第29話 どんなって言われても……

「どんなって言われても……。文献に書かれているのは世界が闇に包まれ、恐怖が増幅されたようだったとか……。

 それにね、時を同じくして人族の住んでいる場所から、充希様が現れた召喚魔法陣が見つかったの。そこから勇者様が現れて、光魔法で魔族を撃退、魔王を魔族領の奥地に封印したのです。

 

光魔法と闇魔法が衝突した結果、その境界の大地に深くて長い地割れ、グランドクラックが刻まれました。

そのグランドクラックに魔王と勇者が飲み込まれ、魔族も魔族が使役する強力な魔物もその亀裂を超えようとはしないのです。同じく人族からもこの地割れを超えようとするものはなく、魔族と人族はそのグランドクラックで隔てられています。

「魔族は別として、なんで人族は超えようとせえへんの?」

「恐怖心や畏れ、不安や不快を感じて足が動かなくなってしまうようです」

「うーん。なんでやろそれは?」

「それは私にも……。ただ、その状態も魔王復活が近づくと変わります。魔族や魔物の活動が活発になり、まず、人族側にいる魔物たちが活性化し数を増やしより攻撃的になります。

 すでに、いくつもの村が魔物たちによって滅ぼされおり、それを私たちは魔王復活の兆しと判断し、古の教えに則り、勇者様を召喚したのです」

「……」


 キャロライン王女の話は終わったが、それは何の手掛かりにもなっていなかった。それどころか、謎はさらに深まったといっていいだろう。魔王と勇者、結局二人は戦ったのか? それはどんな戦いだったのか? 勇者は最後どんな風に魔王を封印したのか?

 もっと根本的な話、なぜ、魔王は生まれたのか?  

 話を終えたキャロラインにそんな疑問を充希はぶつけてみたが、返ってきた答えは「分からない」だったのだ。


「なんでなんも残ってないん?」

「そう言われても……、勇者と魔王の戦いを見届けた者は誰一人いないんです。全員がグランドクラックに飲み込まれて還って来た者がいないんです……」

「……魔王と勇者も?」

「……」

 キャロラインはばつが悪そうに眼を逸らした。

(まあ、うちは最初から人柱みたいなもんか……)

 重苦しい雰囲気になったところで、リオン騎士団長が口を開いた。

「もし、充希様が魔王を圧倒して、封印などと言わず滅してくだされば……」

(はあっ、只の高校生に絶対無理やろ! うちは戦闘力は皆無やもん。そりゃ同級生の男をしばいたり、うちの尻を触ってくる酔っぱらいをしばいたり……、あれ、けっこうしばき倒してるな?)

「滅するって……、光魔法とかで何とかなるん?」

(うちが転移の女神から貰ったんは、光魔法だけやし、もっとも、どうやれば魔法を使えるかもよう分かってへんし……。そのへんのことは女神に聞いておくんやった)

「光魔法とは……、はやり充希様は光魔法を持っておられましたか? それはこの世界の管理者からのアクセスで知ったのですか?」

(えーっと、この世界の管理者からのアクセス? うちは異世界に転移する前に遇った女神に言われただけなんやけど……)


「リオン、やはり充希様は勇者でありました」

「キャロライン王女様、そのようです」

「ちょ、ちょっと待ってえな! この世界の管理者からのアクセスってなんやなのん? うちなんのことは分からへんで」

 勝手に話を進めるリオン騎士団長とキャロライン王女の話になにも分かっていない充希は割って入ったのだ。

「光魔法は勇者のみが扱える魔法です」

「その通り、管理者からのアクセスと云うのは、頭の中に声が響いてくるんですが、まだ、聞いていないのですか?」

「うん、そういうのは無いかな? 大体そんなんって危ない薬やっている人か、中学生が患う痛い病気の人だけやで」

「……、言っている意味が分からないんだが……。まあ、レベル上げをすれば充希様にも分かることです」

「レベル上げ?」

「ああっ、それはだな……」

 そういってリオン騎士団長はレベルについて話はじめた。

その内容は、魔物を倒すことによって、経験値を得て一定の経験値に達すると、レベルが火とつ上がり、倒した魔物のスキルを得ると云うものだった。そして、レベルとはレベルが一上がるごとに人族の身体能力が倍化され、スキルのほうは一上がるごとに1.3倍に威力があがるということだ。

 今の力が倍になったとして、うちはどうなるんや? そんな仮定の話はどうでもいいやと充希が考えを放棄すると、リオンは立ち上がり充希の腕をとった。

「論より証拠。まず、私とレベル上げに参りましょう!」

「いやいや、魔物と戦うなんてムリゲーだから」

 現実的に魔物と戦うなど今の充希には無理に思える。大体、魔物って弟が持っていたマンガに出てくるエリアンみたいなやつしか思いつかない。そんなやつと戦えるわけがない。

充希は速攻で否定したのだが、キャロラインはなんでもないという風に説明を始めた。 

 「大丈夫ですよ。リオン騎士団長のレベルは42ですから、城の近くにいる魔物相手では全く危険はありません。それに……」

 そこで言葉を止めたキャロラインは豪華な刺繍が施された真っ白な布に包まれた白鞘袋を充希の前に差し出した。

「これは1万年前の初代勇者が持っていたヒイロガネと呼ばれる金属で造られたと言われる神武の剣でございます。そして、これが充希様のレベルを上げるアイテムでございます」

「神武の剣?」

 差し出された神武の剣を充希は黙って受け取った。

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