1-4《親子》

「ソフィ姉さん!!!」

「ソフィア姉ちゃん!!!」


―――ん…?


「ソフィ姉さん遊ぼうよ!!!」

「あそぼあそぼ!!!」


―――あぁ…孤児院の頃の記憶か…


「え、えぇっと…何して遊ぶ?」

「「おいかけっこ!」」

「あはは…本当においかけっこ好きだね」


―――これは夢…なのかな?勝手に出ていった事になるし…皆元気かな…


――――――――――


 早朝、今日は快晴であり窓からの光が反射している。

 

「ん…」


 昨日は部屋から別れて以来、夕食はセレナが直接部屋に持ってきてくれて一緒にいろいろ話しながら食べていた。

 その後は疲れていた事もあり、一瞬で眠りについてしまったのだろう。

 意識を失っていたとはいえ3週間も経っていたのだ、疲れていないわけではない。

今も疲れが取れてるかと問われればそうでもないが、昨日よりはだいぶマシだろう。


「起きた?」

「わあぁ!?!?」


 突然横から声をかけられてソフィアは驚きの声を上げた。

 その横を振り向いてみると、腰辺りまで届く金色の長髪、大きな青い瞳、整った顔立ち、心配そうにソフィアを見つめている―――セレナの姿がそこにあった。


「セ、セレナ姉さん!?」

「ん〜…その様子ならだいぶ良くなったみたいね?」

「あ、はい…おかげさまで」


 ソフィアの元気っぷり驚きっぷりを見てセレナはその心配そうな顔に微笑みを浮かべる。

 そしてソフィアの『姉さん』呼びは昨日の食事中に「私達は家族みたいなものだからね?姉ちゃんって呼んでもいいんだよ?ね?」と微笑まれながら圧力をかけられたので、ソフィア自身も嫌なわけではないので即刻『姉さん』と呼ぶ様になった。


「じゃあすぐ朝食にしましょうか。私はダグと下で待ってるからソフィはゆっくりと準備していいからね」

「はい」


 そう言って手を振りながら部屋を出たセレナを見てソフィアは、せっせと着替え等の準備を始めた。


――――――――――


「おっ!ソフィアおはよう」

「ソフィおはよ〜♪」

「おはようございます、ダグラスさん、セレナ姉さん」


 風流亭1階の食堂、そこには未だに3人しかいないが昼間辺りになると大変混雑するのである。


「俺とセレナは食べるのは決まったんだが…ソフィアは何を食べるか決まったか?」


 ダグラスがそう言いながら「ほれ」とメニュー表を渡してきた。


「わぁ…いっぱいありますね…!因みに2人は何を頼んだのですか?」


 沢山あるメニューの中でソフィアはそう問いかけた。その問いにセレナとダグラスは同時に口を開き、


「「ワイルドボアのステーキだ(よ)!」」


――――――――――


「いや〜…美味しかったです!!」

「だろ?猪肉独特の臭みがあまりないし割と食べやすいんだよな」

「むしろその臭みを活かしているのか調味料と合わさって丁度いい感じなのよね」


 ソフィアもワイルドボアのステーキを頼んで3人で食べたが、それはとても美味であった。

 三者三様の感想が出揃ったところで


「んじゃソフィア、お前はこれからどうする?」


 と、ダグラスが口を開いた。


――――――――――


 そうダグラスに問われソフィアは暫く悩み続けたがやがて結論が出たのか、顔を上げて口を開いた。


「私…もっと強くなりたいです」

「「え?」」


 2人はその予想外の言葉に素っ頓狂な声を上げた。


「私…あの時森で魔物に襲われてただ逃げる事しか出来なかったんです。…それが悔しかったんです…走ってる最中は特にそれを実感しました」

「……」


 淡々と話すソフィアを黙って聞くダグラスとセレナ。


「そして私が魔物に喰われそうになった時、ダグラスさんが現れたんです。私がただ逃げる事しかできなかった魔物を槍で一撃で仕留めたのです」


 ソフィアはあの時のダグラスの後ろ姿を思い浮かべながら語った。


「悔しさもありましたが…同時にカッコいいとも思いました。そして私もこうなりたいと、ダグラスさんの様に困っている人を救ってあげられる強さを得たいと思いました…」

「……」


 あの時の後ろ姿はまさに英雄というそのものであった。死の境地に立たされていたという事もあるのだろうが、それは決して誇張している訳でもなく実際ソフィアはダグラスによって救われたのだ。


