第48話 やっと来てくれた!!

「やっと来てくれた!!」

「充希、いつまで手間取ってやがる。一気に蹴散らして突破するぞ!!」

「よっしゃ!!」


 充希は紅蓮剣で飛翔斬を飛ばしながら、京介の横に並び、突破口を開く。

 その突破口を流星のように光を帯びて進む充希。巻き込まれた魔物たちはちりぢりになりさらにその数を減らす。後は王国軍に任せる。

 王国軍を置き去りにグランドクラックに向かう京介と充希たち。

 グランドクラックまで後数キロというところで、上空に300ほどの魔族の編隊がこちらに向かってくるのが目に入って来た。

「第2波の攻撃部隊か?」

 すぐさま重力魔法でその動きを封じる。何とか空に浮かんでいる魔族には有無を言わせず、レーザービームと飛翔斬が打ち込まれ、魔族たちは砂塵となり霧散していく。

「京介さん、さっきからレベル50以上の魔族に重力魔法を連発してるんやけど、MPは大丈夫なの?」

「MP? ああっ、撃った瞬間は体から何かが抜けていく感覚はあって、脱力感が半端じゃないけど、すぐ元にもどるぞ」

「な、なんで?!」

「充希さん。京介はMPの概念があやふやなんです。転移する前に全くゲームをすることがなくて。まあ、予備機やライフがあと2台あるなって所で止まってるんですよ、です。そういう訳で、この世界の理(ことわり)の外にいる存在なので、MPが枯渇することはありません。です」

「ふーん、良く分からないけど便利なんやな」

「まあ、俺にもよくわからん。その辺はラノベでも読み飛ばしていたからな」

「へんなの。私だってそんなゲーム、したことないのに」


「深く考えないでください、です。ほら、次が来ましたよ、です」

「なんか、数が少なすぎないか?」

「確かに、まるで均衡を図っとるみたい」

 充希の言う通りなんだ。歴史の本で見たんだけど、ポリーティア王国の人口は数千年まえから3000万人でほとんどかわっていないんだ。それに対して魔族も3万人ほどで昔から変わっていない。ここまで見た感じだと1000人ほどだろ。この規模、先兵隊の小競り合いだろ? もし数で来られたら、さすがに数の暴力には対抗できない。

「確かに一万とかで来られたら……」

「――、俺に絶対的防御がある」

 そんな会話を交わしながら、300の魔族を次々と打ち落としていく二人。

 俺の存在が予定外とは言え、わざわざ均衡を図るように軍を配置する魔王は何を考えているんだ。


 そんなことを考えていると、ついにグランドクラックの上空に差し掛かったのだった。

 そこに待ち構えるのはたった3人の魔族。額に曲がた山羊のような角を持ち、深紅の瞳は邪悪に染まっている。体格は成人男性より一回り大きくぐらい。しかし、真ん中の男以外は、一見すると膝に見える部分が人の関節とは逆に曲がった踵になっているのだ。


 それにしても、全員、いわゆる彫りの深いイケメンの部類に入るんだろう。日本人ののっぺりとした顔とは対極だ。そして真ん中の長髪がきっと魔王だ。両脇の二人と比べてもその威厳は次元が違う。

 現に、サリーとマリーはそこに縫い留められたように身動きひとつできない。

「あんたが魔王か?!」

 充希が前に出て、その男に問う。

「わしが魔王!! 決して誤ることにない、絶対に逆らっていけないものの代弁者なり!! 勇者よ。汝らの世界ではすでにその声を聞くことも出来なくなった愚かな存在よ!! だか、安心するがよい。この世界がそんな世界にならぬように、汝はその礎となるのだ!!」

 脳天の芯を揺さぶるような不愉快な声を発し、男は一歩前に出た。そして、赤い瞳の魔眼を俺に向ける。

「だが、そこの男、きさまは危険だ。なぜ、レベルが100が達し、底知れる魔力を内在している? 我と勇者の儀式の邪魔をさせぬようバクーシャ、ヴャイシュアー、うぬらはその男をしまつしろ!!」

「こら、俺の名前は京介、俺の存在をないがしろにするんじゃない!!」


 と、お互いに俺の叫びが終わる前に、その姿がブレ、グランドクラックの真上で閃光が走り、衝撃波を追いかけるように轟音が響き渡る。


 その衝撃波に乗るように、俺達に肉薄した二つの影、両腕の爪は鋭く伸び、闇を纏った斬撃を飛ばしてくる。ゆっくりと迫るその斬撃は、しかし、避けた俺の動きを巻き戻し確実に切り裂くに違いない。

 俺は、スキル重力制御をその斬撃に向かって飛ばす。奴らの闇魔法に対抗できるのは、この世界で俺が喰った魔法やスキルではなく、あの研究室で得た固有スキルだけだ。

 斬撃というエネルギー波でさえ、重力に従って進行方向を変え、大地の亀裂に吸い込まれていった。

「――、おのれ、何者だ?!」

「人に名前を聞くときにはまず自分から名乗れと教えられなかったか?」

「ふん、われら相手に生意気なことを!」

「バクーシャ、良いではないか? わしは四天王が一人ヴァイシュナー!!」

「バクーシャにヴャイシュアーか。俺は金城京介! 四天王二人が相手をしてくれるとは光栄なことだぜ」

 やっと、ちゃんと自己紹介が出来た。


 満足した俺はアイテムボックスからニトログリセリンの入ったスポイトを取り出す。ビーカーから使い勝手のいいこちらに移し替えていたのだ。

 スポイトから十数滴の滴を絞り出すと、それを水魔法と風魔法で俺の周りに展開する。


「取り敢えず、危険だからエムとサリーそれにマリーは俺の重力障壁の中に居てくれ」

 俺は重力制御で3人の周りに重力障壁を張った。この重力障壁、あらゆる衝撃をはじき返す優れものだ。簡単に言うと、すべての物質を引き付けるブラックホールの逆バージョン、ホワイトホールとでも言えばいいのか。

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