ。

 そんなことを考えて1つの結論に辿り着いてしまったセレナは、絶望を通り越して悟りの境地に至っていた。


「私の可愛いソフィが…どんどん遠くに行ってしまう…」


 ソフィアが徐々に父親ダグラス色に染まっていっていることに、もう考えるのを放棄したセレナであった。



 ***



「よし」


 セレナは何かしらの覚悟を決めたような顔でソフィアを見据えていた。

 急に呼び出されたソフィアは、何がなんだかわからないような顔でセレナを見上げていた。


「ソフィ、貴女『魔法』に興味ない?」

「え…?」


 急に出てきたワードに困惑するソフィア。

 だがすぐに気持ちを切り替えて、それに答える。


「魔法…使ってみたい…!」

「そう…」


 セレナの覚悟。悟りの境地の奥底から吹っ切れたように、湧き出た1つの手段。

 所謂『もうここまできちゃったんだしいっそのこと世界最強の魔法使いにしちゃう?』である。

 

…どうもこの同じ孤児院出身者は、過激な人が多いようである。


「なら私が魔法を教えようかなーって。これでも私、この国でもかなりゆうめいなんだからね?」

「え、教えてくれるの!?やったー!!!」


 その年相応に喜ぶ姿は、セレナをいろんな意味で安堵させるのには十分であった。


「まぁ魔法には適性というものもあるからそれ次第だとは思うけど…ぶっちゃけソフィアはかなりの魔力が漏れているんだよね…」

「え、魔力って漏れるものなの?」


 ソフィアは魔力というのはどういうものかは知らなかったが、それでも人の体を循環するという仕組み自体は理解していたつもりではある。

 それが漏れているのだ。自分の体に何処か異常があるのか、そう思わずにはいられなくて不安げな顔になるソフィアにセレナは、慌てて訂正する。


「いや!別に体の何処か悪いとかそういうのじゃないの!…問題はその量にあるの」

「…量?」


 セレナの言葉にソフィアはそう問い返す。


「簡単に言うと『魔力』を消費して魔法というものを発現させるんだけど、その消費量にも限界があってね。ギリギリ辺りまで消費すると次第に目眩みたいなのが起きるの。そしてそれは『警告』の証…それを無視して魔力を消費し続けるとやがて意識を失うの」

「え…それって凄く危険じゃ…」

「えぇ、正直魔物みたいな無差別に人を喰らうようなものは慈悲なんてないから…魔力がなくなる事はそれはほぼ死と同じよ」

「うーん…でもそれじゃ魔力は守れ続けてるんだから、その内いろんな人が意識を失うんじゃ…?」


 セレナの説明に質問を返すソフィア。

 そしてソフィアの疑問は、セレナの言わんとすることを的確に当てられ、本当にこの子は賢い子ね、と感心する様にソフィアを見据え、やがてその問いに答えていく―――

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