第34話 リオンは団長として決断した

 リオンは団長として決断した。

「キャロライン王女、勇者のレベル上げは今日の所はもういいでしょう。 計画よりだいぶ上がりました。それより日没前にこの森を出ることを進言します」

「そうですね。今回のスタンビートの原因は後日調査するとして、早くこの森を出ることにします!!」

キャロライン王女の一言で、思い思いに傷の治り具合を確認していた騎士たちが王女の前に整列した。


「では、撤収!!」

 キャロラインの号令で、キャッラインと充希を真ん中に2列縦隊で、すぐに森を抜けだした。森を抜けても薄暗いことには変わりはなかった。それなのに森から抜けたというだけで気が緩んでいたのかもしれなかった。

 すでに日は沈み目に入るあらゆるものがシルエットになる薄暮の時間帯だ。

 突然、3メートルを超える影が上空から音もなく騎士団の集団に襲い掛かる。わずかに反応できたのはレベル30以上の高位ランクだけだ。

 騎士団の半分が空に連れ去られていく。充希がその情景を見ることが出来たのは隣のキャロラインが防御障壁を展開してくれたからだ。

 

「このタイミングで防御障壁?」

「私の場合は防衛に極振りするようなスキル振りをした結果なんですよね。やっぱり立場上ね……、スキル防御結界レベルマックスの10、おかげでオートディフェンスまで使えるようになったんです」

 ドヤ顔で話をするキャロラインに「ふーん、亀のを虐めたら竜宮城に行けないぞ?」と軽く返答して、半透明のバリアにぶつかる魔物の正体をじっくり確認する。

「でかくて薄気味悪いけど、フクロウ? それにコウモリ?」

「マンイータ・オウルにバンパイヤ・バットですね」

(なるほど、人食いフクロウに吸血コウモリか……。フクロウとコウモリの魔物なら素敵なスキルが手に入りそうやな)

 そう考えた充希は神武の剣を握り直す。

「キャロライン、防御障壁を排除して!」

「えっ、なにを?」

 キャロラインの疑問には答えず、障壁に向かって剣を突き立てようとする充希。障壁が破壊されたらたまらないと障壁を解除したキャロライン。

 その結果起こったことは……、

キャロラインの目の前で、障壁に体当たりをかまそうとしたマンイータ・オウルが神武の剣に串刺しになっている光景だった。


「まだまだ!! ――飛翔剣!!」

 充希は、そのまま剣を横薙ぎに払い斬撃を飛ばす。その斬撃の軌道上にバンパイヤ・バットのほうから飛び込んできたようにキャロラインには見えた。

 その調子で周りを飛んでいるマンイータ・オウルやバンパイヤ・バットを切り落としていく。

 周りの騎士たちも薄暗がりの中、何とか対応しているみたいだし、先に連れ去られた騎士たちも空に浮かんで、魔物たちに対応しているのが見えた。

(そっか、さっき飛行スキルを得たから……。しかもホバリングができるのは昆虫系の魔物のスキルのおかげか)

 キャロラインは上空に連れ去られた騎士たちがなぶり殺されなくてよかったと思った。

(もし、飛ぶことができなかったら……)

 

 一方、光輝は頭の中でまたあの不思議な声を聞いていた。

「スキル空気抵抗無効を取得しました。スキル空気抵抗無効がレベル3になりました。スキル探知を取得しました。スキル探知のレベル3になりました」


「よっしゃーーーー!!」

 その声を聞いた充希は大声を上げてガッツポーズをした。

「欲しかったスキルが手に入った。これで魔物に気付かれにくくなるし、魔物の位置を探知できる」

「あの……、それはどういうことですか?」

「ああっ、キャロラインはフクロウとかコウモリの習性と云うか生態を知らんの? フクロウは羽の構造が独特で、空気抵抗を軽減しているや。だから羽音がほとんどせえへんから獲物を捕らえるのに好都合なんや。新幹線のパンタグラフにも応用されている技術やで。コウモリは口から超音波を出して、物に跳ね返ってくる音で、暗闇の中でも目が見えるように物の位置が把握できるんや!」

「……、よく分からないんですが、そのスキルを得たということですか?」

「うん、試してくる!!」

 充希は神武の剣を構えて踏み込むと、衣擦れの音もなく空に飛びあがった。

 そして音もなく騎士団の間を飛び回り、神武の剣の緋色が弧を描く度にマンイータ・オウルとバンパイヤ・バットの鳴き声が響き、地面に落ちる音がする。

 

 そのうち空を縦横無尽に動き回っていた充希がキャロラインのそばに降りて来た。

「うちの探知では、うちらの周りにはほとんどいなくなった。まあ、向こうも探知が使えるんやから、ほとんど逃げたようやね」

「凄いです。充希。あれだけの群れに襲われて、それを追い返すなんて!!」

「いやーまあ、100ぴきも居らんかったし、騎士団の人らも中々のもんやったし。そんなに褒めんといてえな」

 恐縮したように頭を掻く充希。充希自身も、今日一日で向こうの世界にいた人生を何回経験したことか……。少なくとも二桁は死んでいるにちがいない。

 しかし、今は人々の怪我を治し、空を飛び、魔物を狩る力を得た。

(えらいことに巻きもまれたもんや、そやけど、そこで馴染めるのも大阪人や!!)

 通天閣の場末から転移してきた少女は、持ち前の負けん気を体にみなぎらせるのであった。

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