第36話 全員、飛行!!
「全員、飛行!!」
リオン団長の指示が飛び、騎士団全員が浮かび上がる。充希のレベル上げに随伴したおかげで、ここにいる騎士たちは全員飛行のスキルを身に着けているのだ。
その下を大量のマッドレミングが通り過ぎて行く。その集団に向かって魔法を打ち出すが、業火にコップの水を撒くように焼け石に水だ。
マッドレミングの群れは王都に向かって進んでいる。もし、この群れの行く先に王都があれば……。いや、マッドレミングの通り道になった町や村はほぼ壊滅するだろう。
「動きを止めないと!! スキル土石流!!」
充希が放ったスキル土石流とは、水属性と土属性を同時に使い土石流を引き起こすものだ。地下水を水魔法で地面まで引き上げ、泥沼化した地面を土魔法を使って津波のように操る。充希がレベル30のロックゴーレムを倒した時に習得したスキルだ。
泥沼化した地面に足を取られ侵攻が遅くなったマッドレミングの群れ、さらに土石流がダンジョンの入り口へとその群れを押し戻す。
ところが、ダンジョンからは触れ出てくるマッドレミングはそんな障害もお構いなしに、仲間の背中を踏みにじり、土石流によってできた壁をよじ登ってくるのだ。
あのダンジョンの入り口をふさいで、なんとか止めなきゃ!
充希の脳裏に浮かんだのは土石流と同時に火山が噴火による水蒸気爆発という事前の脅威だ。
水蒸気爆発っていうのは、熱い溶岩に冷たい水が触れることで、液体から一気に気化ることで膨張する爆発だ。一気に数千度まで岩を熱すれば溶岩になって……。
「みんな、もっと高く離れて!!!!」
充希は叫ぶと火属性の魔法を地面に向かって放出する。そして、一気に過熱されドロドロに溶けだした岩が土石流とともに泥水に流れ込んだ。
ドッカ――――――ン!!!! バリバリ!!
鼓膜が破れるほどの大音響と衝撃波が充希や騎士団を襲った。さすがに騎士団の何人かは吹っ飛んでいったが、充希はキャロラインがとっさに張った防御壁により事なきを得た。
もっとも、視界は真っ白なもやに包まれて、何が起こったのかキャロラインには理解できなかったみたいだ。
「充希、あなた一体なにをやったの?」
「水蒸気爆発でダンジョンごと吹き飛ばそうかと」
「水蒸気爆発?!」
「ああっ、地下に向かって火炎魔法をね。一気に熱した岩を土魔法で表面まで引き上げて水魔法で冷やした水に接触させた」
「あなた、三つの属性魔法を一度に使ったの? そんな、ありえない……」
「――大したことないやろ。それに今頭の中でスキル水蒸気爆発を取得したって言ってるから、今度からもっと簡単にできると思う」
「いや、そういう問題じゃないから……」
呆れたようにキャロラインは言ったが、目の前の靄が風魔法で吹き払われた光景に、思わず開いた口がふさがらなかった。
ダンジョンの周りはクレーターのように抉れ、吹く飛ばされた岩や土がダンジョンの入り口をふさぎ、目に見える範囲では、地面を覆いつくすようにいたマッドレミングの姿は掻き消えていたのだ。
「キャロライン。レベルが55に上がったみたい」
「充希、あなたレベルが上がるのが早すぎ……。それにこの威力、レベル以上だから」
「うん。光属性の相乗効果と現代知識のおかげやな」
キャロラインの驚きに、申し訳なさそうに小声で言った充希だったが、その言葉はさらにキャロラインを呆れさせたのだった。
「まあ、いいことだからね……。それより、吹き飛ばされた人を助けましょう」
「そうや、早う探さんと……。どこまでとばされたんやろ?」
まだ、溶岩が熱を持ち、ところどころ水蒸気が立ち上っている黒い地面に降り立った二人だった。
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