「だってダグラスさんは…私にとっての」







―――――英雄ですから……






 

 そう語るソフィアの目には決意の炎が宿っていた。それを聞きダグラスは頷き口を開いた。


「そうか…その決意はどうやら本物だな」


 と、関心した素振りを見せ


「ソフィア、俺のになれ」


「「へ?」」


 突然の言葉に呆気に取られたソフィアとセレナは固まった。それを見てダグラスは疑問符を頭に浮かべる。


「ん?どうした?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」


 自分の発した爆弾発言をあまり理解していないのか、自分は悪くなさそうな顔をしてそう問いかけた。


「えぇっと…」

「あのねぇ…」


 ソフィアは困惑、セレナは呆れの表情を見せ、やがて落ち着いたのかセレナが口を開いた。


「そういうのはダグが「弟子になれ」というのは分かるけど…突然「娘になれ」って言われたら誰でもそうなるわよ?」

「俺は弟子を取るつもりはないからな」

「だから娘にしたと?」

「ああ」

「どういう事よ…」


 セレナはより困惑を深めて頭を抱えた。

そしてダグラスは口を開き、


「まぁ…純粋に俺が息子や娘の1人は欲しいと思うのもあるが、それだけじゃあないんだ」

「どういう事?」


 ダグラスの発言にセレナは問いかけた。


「ソフィアに―――俺の培ってきたもの全てを与えるつもりだ」


 ダグラスもまた、面白いものを見るような目でソフィアを見ながらそう言った。

 セレナもソフィアも訳がわからないと言っている顔でダグラスを見つめ、ダグラスは笑いながら口を開いた。


「ハハハ!っまあ気持ちはわかる。でもまぁこれは俺の勘みたいなものなんだが、ソフィアは確実に大物になると俺は思う」

「そこまで…?でもダグの勘はわりかし当たる事多いのよね…」


 ダグラスの勘はよく当たる。それは孤児院時代から共に過ごしていたセレナだからこそわかる事なのだ。


「それとなんだが…ソフィア。一度見たと思うが俺は槍士だ。今でこそ槍士の人口は増えているが剣士と比べると使いづらいし人気もないんだ。それでもソフィアは俺の元に来るか?」

「はい、来させてください!」


 ダグラスの問いにソフィアは即答した。そして再び口を開き、


「今までも思ってたんですけどなんで剣士の人の方が多いのかなって。確かに攻撃力は剣の方が高いけど槍の方が機動力が優れてるし、何より戦い方が舞みたいで綺麗だと思うんです。―――あと…前にとある槍士の戦いを見たときに憧れていましたし…」


 と語った。


 ダグラスはそれを聞き可笑しそうに笑いながら口を開いた。


「ハハハハハ!まさに今の俺との考え方とそっくりだな!それに槍による戦闘の本質も理解しているときた。これは本当に俺の娘って感じしかしねぇな!ハハハハハ!」


 笑いすぎて思わず涙を浮かべている目元を拭いダグラスは立ち上がった。それを見ていたソフィアも覚悟を決めた様な顔を見せ立ち上がる。そして未だに座っているセレナは半ば諦め気味である。


「よし、ソフィア。俺たちはこれから親子だ。ソフィアが成人―――15歳になるまでに俺の全てを与えるつもりだ。これからよろしくな」


 ダグラスがそう言って笑顔を見せながら右手を差し出す。


「はい!よろしくおねが……いえ、よろしく―――――父さん」


 ダグラスの差し出された右手に応える様にまた、ソフィアも右手を差し出し満面の笑顔で握手を交わした。



―――この日、この出会いから少女ソフィアの人生は大きく変わる事になる。

 そしてかつて氷結の槍姫グレース・ランサーと呼ばれる英雄の生まれる瞬間であった。

 

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