第33話 充希の廻りには半径300メートルにわたって

 充希の廻りには半径300メートルにわたって木々が細切れに切り倒され、鬱蒼のした森が柴木が積み重なって開けていた。

(これ……、うちがやっちゃったの? とにかく人にあたらないようにって夢中で飛翔斬を振り回したけど……)

 充希は周りの惨劇に目を見開いた。充希は自分の力の一旦に初めて気が付いたのだ。

 しかし、リオン団長はそれ以上の不可思議な現象に目が行っていた。

「やはり威力が強すぎる。それにさっきの飛んでいるメタルビーストを一回の斬撃で効率よく数匹まとめて切り飛ばしていた。飛んでいるメタルビーストを目で捉え、なおかつ先読みするように動きを予測しなければ、あんなに上手くいくはずは……」

リオン団長が首を傾げた。

「充希はめちゃくちゃに剣を振り回していただけですよ」

 キャロラインがリオンの言葉を軽く否定をしたが、充希は別のことを考えていた。

(確かうちの場合はそれぞれのスキルに光属性が付与されているって、あの女神さんが言っていたような……。リオン団長が首を傾ける威力にしちゃったんが光属性ちゃうかなー?)

 充希はもう一度周りを見回した。すると今度は落ちたメタルビーストのとどめ刺して回ている騎士や地面に倒れている騎士が目に入った。どの騎士も鎧が歪み、血の染まっている。

 特に倒れている騎士たちは頭から血を流し、足や腕がありえない方向に曲がっていて、一目で重傷だと分かる者がいる。

「(この人たち……、うちを助けようとしてこんなに傷ついたんやったんや。なんとかできひんかな?)なあ、キャロライン、この怪我人たち、治すことはできんの?」

「今回は充希のレベル上げが目的でしたので、森の入り口付近で魔物を討伐する予定だったんです。それがこんな魔物集団に遭遇することになるなんて……。

 治癒魔法師を連れてくれば良かったんですが……」

「回復魔法?!」

「ええっ、傷や体力を回復させられるんです。基本的には水属性の魔法を使って直すんです」

「ふーん、水属性の魔法でね~(温泉の効能みたいなもんかな? 湯治みたいに時間が掛かりそう……)」

「そう言えば、伝説では勇者も回復魔補が使えていたはずです。光属性の回復魔法って記述がありました」

「光属性の回復魔法?」

「充希、あなたなら光属性の魔法を使えますよね。この人たちを助けてもらえないでしょうか。お願いします」

「いや、お願いされても……(いったいどうしたらそんな医者みたいな真似ができるのよ? でも、怪我している人達をほっとけないし)やるだけやったろか!」

 そう言ってキャロラインを見ると、キャロラインの目には期待と信念が浮かんでいる。

(まったく、世間知らずのお姫様が……。そんなに自分の思い通りに行くわけないんやから)

 それで、充希が思い付いたのが、自分が怪我をした時のことだ。あの時は大変だった。

 自転車で車に引っ掛けられた時だった。

(うちって、二回も車にはねられてるやん。ほんま不幸体質やん。今回は死んでるし、前の時は右足骨折、全身裂傷に打撲、辛うじて首から上は無傷やった。全治一か月、包帯を代えるたびに見えた傷口、その傷が盛り上がってだんだん治っていったな~)

 充希は目を閉じ精神を集中する。その状況が頭の中に浮かび、その状況に意識を鎮めていく。するとそれに答えるように意識の底から回答が返ってきたような気がした。

(そんな簡単なことでええん?!)

 思わずそんな言葉がでた。充希は意識をその回答にシンクロさせながら、両手を広げ、魔力を放出するイメージが出来上がっていく。


 充希は目をカッと見開くとイメージが練り込まれたエネルギーを放出した。今まで経験したことも無いぐらいの脱力感が充希を襲う。

 それと同時にまばゆい光が体を中心に広がっていく。その光は半径300メートルに達し、光のドームはちょうど充希がズタズタにした範囲の森に掛かっていた。

 その光のドームの内部にいた充希やキャロラインそれにリオンを初めとする騎士団の人たちの視界は光で遮られ、再び視界が開けた時には周りの景色は一変していた。


 光が晴れた時森の木々が復活していたのだ。

 驚くことはそれだけではない。騎士たちの怪我もすっかり治っていた。


「これは……、どういうこと?」

「治癒魔法?」

 キャロラインに訊ねられて充希はきょとんとした顔で答えるしかなかった。それと云うのも自分が考えていた結果とはだいぶ違っていたのだった。

「森まで治癒させたと云うの……?」

「……。(光魔法だから)」

 キャロラインに言われるまでもなく、充希も何が起こったのか自分でも分からない。心の中で自分自身を納得させるしかない。

「これが光魔法なんですね……。初めて見ました」

「そやな……」

 キャロラインも充希を同じことを考えていたようだ。光魔法の効果はとてつもなく高い。二人が同じ結論に達したところで、リオンだけは自分の怪我の治り具合を観察して首を捻っていた。

(治癒したところの細胞組織が以前より強くなっている)

 例えば骨折で自然治癒した場合、そこの骨は周りより強くなったり、怪我をした皮膚が周りより厚く固くなったりするのと同じようなことが起こっているとリオンは感じたのだ。

 それに森の状態も来た時とはまったく同じという訳でもなかった。森林特有の鼻を付く匂いが濃くなっているのを感じていたのだ。

(新緑のまだ若い匂い?)

しかし、リオンはそれについて確信が持てなかったため二人には話さなかった。

それよりもこの魔物のスタンビートの方が気になる。この広大な森の奥で何かが起こっている。これ以上ここにいるのは危険だ。なにより日が落ちて周りが暗くなってきている。夜になれば魔物たちはさらに活性化し、逆に視界が悪くなって人族には不利になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る