第41話 なんかおる?!
「なんかおる?!」
土ぼこりが晴れた先には、肩から抉れて片腕を無くした悍(おぞ)ましい姿が現れた。
「ま、魔族……?」
言葉を失ったキャロラインを庇う様に、前にでたリオン団長。
「キャロライン王女、確かに魔族です。それも相当強い魔族です」
その三人の姿をみたドゥリタラーは長い爬虫類の舌を伸ばして舌なめずりをした。
「そこに勇者がおるとは、我はツイテいる。くくくっ、しかもレベルが55程度とは……。
魔王への手見上げに汝の首もらい受ける!!」
「はあっ、あんた誰なん? そんな大けがしてうちとやり合おうってゆうんか! 舐められたもんや!! しばき倒したる!!」
充希は一気に凶暴な目をドゥリタラーに向ける。
先に動いたのは充希。紅蓮剣を抜きドゥリタラーに迫る。
「遅い、遅い、勇者とはこんなものか。――な、なんだ?!」
ドゥリタラーにとっては確実に躱したはずのヒイロガネの刃が胸に届いていた。
「神武流先読みの太刀!!」
紅蓮剣を振り抜いた形で、(決まった)充希はそう呟いた。その瞬間、ドゥリタラーの胸から鮮血が噴き出す。
「中々やるな。だが、まだまだだ。我が名はドゥリタラー!! 魔王が四天王の一人!!」
そう叫ぶと、ドゥリタラーのからだに闇が纏わりつく。すると、切り裂かれた胸の傷は血が止まり、徐々にではあるが傷口が塞がっていく。
「デーモンズクロー!!」
呪文と共に右手に魔法陣が浮かびあがると、一尺あまりの黒光りする爪が闇を纏って現れた。
なぜか、焦点が定まらない陽炎のようなカギ爪に、警戒しながら目を細める充希。
「めっちゃ、ヤバそう……」
「ええっ、見たことも無い魔法です」
充希の言葉に、キャロラインも不安そうに答えた。
だが、ユラユラと近づいてくるドゥリタラーの動きは遅い。振りかぶられたカギ爪はゆっくりと充希の頭上にふり降ろされた。
(これなら、避けられる)
充希が完全に躱したと思った瞬間、充希は悪夢に囚われる。躱したはずのカギ爪が再び頭上に在るのだ。
「――!!」
やられたとそう思った瞬間、神武の剣でカギ爪を受け止めたのだ。
その感覚は、自分と違う自分が重なるように動いて、神武の剣を動かしたとしか思えない。
「――?!」
「ちっ、どういうことだ!!」
二人は後方に飛び、距離を取ると先ほど起こった現象に首を傾げた。
「「これが闇(光)属性魔法……」」
二人はそう呟くと、再び尋常じゃない速さで衝突する。その瞬間、充希は光を纏い、ドゥリタラーは闇を纏い、衝突するたびに、大地を震わし衝撃波を産むのだ。
衝撃波に金髪をなびかせ、戦況を見つめるキャロラインは怯えながらリオンに訊ねた。
「リオン……、充希は勝てるでしょうか?」
「分かりません。残像でしょうか……、私の目には4人が戦っているように見えるんです。2人が戦っている最中に必中の一撃を放ち、それをギリギリのところで受けきるもう二人が……」
「そうなんですか? 私には、どんな動きをしているかも分かりません……」
そう言って、戦況を祈るように見つめるキャロラインとリオン。
(まただ。確実にカギ爪を避けたはずなのに、再び同じ場面を繰り返すようにかぎ爪が振り落とされる。すると、まるでその動きを読んでいたように、もう一人の私がそのかぎ爪を弾き、紅蓮剣がドゥリタラーを追う。しかし、捕えたと思った瞬間、再び巻き戻されたようにドゥリタラーには届かない。
そんな攻防を続けているうちに、もう一人の私が出現する前に、私にドゥリタラーのかぎ爪が私の皮膚を切り裂く。回復魔法をかけているけど、ドゥリタラーにつけられた傷は治りが遅い
それは、ドゥリタラーも同じようだけど……。レベルの違いか、地力が違う。さっきから押されっぱなしだ。実際体に浮かぶ切り傷は充希の方が多い。
そんな二人の戦いを、ドゥリタラーを追ってきた京介とエム、そしてサリーとマリーは見ていた。
「へえー、あれが闇属性と光属性の戦いか~。二つの違いが良く分かるよな」
「ええっ、闇属性は時間を遡る魔法、光属性は時間を跳躍する魔法なの、です。簡単に言えば、闇属性は過去から攻撃する魔法。光属性は未来から攻撃する魔法です、です」
エムが分かりやすく解説してくれたが、サリーとマリーは目を見開いて二人の戦いを見守るだけだ。きっと、何が起こっているのか分からず、衝撃波に飛ばされないよう踏んばっているのが精一杯なのだろう。
「で、京介さんはどうするんです?」
「ふん。俺はどちらが勝とうが構わないんだけど……。あの魔族には借りがあるからなー」
「じゃあ、勇者を助けてあげるんですか?」
マリーは期待したように上目遣いで俺見てくる。
「京介はやられっぱなしでは終わらないです、です」
「ちょっと待て、俺がいつやられたって?! すでにあいつに勝つ魔法は考え付いているんだ。ちょっと、見てろ」
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