1-3《ルナクリウスの少女》
「は?????」
彼女は盛大に困惑していた。これが漫画とかなら頭の上に大きく『?』と書いていたであろう。
「気持ちはわかるぜ。でもとりあえず起きるまでは寝かせてやろうぜ」
「う、うん…色々聞きたいことはあるけどとりあえずこの子を寝かせましょうか…」
「あぁ、頼む。セレナ」
セレナと呼ばれた女性はダグラスの言葉を聞いて頷いた。そのままダグラスは抱えていた少女をセレナに預け、セレナはそのまま宿屋の2階まで向かった。
――――――――――
風流亭の2階の1室、その中に入ったセレナは抱えていた少女を部屋の中のベットの上に寝かし、「はあぁ…」と深い溜息をついた。
―――とりあえず整理しようかな…
セレナは先程よりは落ち着いたものの、混乱が解けたかといえば微妙といった感じだ。
―――ダグが嘘を言っているとは思えない。ていうかあの目は本物の目だ。
セレナはダグラスの言った言葉を、頭の中で整理しながら考える。
―――じゃあだとしたら何故そこにいるのか、ということになるわね…
そこでセレナは一つの可能性に行きつく。
―――まさか…誰かの―――
セレナの頭の中に嫌な予感が浮かんだその時、ベットの上に眠っていた少女が目をゆっくり開いた。
「ん……」
「っ……!!起きたのね!!貴女ここまでのこと覚えてる?」
少女は寝ぼけ気味だが突然目の前の女性から問われ、やや困惑気味だ。
「ぁ、あの…」
「いや!今はいいわ!とりあえずダグ呼んでくるからここで大人しく待っててね!」
そう言ってその女性―――セレナは猛ダッシュで部屋を出て一階へと降りていった。
―――…???
突然の事に全くついていけてない少女―――ソフィアは困惑していた。
――――――――――
「ダグー!こっちだってば!女の子が起きたんだって!」
5分後、大きな足音と共に先程の女性が部屋に入ってきた。
「んなことわかってるっつーの。―――おっ、起きたか!調子はどうだ?身体は痛むか?」
ソフィアは赤髪の男―――ダグラスを見て思考が停止した。
すぐに思考が回復したソフィアは咄嗟に声を発した。
「あ、あの!さっきは助けていただいてありがとうございました!か、身体はもう大丈夫です!!!ほら、こんな感じ―――…いっ…!」
ソフィアはまずは言わないといけないお礼を言い、身体の無事を証明する為に腕を回したら、裂かれる様な痛みに声を上げた。
それを見たセレナは、咄嗟に彼女の前に出て彼女の腕を見た。
「ちょっ!大丈夫!?って軽い傷だけだと思ったら腕のところの傷はかなり深いわね…」
「はい…大丈夫です…あの、ありがとうございます」
「あまり無理すんなよ?体力も相当消耗してるだろうし今動いたら相当負担になると思うしな。…あと色々聞きたいことはあるんだが…とりあえずお前の名前を聞いてもいいか?」
ダグラスがソフィアに対して優しい微笑みを浮かべながら問うと、ソフィアもしっかりと返した。
「はい!ソフィア―――ソフィア=クレア=ルナクリウスといいます!」
ソフィア―――ソフィア=クレア=ルナクリウスが自身の名を告げると、2人は驚いたように目を見開いた。
「あ、あの…?」
ソフィアが心配したように問いかけたところで2人は彼女に問いかけた。
「ソ、ソフィアちゃんね…うん、うんそれはいいんだけど…あの『ルナクリウス』っていうのは?」
セレナは疑問に思ったことを即座に問いかけた。横でダグラスもうんうんと頷いている。
「ルナクリウス…えっと、どういうことですか?」
「あーそうか〜、じゃあ質問を変えるわね、『貴女は今まで何処に住んでいたの?』」
セレナはソフィアに問いかけ、ソフィアは素直に答えた。
「あーそういうことですか、私はずっと『ルーナス』の孤児院に住んでました」
ソフィアの問いに2人は「「やっぱり…」」と納得したような顔で頷いた。
その事にソフィアは疑問に思っているとそれに気付いたセレナが口を開いた。
「あっ、そういえば自己紹介がまだだったね。私の名前はセレナ=ベラン=ルナクリウス。気軽にお姉ちゃんって呼んでね♪」
