第31話 油断するな!! 次々と来るぞ!!

「油断するな!! 次々と来るぞ!!」

 リオン団長の怒鳴り声が聞こえた。こんなところで放心している場合じゃない。

 神武の剣を杖代わりにして充希はなんとか立ち上がった。

「充希様、大丈夫ですか?」

「(よかった。腰は抜けてないみたいや)、……何とか大丈夫」

 充希はキャロラインの声賭けに、自分の体を見回し、ホーンラビットの返り血を浴びていることに気が付いた。

「うえっー!」

 吐き気をもよおした充希だったが、そんな場合じゃないとでかかったものを再び飲み込む。

 充希とキャロラインの周りを取り囲むように騎士が配置され、さらにその周りをさっきのホーンラビットや野犬のような魔物、それに大型のネズミのような魔物の群れに取り囲まれているのだ。

「こんな森の入り口で魔物の群れに出くわすなんて!!」


 リオン団長の舌打ちが聞こえる。

「キャロライン王女! 撤退だ! 艫は俺が引き受ける」

「そんな無茶な!」

「いやここで勇者殿を死なせるわけにはいかない。カシム! 充希様と王女を安全な場所に……」

 リオン団長はそう云うと、魔物の中に踊りこんでいく。その剣筋はまるで踊るように魔物たちを蹴散らし、足止めする。

「リオン団長!」

「大丈夫、彼はAランクなの。人族最強のうちの一人なのよ」

 うちは大声を上げるが、キャロライン王女が腕を掴み、取り囲んでいた騎士たちの輪は森の外へと動き出した。


 さすがに人族最強の一角と言われるリオン団長だ。魔物の群れを的確にさばいて、充希たちに近づけさせない。時々、リオン団長が打ち漏らして充希たちの方にくる魔物も騎士の放つ魔法と剣で倒している。

 ただ、その撤退は中々進んでいなかった。充希のレベルが一人低すぎるのだ。足場の悪い中、人間を辞めてるレベルの人たちの足手まといになっている。時間が掛かればかかるだけ、魔物は森の奥から溢れるように出てくるし、スキルと魔力の消耗が激しくなる。

(うちがみんなの足を引っ張てるな)

 それが分かっているだけに充希はみんなに申し訳ないと感じていた。

 大体、学校では充希は勉強の方は今一つだが、スポーツは得意だし、足の速さなら男に混じっても遜色なかった。

 そんな充希でも、野生動物相手に勝てるとは思っていない。しかし、目の前の魔物の動きはそんな野生動物さえ軽々と捕食する。そんな魔物と中世騎士の恰好をした騎士が戦うまったく常識離れした状況なのだ。


 魔物に囲まれての撤退は、来た時の倍の時間が掛かっている。防戦しながら森の外の明かりが見えたのは、リオン団長や騎士たちの動きが制裁を欠き、肩で息をしだした頃だった。

 

 やっと森の外に出られる。充希がほっとしたのもつかの間、今度は森の奥から大量の羽音が聞こえてくる。


「メタルビーストが来ます。 魔物の血の臭いを嗅ぎつけて来たんです」

「嘘だろ……?」

 キャロラインの言葉には苦渋が滲み、騎士たちからは信じられないと絶望の言葉が漏れている。

「メタルビースト?!」

「ええっ、まずいです。奴らは鋼の外骨格を持つ昆虫型の魔物なんですが……」

 充希の問いに答えたキャロラインの言葉がそこで止まった。

 そこから先の言葉は、今目の前で起こっていることで充希は理解できた。

 メタルビースト、それは人間の赤ん坊ほどの大きさがあり、尖った角が二本頭から飛び出ているヘラクレスオオカブトムシのような容貌だった。

 飛んできたメタルビーストはリオン団長や騎士団が放つ炎や氷のやり、風の刃にもびくともしない。硬い外骨格は魔法どころか槍や剣さえはじき返してしまうのだ。

 そして、巨大なメタルビーストは次々に騎士にしがみ付いた。まるで子どもが父親に遊んでもらおうとしがみ付くように……。

 しかし、目の前で起こる現実はそんな微笑ましいものではなかった。メタルビーストの足のは鋭いトゲがあり、そのトゲは騎士たちの鎧を突き破り、鎧を歪めて締め付ける。

 騎士たちは顔を苦痛に歪めて体のそこらかしこから血を流しているのだ。

 さらにメタルビーストは二本の角でしきりに首元を狙ってくる。騎士たちは必死に角を掴んで抵抗しているのだが……。

 角には内側に向かって鋭い牙のようなものが生えている。あの角で首を挟まれたら……。首が引きちぎられ頸動脈から血が噴き出るところが容易に想像できる。

(首狩りカブトムシなんて……)


 充希を守ろうとする人が目の前で死にそうになっている。

 そんな場面に出くわして、充希の感情は爆発した。下町育ちで義理人情に篤い充希には黙って見ていることができなかったのだ。

「コンニャロー!!!!」

 魂の叫びととともに充希は手に持っていた神武の剣が緋色に輝きだしたのだ。


 充希はそんなことにも構わず、騎士にしがみ付いているメタルビーストの頭を一突き。執拗に首元を狙う角を騎士に握られ動きが膠着しているメタルビーストの頭を突くことは充希でも簡単だった。

 するとあれだけ固かった外骨格に神武の剣は突き刺さり、焼き切るようにそのままズブズブと抵抗なく刃先が進み、メタルビーストは砂のように形を無くし、さらさらと風に流され霧散してしまった。

 それに合わせて頭の中で電子音が鳴り響き、それに続いて無機質な声が聞こえた。

「スキル紅蓮剣が開放されました」

「スキル飛行を獲得しました」

「……ん?!(この高熱を帯びた剣こそ紅蓮剣?!)」

 充希は小首を傾げてニヤッと笑うと、そのまま他の騎士にしがみ付いているメタルビーストを次から次へと串刺しの刑を執行していく。

「そりゃ! そりゃ!! そりゃーー!!」

 充希は勝てると判断すると容赦なく、どこまでも図に乗るタイプだったのだ。

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