第37話 出口の向かう京介とエム
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出口の向かう京介とエム、そしてマリーとサリー
4人は遠ざかって行った地響きが再び近づいてくるのを感じていた。
「エム、どういうことだ?」
「どういうことでしょうか? 走り出したマッドレミングの行軍は誰にも止められないはずなの、です」
京介の疑問にエムは釈然としない解を返した。
「きっと出口で勇者たちに追い返されたんだ」
「さすが、異世界から召喚された勇者です」
サリーとマリーは外の世界で起こっていることを想像して賞賛の声を上げた。
「あなたたち、バカなのです。魔物の群れがこちらにやってくるのに、です」
「まったくだ。早速、勇者ってやつは俺の邪魔をしやがる。こうなると簡単の外にでられないぞ」
気楽に答えた京介だったが、マリーとサリーはさっき仲間が死んだ状況を思い出し身震いする。
どうやって、こんな狭い洞窟の中を逃げるのか? そんな不安がすぐ目の前で現実になった。
らせん状に続くトンネルの先からマッドレミングの集団が押し寄せてくるのだ。
それに対して、京介がレーザー剣を最長にして横薙ぎに払う。今の一太刀で数十のマッドレミングが肉片に変わるが、後ろから続く仲間を踏みつけて小山のようになって京介たちに迫ってくる。
「私が防御結界を!!」
マリーが叫ぶのが早いか、京介が呟く。
「チッ、レベルどころか経験値の足しにもならない。ここはやり過ごすか」
そういうと、4人の体が浮かびあがらせた。
驚いたのはサリーとマリーだ。
「これはどうなっているんの?」
「重力制御だ。そのまま天井に張り付いていろ」
忍者のように天井に張り付いた4人の下をすさまじい数のマッドレミングが通り過ぎて行く。この行進は何キロも続きそうな勢いだ。
「よし、このまま歩いて出口を目指すか」
暢気に京介は天井を歩き出した。
一方マリーやサリーの方は気分が落ち着かない。頭の上には魔物の集団が土煙を上げて通り過ぎていてなんとも不思議な気分だ。
視界がが逆転しているのになれない。ともすればあの集団の中に真っ逆さまに落ちて行くのではないかと気が気ではない。
そんなことなど構わずに並んで先を行く京介とエムの後姿を見る。
「なあー、マリー」
「んっ、なに?」
「なんでエムさんのスカートって捲れてないんだ?」
「だって、私たちだって同じでしょ」
「もう、なにがなんだか分からねえよ」
そう言ってスカートを抑えていた手を放した二人。どうやらこの世界には重力の概念が無かったようなのだ。
「京介、あれを見て」
エムが指さした先は、洞窟の主通路に交わる横道にもマッドレミングがなだれ込んで入り所だった。 確かに通路を押し合い圧し合い進んでいるのだからそこに穴があれば、押し出されるマッドレミングもいる。そして一匹がそこに入れば、濁流が枝分かれしたようにその穴にも流れ込む。
エムが指さした横穴だけはそんな現象が起きずに、一匹たりとそこには近づかないのだ。
「あの横穴は?」
「えーっと、マッドレミングの巣穴に通じていますね」
京介の問いにマリーが答えたのだが……。
「じゃあなんで、マッドレミングは自分たちの巣を避けるんだ。
「!!」
マリーとサリーは気が付いたように顔を歪め、逆にエムは微笑を浮かべるのだ。
「マッドレミングの本能が恐れるものが存在するの、です。この時期に死の行進が始まったのもうなずけるの、です」
「だろうな。集団自殺が種を守る本能から起こっているのだとするとすれば、種を全滅させる予感させるものでなんだろうな ? ちょっとよってみるか」
京介のさらっとした発言にマリーとサリーは顔色を悪くした。
「待って! 待ちなさいって!!」
二人が叫ぶがもう遅い。京介に引き摺られるようにマッドレミングの巣穴に向かって方向を変えたのだ。
巣に向かう洞窟は静かなものだ。長い洞窟のあちこちに横穴があり、迷路のようにいりくんでいる。
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