「あっそうだな、俺の名前はダグラス=カーサ=ルナクリウスだ!よろしくな!ハハハハハ!!!」
『ルナクリウス』―――セレナとダグラスの2人にその姓がある事に気づいたソフィアはハッ!っと何かに思い立った。
「『ルナクリウス』…もしかして?」
「そうなのよね、『ルナクリウス』、この姓が使われている場所は一ヶ所のみ、そして実際私達は同じ姓ということは…」
「察しの通り俺たちも『ルーナス』の孤児院出身ってわけだ。元だけどな!!!」
現在部屋にいる3人は姓が『ルナクリウス』である。ルーナスの孤児院出身者は全員が『ルナクリウス』の姓を名乗っており
セレナの言う通りルーナスの孤児院でしか使われていないのだ。
そしてルーナスの孤児院は全員が兄弟姉妹のように過ごしておりソフィアも、よく下の歳の子たちから「ソフィ姉さん」や「ソフィア姉ちゃん」と呼ばれたものだ。
つまり、ソフィアにとってセレナとダグラスは姉と兄の様な存在と言っても過言ではないのである。
「本当不思議よね〜。まさか『ルナクリウス』の姓を持った子があんなところにいるんだから…」
セレナが1人で納得しながら頷いているとソフィアが1つ疑問が浮かんだのかセレナに問いかけてみた。
「あの…1つ聞きたいのですが…」
「ん?どうしたの?」
「此処は何処なんですか?」
「此処はメルアリード王国の首都メルランよ。その中の風流亭っていう宿屋がここよ」
「メルラン…メルラン…???………ってメルランって!!!どうしてそんなところまで…」
ソフィアの出身の孤児院のある街、ルーナスからメルランまでは馬車を用いても約2週間はかかる。だが、それはあくまでも直線的に行けばの話だ。ルーナスからメルランを結んだ道の先にはヴェルド大森林並みの危険度を誇る森、ガルア大森林があるのだ。
ガルア大森林はヴェルド大森林並みの危険度で大きさで言ったらガルア大森林の方が大きい方だ。護衛を雇っても並みの冒険者は歯が立たないし普通は森を突っ切って進もうとはしない為、迂回するのが一般的だがそのルートはかなり遠回りとなり1週間程のロスとなるのだ。それ故にルーナスからメルランへ行く際は普通に考えれば約3週間はかかるというわけだ。
それらを踏まえてそのソフィアの反応に疑問に思ったセレナは
「ん?どういう事?ソフィアちゃん―――ちょっと長いわね、ソフィって呼ばせてもらうわ」
「あ、はい」
「それでソフィはルーナスからメルランに来たのに覚えていないの?」
「そうですね…気付いたらあの森にいたんですよね―――」
――――――――――
「なるほど…つまりソフィアは見知らぬ青年から連れ去られたと…その時に違和感は感じなかったのか?」
「違和感は感じたんですけど、院長には許可を取ったと言っていましたので…」
「素直すぎるのよソフィは…もっと人を疑う事も知らないとダメよ?」
「はい…」
ソフィアはセレナからの指摘に恐縮していた。
そう、ソフィアはまだ孤児院にいた頃、夜中にフードをかぶった男が現れソフィアを引き受けに来たことを告げたのだ。
当然ソフィアも疑いはしたものの「院長には既に話を通してある。少し事情があってこんな時間になってしまったんだ」と言われソフィアは疑いを解き、そのまま男についていったところで記憶が途切れていた。顔はよくわからなかったがなんとなく若い印象を受けた。
「それで目覚めたらヴェルド大森林にいたってわけ?3週間も眠っていた事も驚きだけどよりにもよってそこに置いてくなんて最低ね」
「本当だな…まぁ今日のところはもういいだろ、ソフィア、今日はとりあえず休め。これからのことは明日からだ」
そう言いながらダグラスは座っていた椅子から立ち上がり、ソフィアに微笑みを浮かべ部屋から出ていった。セレナもそれに続いて「じゃあソフィ、また明日ね!明日にもっとお話ししましょう?」と笑いながら手を振って部屋を出ていった。
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