第42話 俺はグリセリンを取り出し

 俺はグリセリンを取り出し、数滴たらした。そして、水魔法で空中に留まらせる。

 そして真っ直ぐに人差し指を充希と切り結んいるドゥリタラーに向けた。

「水弾。重力制御!!」


 俺が撃った水弾三発は、最初はゆっくり動き出し、どんどん加速していく。それは初速が最大である銃弾の動きとはまるで違う。

 その気配に最初に気が付いたのはこの攻撃を受けたことがあるドゥリタラーの方だ。それに対して対応が遅れたのは充希の方だ。


「くっ、うっとしい」

 水弾を躱すように素早く充希と距離を取ったドゥリタラー。

「巻きこまれて死ね!!」


 水弾はまっすぐに充希に向かっている。

「あ、危ない!! 勇者に当たっちゃう!!」

「サリー、見てみろ。大丈夫だ」 


 京介の言った通り、ますます加速して弾丸のような水弾は、ドゥリタラーを追尾するように方向を変えた。

「なっ、防御障壁!!!!」

 慌ててドゥリタラーは闇を纏った障壁を張ったが……。水弾は過去に戻されることなく障壁が完成する前に、障壁に第一弾が激突する。


大爆発とともに防御壁が崩れ去る。その爆炎の中、第2弾、第3弾がさらに後退するドゥリタラー追撃する。

 そして、ドゥリタラーがさらに張った障壁を爆発とともに破壊し、最後の水弾がさらに加速してドゥリタラーに迫る。

そして、とうとう避けきれなくなったドゥリタラーは水弾に右手を差し出すことで、致命傷を避けた。

 右手を吹き飛ばされたドゥリタラーに迫る二つの影。一つの影は緋色に輝く刃を持って。もう一つの影は、光を集めた剣を持って……。さらに光の剣を持った影はドゥリタラーに近づけば近づくほど、その速度を上げて行くのだ。


 そして、ドゥリタラーを中心に二つの刃が同時に交差する。


 刹那の間に繰り出された数十の剣戟にドゥリタラーの姿はチリヂリになって、肉片から砂塵になって吹き散らされている。核を破壊されて確実のこの世から消え去ったのだろう。


そして対峙する充希と京介。何と話し掛けようかと悩む京介に、最初に口を開いたのは充希だ。

「おおきに!! おかげで助かった。うちは田中充希ってゆうねん。職業は勇者らしいねん」

「だろうな。俺は金城京介。職業はここに来た経緯から部外者とでも言っておこうか。それから助けたことは気にするな。あいつには左腕を潰された借りがあったからな」


 そう言葉を交わした二人の頭に中に電子的な声が響いていた。

「レベル100になりました。持っているスキルがすべて10になりました」

 レベルがカンストしたな。それにスキルもマックスだ。これで俺もこの世界最強の一角だ。


「レベル91になりました。持っているスキルがすべて10になりました」

(レベル91……、今の魔族を倒したことでこんなにレベルが上がるの? うちより全然強いやん。もし、今の魔族が傷を負ってなかったら……、それにこの人が助けてくれへんかったら、うち確実に死んでたな……)


 そう考えて、今更ながら青い顔をして脱力する充希を見て、京介は見込み違いが起こったのかと心配になった。

「もしかして経験値が入らなかったか? 核に刀が触れたのは同時だったと思ったんだけど?」

「ああっ、大丈夫。すごくレベルが上がったから。あの魔族、かなりレベルが高かったみたいやな」

「そう云やあ、あいつレベルが90とか言ってたな。でも良かったよ。横やり入れて経験値までかっさらうとか申し訳ないからな」

「レベル90かー……。自分、おれへんかったら、うちは間違いなく死んでたし。それにあんた変な魔法使うやろ? その飛び方もうちらのスキル飛行と違う感じやし、風魔法を使ってないんとちゃう?」

「あっ、気が付いた? 俺は重力遮断で浮かんでいるから。ほら、こんなふうにジグザクにだって飛べるんだ」

 京介は空をジグザクに飛んで見せた。

「なにー、その飛び方、UFOみたいな飛び方やな。あっ、そうか!! 重力魔法ってことは対象物の重力をコントロールする、こともできるんでしょ」

「さすが、転生者だな。すべての物質はお互い引き合っている。その引き合う力を大きくすることで、撃ち出した水弾は標的に近づけば近づくほど加速して早くなるし、追尾ミサイルのようにどこまでも追いかける。実質、回避不能だ」

「それにしても、魔族が張る防御壁をたった一滴で破壊する威力って?」

「あれは……、まあ、俺の固有スキルだ……。そう言えば、お前も固有スキルを持ってるよな。光属性の魔法で、時間を進める魔法だな。そして闇魔法は時間を巻き戻す魔法。二人が戦っているのをみて気が付いた」

「時間を……」

 充希は京介の指摘に、自分の魔法の属性に初めて気が付いた。思い当たることはある。なぜか良く当たる魔法に、傷の治り方……。確かに自分の魔法は時間を進め未来を実現する魔法だ。

「光属性とは時間をコントロールする魔法……」

 ぼそっと呟いた充希の言葉に念を押すように京介は言葉を続けた。

「まっ、そういうことだな。闇魔法は光魔法と正反対に時間を巻き戻す魔法だ。――自分の固有魔法と相手の固有魔法を知らなければ、この戦いには勝てないぜ。勇者には魔王に勝ってもらわないと俺も困るんだ。よろしく頼むぜ!」

 そう言い残して、京介はエムたちの元に戻って行こうとする。

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