第40話 やっぱり難しくて
やっぱり難しくて俺には理解が出来なかった。それでも、なんとか理解した範囲で整理すると、俺がいた世界ではループ量子論という仮説で、時空が成り立っているらしい。これは時間と空間が同じ座標に存在しているのではなく、分割不可能な空間量子が連続することで、まるで空間や時間が連続しているように見えるだけとしている理論なのだ。
しかも、空間量子は空間を埋め尽くしているのではなく、空間量子自体が空間を生み出していて、それらは時間の中に存在するのではなく、絶えず相互作用して、あらゆる出来事を発生させあたかも繋いで見せているらしいのだ。
すなわち、時間は過去、現在、未来と一定の方向に進むのではない。時間は存在しないと云うのが正論になってしまうのだ。
まあ、何を言っているのか分からないよな? でも、基本的な物理現象においては、過去と未来は区別しないということなんだ。基本的な物理方程式は過去にも未来に進むことができ、計算上なんら矛盾が起こらない。実験による「原因」と「結果」の区別がつかないから、過去も未来もないということになるらしいのだ。
まあ、そういう訳で、俺の持っている固有スキルは現在にのみ作用し、時間の流れの影響を受けないということになるんだ。
「ふーん?」
「あっ、京介はエムの話を疑っているの、です。自分がなぜこの世界に巻き込まれたのか考えてみやがれ、です」
「俺が、この世界に巻き込まれた理由……。それって、集合的無意識が新しい世界を作り出した時、俺の居た研究室は、グリセリンの結晶化の影響を受けなかった特別な時空で、集合的無意識の影響も受けなかった……!」
「そうです。グリセリンの結晶化っていう事象の結果を受けなかったのです。もっとかみ砕いて言うと、基本形な物理現象の中で、熱力学についてだけは時間の制約を受けるのです」
「熱力学って、あれか、熱力学第2法則、熱は高温から低温に流れその逆は起こらないという法則だろ。それがグリセリンの結晶化となんの関係があるのか?」
「イエス、それはエントロピーが増大する不可逆性こそ、過去から未来に一方的に時間が流れていると物理的には言えるのです。エントロピーとは統計力学でも用いられ、一言でいえば「乱雑さ」を表すの、です。
最初、秩序の高い状態はエントロピーが低く、混ざりあり乱雑になった状態をエントロピーの高い状態というのです。まさに、グリセリンの結晶化はエントロピーの低い状態から高い状態へと移行しているんですが、その流れに逆らったのがあの研究室だったの、です」
「ふーん、エントロピーね……? 確かにあの研究室のグリセリンは全体の流れに逆らったと云えるのかな?」
俺はそう答えて分かったようなふりをしていただけだった。
「よし、謎は解けた。奴に勝つ方法も思い付いた。奴を本気で追うぞ!!」
俺はスキル重力制御を使ってさらに加速してドゥリタラーを追った。
片腕を無くし、血を滴らせながら、飛ぶドゥリタラーは得体の知れない京介に恐怖を感じていた。そして、左腕を無くした失態を魔王に責められることに恐怖していた。その恐怖は、先ほどの人族から与えられるのとは別次元の恐怖なのだ。
背筋が凍り、絶望という名の概念が実体を持って対峙させられる。
「セ、せめて勇者だけでも血祭に上げてやらんことには……」
そう考えるドゥリタラーの目の前は、瓦礫の山で埋まっているのだ。
「高々レベル50くらいでこのダンジョンの入り口を塞ぐことが出来るのか?」
そう疑問に思いながら、右手を差し出す。
「土属性魔法、ケイブディグダ!!!!」
差し出した右手から闇を伴った魔力を放出された。その魔力は、埋まった土砂を押しのけて行く。さらに時間が巻き戻されるように、土砂が元の場所に戻っていく。
◇ ◇ ◇
ビザール・カブ・ダンジョンの入り口では、水蒸気爆発で吹き飛ばされた騎士たちを助け出し、充希の回復魔法で手当てし、充希とキャロラインとリオン団長は土砂で完全に塞がれたダンジョンの前に居た。
「それにしても、さすがに騎士団やな。鍛えられれるわ。あの爆発で誰もしんでないもんな」
「それどころではありません。ダンジョンを塞いでしまって……」
「キャロライン王女、今日の訓練は中止にしますか? 王都に向かうマッドレミングの死の行進を防いだだけでも勲章ものです」
「キャロライン、それにリオン団長、なにゆうてんの。これぐらいならすぐ復旧しそうやで」
「ウソ……」
「まあ、見ててえなーー。クリフウェザーリング!!」
充希は土壁になった入り口に両手を付いて魔力を込める。すると、入り口を塞いでいる土壁は充希の手を付いたところを中心に土が波紋を広げるように波打ち、そのまま飛沫を飛ばすように砂になって風に飛ばされていく。
「風化している……?」
驚いたように呟いたキャロライン。そのキャロラインに答えて充希。
「光属性を強めに土魔法に乗せているからね。直ぐに開通するんやない?」
充希がキャロラインの方を向いて微笑んだ途端、大爆発とともに、充希とキャロラインそしてリオンは吹き飛んだ。
とっさに防御結界を展開したキャロラインのおかげで3人は怪我をすることはなかったのだが……。
「なんでやねんー!!」
どんなに驚いても突っ込むことをわすれない充希。そんな充希の目が、土ぼこりで視界が潰された中、コウモリの羽を持った影を捉えた。
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