第47話 なぜこの世界は単一国家なんだ

 それにしても、なぜこの世界は単一国家なんだ。箱庭のような世界だといっても、こんなことってありえないだろう。普通はクーデターや民族間で争いが起こり、国が分裂したりして人や種族同士が争うのが普通だろ……。この世界より狭い日本の歴史でも常に争いがあったのに……。


バタン!!


 突然の大きな音にビクっとなった俺、どうやら俺は深い思考に囚われていたみたいだ。

 本を荒っぽく閉じたエムはニヤリと笑って俺を見たのだ。

「エム、なんかわかったのか?」

「集合的無意識の意図なんて分かりません! 京介は京介のやりたいようにやったらいいの、です」

 まあ、そうなんだけど……、集合的無意識って云うぐらいで俺の無意識だってちょっとはあるわけで、そこには俺の願望だって……。

 俺が自分自身と葛藤し悩んでいるというのに、サリーの奴は熟睡していたようで、エムが本を閉じた音に目を覚ましたようだった。

「サリー、図書館で寝るなんて。まして、京介さんやエムさんが真面目な話をしているのに……」

「だって、最近寝不足なんだもん。もう寝るたびにあのドゥリタラーの顔が浮かんでくるところに、今度はヴァルーガだもん。もう心底怖くって」

「本当に、あの二人の容姿は本能が嫌悪しますよね」

 サリーの言葉にマリーも激しく両手を握り込んで激しく同意する。

「あれ、そうなのか? 耳が尖ってたり多少人族とは違うけど、どちらかと云うとイケメンの部類だろ?」

「本能を晒したあの目が……」

「そうそう、私ら理性のある常識人だから、あの目はねー……」

「いや、別に薬をやってるような狂人の目はしてなかったけど?」

「「とにかくダメなんです!!」」

 俺の言葉を強く否定した二人。俺はエムに「何とか言ってくれよ」というつもりでエムを見たんだけど、今度はエムが何か閃いたような顔をしている。

「うん。キャロラインとリオンにも聞いてみましょう。二人は別の意味でもっとプレッシャーのかかる状況を経験しているはずです。例えば政治とか。それでも、この二人と同じ反応というのなら……」

「おい、何を聞くんだよ? 」

「……」

「エム、何を考えているんだよ」

 俺の問いには答えず、エムは一人で何か納得したように頷いているのだった。


◇◇◇


 エムの様子がおかしくなってから、月日は流れヴァルーガが言った魔王が復活する日が二日後に迫っていた。

 すでに充希をはじめとする数十万のポリーティア王国軍はグランドクラックに向かって出立しており、グランドクラックを超えて人族側に入ってきた強力な魔物と激突している。

 俺たちもグランドクラックに向かおうと王都を出発していた。

 飛んで聞く俺たちにとって、2週間ほどの遅れなんかすぐに取り戻せる。


「勇者様たちは大丈夫でしょうか?」

「まあ、充希はこの世界最強の一角だからその辺の魔物には負けないだろ」

 空を飛びながら、勇者を心配するマリーに俺は軽く返事をした。

 確かに、魔物相手なら引けを取ることはないだろうが、レベル50以上の魔族相手ならどうだろうか? それに四天王の呼ばれるレベル90越えの奴らがまだ二人残っているのだ。

 

 一日目は王都軍に追いつくことが出来ずに野宿し、二日目の昼頃、ようやく王都軍が見えて来た。

 そして、目に飛び込んできたのは、数百の魔族と魔物たちに空から攻撃を受けている王都軍であった。さすがに、王都軍も空を飛べる騎士たちは何十人といて、魔族たちと対応しているが……。

 飛びながら魔法を使える魔族に苦戦していた。

「制空権を握られると、どんな巨艦もイチコロです」

「まあ、全滅は免れないな……。でも、あそこで充希も頑張っているぞ」

 俺の指さす先には、飛翔斬を飛ばし、魔族や魔物を効率良く打ち落としている充希がいた。

「なるほど、神武流剣術先読みで魔物の動線が重なる地点に飛翔斬をぶち込んでいるのか」

「京介、なんとかしないと」

「そうだな、いくら充希が頑張っても、どんどん押されているようだな」

俺は目に力を籠める。そして、魔族を次から次へと的の印をつけて行く。大体、魔族の3分の2はできたか。

「重力コントロール、ロックオン。重力10倍!!」


 魔力がごっそり抜かれたような感じがした後、ロックオンされた魔族が、バタバタと地上に落ちて行く。風魔法を使った飛行に対して、重力を10倍にしたのだ。体重が10倍になれば、自身体重を支え切れず、落ちて行くものも多い。ただ、落ちるのとは違う。数百メートル高さから10倍の加速度で地面に落下すれば、只の肉片になってしまう。辛うじて浮かんでいるのも、動きが鈍くなって、兵士たちの矢の恰好の的だ。

 そして人族が形勢を盛り返したところで、俺たちも空中戦を広げる空域に突入する。

 俺の背後を守るのはマリーとサリーだ。同じ重力制御で飛んでいる以上、俺に遅れることはない。二人なら俺の背後を任せられる。

 俺は肘当てからレーザーブレードを出し、迫ってくるドラゴンを一刀両断にする。さらに、横薙ぎに一閃、数体の魔族や魔物を切り伏せる。

「ちっ、魔石はくれてやる」

 肉片になって落下していくそいつ等を見ながら惜しいことをしたと舌打ちをした。

「バカなことを言わないの、です」

俺の背後にぴったり引っ付いているのはエムだ。これだけ接近しながらも、俺の動きの邪魔は一切しない。

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