第32話 騎士たちにしがみ付いていたメタルビーストを

 騎士たちにしがみ付いていたメタルビーストを駆除したところで、充希の頭の中で、もはやおなじみになって来た無機質な電話オペレーターの声が響いた。

「スキル飛行2になりました」

「スキル飛行3になりました」

「スキル神武流剣術2になりました」

「スキル神武流剣術3になりました」

「レベル2になりました」

「レベル3になりました」

「ドロップアイテム鋼の鎧を手に入れました」


(何をいっているやろ?)そう考えて充希はキャロラインの方を見た。

「あの、今頭の中でスキル飛行が3になったとか、神武流剣術3になったとか? それからレベルも3に上がったみたいです。あと、鋼の鎧を手に入れたとか?」

「えーっ! もうレベルが上がったの?! しかもドロップアイテムが出たとか! そっか……、もうメタルビーストを10匹以上倒したわけだから……。確かにメタルビーストは中位の魔物ですけど……。――それにしてもレベルが上がるのが早すぎます……」

 充希の発言にキャロラインは驚いたように見開き、ポカンと開いた口から今度はぶつぶつと呪文のような呟きが聞こえてくる。

「キャロライン?! どうしたのよ?」

「充希様、早くドロップアイテムを収集してください。一定期間放置すると消えてしまいますし、拾得者以外が触ると消えてしまいます」

「あっ、うん!」

 充希は、メタルビーストが消えた足元の地面に落ちていた金属の破片を拾うと、勘に従って左手の甲に押し付ける。すると、金属は変形して、ぴったりフィットする小手に変わった。

 メタリックな感じがちょっとカッコいい。それに動きの邪魔にならない。

 嬉々として次から次へと鋼の金属を拾い上げると、肘当て、脛当て、胸当てと思うままに体の各所に装着していく。やがてその恰好は女騎士のようになっていた。

 下に来ているのが学生服って云うのが残念だ。道着に袴ならもっと似合っていたのに……。それでもテンションがあがる充希であった。

 そんな充希にキャロラインが声を掛けた。

「充希、あの向かってくるメタルビーストを飛翔斬でやっつけてください」

「ん、飛翔剣といわれても……」

「大丈夫です。神武流剣術スキル3なら」

 そう言われても、充希にはスキルが上がっても自分の体がどう変わったのか自覚も無い。ただ、体が望むように動かせばいい。本能がそう教えてくれる。

「そやな! できる限りのことはぜんとな 飛翔斬!!」

 充希はメタルビーストに向かって神武の剣を振り回した。そうすることで、神武の剣から緋色の斬撃が飛びだしたのだ。

(よっしゃー! イメージ通り)

 飛び出した斬撃は鋼の胴体をものともせず、羽や胴体それに角を切り落として、メタルビーストが地面に落ちてくる。

「うーん。まだまだ精度はイマイチですね」

「しゃーないやん。まだ、飛翔剣の出るタイミングがつかめてないんやもん。それでもちゃんと当たるんやからたいしたもんや。さすがレベル3や!」

「それに神武流剣術のスキルも3でしたね」

 充希とキャロラインが話す間に、今まで劣勢だった騎士たちが落ちたメタルビーストに止めをさそうと動き出した。

「充希、騎士たちの援護を!」

「うん、まかしといてえな! 唸れ飛翔斬!!」

 ここでも充希のお調子者の素顔が覗く。


 地面に落ちたメタルビーストの関節部や羽をなくしてむき出しになった背中に剣を突き立て次々と倒している騎士たちに、空から狙いを定め急降下してくるメタルビーストに緋色の斬撃が狙いを定め飛んでいく。

 そして、次々とメタルビーストを打ち落としていく間にも頭の中では麗のアナウンスが続いていた。

 結局、100匹はいたメタルビーストはほぼ充希に打ち落とされ、騎士たちに止めをさされ、危なかったリオン騎士団長も態勢を整えて魔物を迎撃することに成功した。


「充希殿、見事でした」

 魔物を追い散らかし充希たちに合流したリオンが片膝を付いて充希を称賛した。それに伴い騎士たちが全員片膝をついて首を垂れていた。

「いやいや、ほらお互いさまやから」

 大の大人にこんな対応をされた充希は面食らったのだが、横腹をキャロラインに突っつかれて何とか受け答えした。

「しかし、さすがに勇者様です。これだけ魔力を使い続けて、今だに魔力切れを起こす気配もありません。それに戦いの途中からどんどん動きが良くなり剣を振るう姿も様になっていました、それに最後の方はメタルビーストに百発百中で飛翔斬が命中です。

 レベルとかスキルはどこまで上がったんですか?」


「確かレベルが7で飛翔斬のスキルが8、神武流剣術のスキルが5、飛行のスキルが10やな。あと土錬成スキルが5になっとたな」

「最後、リオン団長の周りに土から生えたマインスピナーのことね、周りの魔物を一気に串刺しにしたやつでしょ。今日のだけでレベルが7に上がって風魔法と土魔法が使えるようになるなんて、早すぎませんか?」

「確かに、成長速度が尋常ではないですな。それにドロップアイテムだってめったなことでは出ないのに、ほぼ百発百中で鋼の鎧を手に入れていましたし、メタルビーストを倒して土、魔法のスキルを手に入れるのは珍しいですな」

「団長もそう思いますか?」

 キャロラインがリオン団長と充希の能力について談義を始めた。

(そう言えば転移するときに、うち、女神に早熟のスキルを貰っとったな……。確か勇者に与える固有スキルとかゆうとったし、このスキルは黙っとった方がええか?!)

「それにしても、レベル7で飛翔斬のスキルが8 飛翔斬の飛距離がレベル10メートルほど……、10メートル×√7×1.3の八乗だから約200メートル、斬撃もおよそ同じだから刃渡り80cmとして約17メートル」

(さすが王女様、計算が早い。あれ、でももっと飛んだり大きくなかったけ? てっきり身体能力が7倍になると思っていたんだけど……、あっそうか、剣を振る速さか! 身体能力は7倍でもはじき出される数値は単純に七倍というわけにはいかへんわ)

 私が自分の能力について冷静に分析している間にも、キャロラインとリオン団長の談義は続いていた。

「キャロライン王女の見立てが間違っているとは思わないが、それにしたらこの状況は酷すぎないか?」

 リオン団長に言われて充希は周りを見回した。

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