第19話 ダンジョンに潜ってから1時間
ダンジョンに潜ってから1時間、先ほどから魔物に頻繁に出くわしていた。しかもいつもに比べて攻撃的だ。
ドブネズミを中型犬ぐらいの大きさにしたマッドレミング。それに狂犬のようなコボルト、額に一本の角を持つホーンラビットに、巨大な角をもつ山羊の魔物ホーンゴート。それに目的のデビルシープも……。
どの魔物も警戒するように3,4匹の群れでいる。
「ウインドー カッター!!」「アイススピアー」
エルフの少女が魔法を飛ばし、その隙をついて前衛の男たちが剣を振るい魔物たちに止めを刺していく。
「セイント プロテクション!!」
それでも、前衛を突破して後衛の少女たちに襲い掛かった魔物たちは聖職者の魔法に阻まれ、細剣によって命を奪われていく。
それなりに、連携の取れた攻撃だ。それでも、徐々に精神と体力が削られていく。それほど頻繁に魔物に襲われているのだ。撤退を考え始めた頃、ついにデビルシープのコロニーに繋がる横穴を発見できた。
追いすがるコボルトを振り切って、横穴に飛び込んで、追っ手をついに振り切った。この状態でもこのダンジョンのルールは守られているようで、コボルトも追っ手は来ない。
逃げ込んだ洞窟の奥を伺って、とりあえず危険がないことを確認して、4人は腰を落とした。そして、金髪の男が息を吐いた。
「まったく、今日はなんて日だ。休む間もなく次から次へと」
「ケント大丈夫だった? 体のあっちこちから血が出ているよ」
金髪の男に声を掛けたのはエルフの少女だ。
「いや、悪いのは俺たちが魔物を仕留めることが出来なかったからだ」
エルフの言葉を受けたのはくすんだ灰色の髪の男だ。
「何言ってるのよ。ケントとクランが体を張ってくれたおかげで私もサリーも無事だっただからね」
修道衣の女が言った。
「はいはい、みんな傷だらけよね。マリーお願い」
「そうだわ。スキル、ヒール」
修道衣の女が回復魔法を全員に掛けた。おかげで疲れた顔色だったみんなの顔色が良くなった。
「ありがとう。マリー。それにしても今日はどうしたんだろうな?」
「騎士団の討伐が久々にあるから、動物たちもその雰囲気を感じて殺気立っているのよ」
「そういえば、騎士団もそろそろ潜り始めた頃だろうな」
「でしょうね」
「ケントどうする。俺はここで騎士団が来るのを待っているべきだと思う」
「俺はクランの意見に賛成だ。サリーもマリーもその方がいいだろう。相当MPも使ったし、ここで回復を待った方がいい」
「「うん。あたしたちもそれに賛成」」
エルフの女が頷くと修道衣の女がカバンからポーションを取り出して、みんなに配り出した。
そんなふうに4人が体力や魔力が回復するのを待ちながら、騎士団の到着を待ちわびていると、ダンジョンの底の方から爆発音とともに地響きが起こった。
これは京介が中層でアンデットを蹴散らすため、スキル爆裂でグリセリンを使った影響だった。
これによって中層オアシスから上の魔物は心底怯えた。この世界に実在しないスキル。魔物の本能が逃げろと叫んでいた。
中層から溢れるように出て来た魔物に怯えた上層の魔物はパニックになった。統率が取れないまま、ダンジョン内を逃げ惑い出会った冒険者や魔物に襲い掛かかり我先へと地上を目指す。
こうなれば、ダンジョン内のルールなどもはや無用だ。千に近い魔物がテリトリーを無視して本能のまま生き延びようと動き出した。生と生がぶつかり合えば、弱肉強食の生存競争が始まるのは世の中の摂理だ。
そこにもう一つ問題があった。マッドレミングの死の行進の周期がなぜかこのタイミングで始まったことだった。
「な、なんだ?!」
「今の揺れは?」
「おい、地下の方から、凄い数の魔物が来るぞ!!」
「魔物って、デビルシープか?」
「それだけじゃないみたいだ!! マッドレミング、コボルト、それにオークさえいるみたいだ!!」
探索のスキルが使えるクランが叫んだ。
「逃げるぞ!!」
「ダメだ、間に合わない。どうする?」
「だったらあたしが!! スキル マグナホール!!」
エルフのサリーが土属性のスキルを使って横穴に穴を掘った。しかし、MPの不足でできた穴は二人がやっと隠れられるぐらいだ。
「ごめん、これじゃあ……」
「いや、サリー、上等だ」
「ああっ、その通り」
謝るサリーに対して、ケントとクランが同時に答え、サリーとマリーをその穴に押し込めた。
「ちょ、ちょっと、あなたたちは……!!」
「ここから動くなよ。俺たちは、ちょっくら稼ぎに行ってくるよ」
「マリー、しっかりプロテクションを張っておけよ」
「バカ!! 死んじゃうわよ。逃げてよ!!」
ケントとクランはサリーとマリーをそこに残し、洞窟への奥に向かった。
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