1-6《決定的な欠点》
その日の夜。
ソフィア達3人を囲むテーブルの上には豪華な食事が乗っていた。
―――そう、豪華な食事である。
あの後、セレナは大量の家具などを持ってきており、例の別荘の中に詰め込んでいった。
一体どこからそんな量の家具を持ってきたのであろうか。
そんな顔をしていたソフィアに気づきセレナは「まぁ…いろいろね…?」と濁らせ詳しいことは教えてくれなかった。
その中に大量の食材も含まれており、早速夕飯にと使われたのである。
実はセレナ、かなりの料理スキルをお持ちなのである。ソフィアも目をキラキラさせてその工程を目に焼き付けていた。それを微笑ましそうに見ていたダグラス。
因みにダグラスは、槍以外本当に何も出来ないのでセレナに役立たず、と戦力外通告を受けたのである。
……不憫である。…まあセレナにとってみればどうでもいい事であるのだが。
そんなこんなで、豪華な食事を楽しみながらセレナの淹れてくれた紅茶を飲みつつソフィアは口を開いた。
「…確かにあの時別れたのに、こうやって3人でご飯を食べてるのって不思議だよね…」
「ははは…確かにそうだな…」
「大体はダグの所為なのよ。まぁ私自身ソフィに会いたかったのもあるんだけどね!」
そう満面の笑みで、親指を立てたセレナ。それを見て―――本当に笑顔が素敵な人だなぁ…と、思わずにはいられなかった。
――――――――――
「んで、セレナはこれからどうするんだ?」
ダグラスがそう問いかける。
「んー、私も勢いで来ちゃったけど王都でやらないと行けないこともあるから明日帰ろうかな?」
顎に手を当てながらセレナはそう言った。そして何か思い出したのか、今度はセレナがダグラスに問いかける。
「ダグ達こそ…これからどうするの?鍛えるっていってもいろいろあるでしょ?」
そんなセレナの問いだが、ダグラスは気にすることはないと言わんばかりの顔をして口を開く。
「大丈夫だ!なんてったってソフィアは俺の娘だからな!」
「なんの根拠も理屈もないんですが」
セレナは呆れたようにジト目でダグラスを見つめていた。
ソフィアも何か策があるのかと目をキラキラと輝かせながらそんな話を聞いていたが、ダグラスの言葉に少々不安が高まったようである。
――――――――――
翌日。
ダグラスの別荘の扉の前には、セレナが荷物を抱えて出発する準備をしていた。
「……よし…!準備も終わったしそろそろ行こうかな!」
「おう!いろいろありがとうな!」
「セレナ姉さんありがとう!」
ダグラスとソフィアの出迎えに微笑みながら「いいのいいの!」と返事を返すセレナ。
そして何かを思い出したのか、ダグラスをキッと睨み付けながらセレナは口を開いた。
「ダグ……仮にもソフィの父親なんだから ―――いろいろと頼むわよ…」
「あ、ああ…善処する…」
「そこは言い切って欲しいわね…」
セレナが言っているのは『鍛える』という方ではないだろう。腕前に関してはセレナも十分に知っているのでそこは心配ではないが、『生活面』としては心配しか残らないのである。
その言葉の意味をダグラスも察したが、それでも自分の生活感の無さは自覚済みでありどうしようもないので「善処する」なのだ。
ダグラス自体直そうともしない為、セレナは深い溜息をつかざるを得なかった。
「じゃあ―――ソフィも元気でね。また機会があれば此処に来るから!」
「うん!」
ソフィアの返事を聞き満足そうにセレナは頷き、じゃあね!、と手を振りながら前に続く道を歩いていった。
やがてセレナの姿が見えなくなった頃。
「この感じ…なんか前もあったよね…」
「俺も同じ事を思っていたところだ、ソフィア…」
2人はそんな風に苦笑いで前の道を見つめ続けていた。
――――――――――
そんな時間から1時間程、ソフィアとダグラスは家を出て少し歩いたところにある場所に来ていた。
ダグラス曰く、「ここは俺が昔から使っていた最高の練習場だ!!!」と笑いながら言っていた。
何がそんなに面白いのだろうか…とソフィアは思ったりもしたがその思考はすぐに胸の奥底に仕舞い込んだ。
仮にも魔物から助けてくれた恩人でもあるし、逆に堅苦しい人じゃなくてよかった、と安心している部分もあるのだ。
それは兎も角。
ソフィアは辺りを見渡してみる。
周りには木、木、木。
文字通りの森であるのは明らかだった。だがヴェルド大森林のように禍々しい雰囲気はなく、時々流れてくる風の空気が気持ち良いと感じられるくらいは新鮮なところである。
そんな木に囲まれるように、円状には何もない空間が広がっている。確かに広さ的には十分だろうと、ソフィアも納得する広さだった。
そしてそんな空間の中心まで辿り付いたところでダグラスが口を開いた。
「よし、取り敢えずソフィア。まずはこれを持ってくれ」
そう言いながら取り出したのは、一本の細身の槍。
槍としては平均的な長さではあるが、ダグラスの背負っている槍と比べれば、どうしてもそれが小さく見えてしまうのは仕方がないのだろう。
そんなものを突然渡され困惑しながらもソフィアは、
「いいの…?」
と、尋ね、
「ああ」
と、ダグラスは肯定を示した。
「前にも言った通り俺は槍を使う戦士だからな。当然ソフィアにも扱って貰わなければいけないのは分かるな?」
「うん」
「だから取り敢えず実物を実際に見る!触る!感じる!これに限る!槍とはどんなものかを実感していた方が扱いやすいだろうからな!」
「おお…!」
そんなダグラスの言葉に納得したように目を輝かせて槍を見つめるソフィア。
戦闘以外は抜けているところが多いダグラスではあるが、戦闘に限っては本人も拘りは強いのである。その上で意識するには実際に実物をその目、手で実感する、ということは実に理に適っているだろう。
ダグラスはその槍を地面に置き、それを手で指し示した。
それにソフィアは頷き地面に置かれた槍と向き合う。
―――これが『本物』の槍…―――
何度か、槍を背負っている人を見かけることはあったが、まさか自分が実際に槍に触れるとは思っても見なかった今日この頃。
ここからが私の冒険譚…!と、期待し意気込むように手を伸ばしその槍の柄を掴み持ち上げようとする
―――――が。
「ふん…!!ん…!あ、あれ…?」
その槍が持ち上がることはなかった。
その様子をダグラスは見て、あちゃーという顔をして天を仰いだ。
―――そうだ、ソフィアはまだ『10歳』で『女の子』だった…
それは槍には限らず、戦士ならば必ず無くてはいけないもの、いや無ければそもそも始まらないくらいの決定的な欠点である。
そう、ソフィアは、
―――圧倒的に『力』も『体力』もねぇ…
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