第28話 そっちから呼び出しておいてひどい言い草が

 それにしても、そっちから呼び出しておいてひどい言い草があったものだ。


(まあ、現実はこんなもんやろ)


元々、充希は大阪下町の高校生だ。同じ高校生の男の幼稚な考え方には閉口していた。現実が見えていない。大した努力もしてないのに自分がなにか人と違った才能があると信じて、夢見がちな野郎ども。

そんな、彼ら(弟)が喜んで読んでいる異世界転生もの。そんな夢物語を読むよりは偉人伝を読んだ方がまだまし。そんな話にリアリティがない。

例え自分が異世界転移しているにしても……。

(しょうもな……。夢見る下種はどこに存在しようが下種。平凡な自分にはこの対応が現実。これからうちはどうなるんやろ?)

 それが、充希の率直な感想だ。自分はどこにでもいる平凡な人間で、日々の人間関係でさえ汲々(きゅうきゅう)している。同じような大人が店で安酒飲んで、くだを捲く姿を百万回は見てきたのだ。


 そんなことを考えていると、扉がノックされ、キャロラインとリオンが部屋の中に入って来たのだ。

 その瞳は、充希にすごく好意的だ。どうやら、スキル魅了は一旦かけた相手には永続的に効果がみられるものみたいだ。まあ、立場を超えて好意を示すことはあり得ないんだけど……。

 そして、充希の前に座ると、まず、キャロラインがこの世界の理について話始めたのだ。

 その話によると、一万年以上前から魔族と人族は戦いを繰り広げていたらしい。

元々は、人族に比べ魔力の多く魔法の威力が高い魔族は、人族の指導的立場だったらしい。 魔力無しでは、この世界はいつまで経っても原始社会そのままだっただろう。

人族を城壁のような土塀の中に囲み、その中で監視をしながら、作物や放牧をさせる。塀に囲まれた家畜のような生活。魔物から守り、魔力を提供する代わりに、労働力を提供させる。それはもう奴隷のように……。

 農業や工業において土の開墾や治水、農業工具を作るための鍛冶、狩猟や放牧するための道具、それらの作成には魔力が絶対的に必要な技術だったのだ。

 魔族は人族の上に立ち、人族を奴隷のようにこき使い、反抗するものは見せしめに魔法で嬲り者にし、絶対的君主として栄華を極めていたのだ。

 要は魔族に暴力と施しで命を握られ、魔族の庇護のもと搾取され、生かさず殺さずの構図になっていたのだ。

 そうして、しばらく人族にとって暗黒の時代が続いていたが、それを変えたのが、人族が魔物を倒せばレベルが上がり、魔物が持つ魔法を身に付けることが出来ることに気が付いたことだ。さらに魔物から取れる魔石には魔力を宿していて、魔力をエネルギー源に生活を便利することまで考えついたのだ。


 それはほんの偶然だった。作物が不作だった年、収穫できた作物もほとんど魔族に取り上げられ、その辺に生えている草や木の皮を食べ、飢えを凌いでた年、生きるために三人の若者が、食べ物を求めて、禁を破って土塀の外に出たのだ。

 腹を減らした若者3人が、せめて木の実やキノコでもないかと踏み入れた森で、ホーンラビットに襲われ、手に持っていた鎌でそれを倒すこのが出来たのだ。

 そのことで、飢えを凌ぐ肉を手に入れ、核を破壊することで魔石を手に入れ、ホーンラビットの風属性の跳躍を手に入れたのだ。


 空腹を満たすために起こした行動が、情報と知恵を手に入れることになったのだ。

 やがて、その行動は川で魔物を倒すことで水属性魔法を手に入れ、水魔法を使うことで火を吐く魔物を倒し、手に入れた火属性魔法で岩の魔物を倒し、土属性魔法を手に入れていった。

 そして、初めて魔物を狩った3人の若者の行動から千年の月日がたち、多大な犠牲をだしながら、風、水、火、土の四属性の魔法を手に入れることが出来たのだ。

 その間に、人族は武器は、鉄製の鎌や鍬から土属性魔法や火属性魔法で合金の鉄や槍そして弓へと進化していった。

 やがて、人族は魔族からの支配からの脱却を目指すようになった。

 魔族にとって人族は穀物を提供するだけの存在、それ以上の存在でもそれ以下の存在でもなかったため、人族の進化は眼中になかった。

 そんな時代に初めて魔力を手に入れた子孫が人属をまとめ上げ、反旗を翻したのだ。

 しかし、人族の寿命は500年生きる魔族に比べて十分の一。レベルやスキルが上がる前に魔物の犠牲になったり、年老いて死に至る。人族の平均的レベルは5から10、ほんの一握りの者だけが50の大台に手が届きSランクの伝説になる。

 しかし、魔族は最低でもレベル50、さすがにレベル90以上に達した魔族は少ないが、70台80台がごろごろしている。魔族との差は歴然であった。


 そして、ある時魔族は人族の進化に気が付いたのだ。

 魔力を持たないはずのちっぽけな存在が魔族に反旗を翻した。魔族と人族、魔力は圧倒的に魔族が上、しかし、人口比で云えば魔族1に対して人族1000、しかも武器を持たない魔族に対して魔族から与えられた鍬や鎌を剣や弓に変えて、数と武器の有利を全面に多大な犠牲を出しながら人族は次第に魔族を自分たちの住む場所から押し出しつつあった。

 人族が魔族から自治を獲得したと思われた時にその出来事は起こった。

 圧倒的な闇属性の魔力を持った魔王が魔族に誕生したのだ。

「……闇属性? それってどんな魔法なん?」

 充希にとって一番分からないのが自分に与えられた光属性という魔法もだが、それと対にあげられる闇属性の魔法というものだ。弟のマンガで見た時も、光に対して闇という感じで相対的に述べられ要領を得ないものだったため、思わず出た質問だった。

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