第20話 そこで見たものは
そこで見たものは、デビルシープやオーグを蹂躙しながら、凄まじい勢いで迫ってくるマッドレミングであった。
「おい、ここはデビルシープのテリトリーだろ? なんでマッドレミングが……」
「いや、聞いたことがある。マッドレミングは増えすぎた群れを淘汰するため、周期的に死の行軍を始める。行軍を始めた奴らは死ぬまで行軍を止めないと、それが本能に組み込まれていると……」
「これが……」
お互い密着し、身をこすらせ傷だらけにしながら猛進して来る集団は巨大な灰色の津波だ。それらが他の魔物を飲み込んでいく。
絶望的な表情になるケントとクラン。この状況で生き残るためには……。
そんなことも考える時間も無く、二人は灰色の津波に飲み込まれていった。
そして、ケントとクランがひき肉になった2分後、マッドレミングがサリーとマリーの前を通り過ぎて行った。
わずかに身を隠せる横穴で、身を震わせながら必死にプロテクションを張り、津波が通り過ぎることをひたすら待つ二人。砂塵に混じり血しぶきが舞い、マリーが張ったバリアに弾き飛ばされた魔物が、ぼろ雑巾のようにへばり付く。
「これが死の行軍……」
二人の目の前をリアルな地獄が通り過ぎて行く。やがて、それらは潮が引くように無くなり、後には何がそこに居たのか分からない残骸と傷つき動けなくなった魔物がゴミのように打ち捨てられていた。
そして、MPを使い果たしそこから動けなくなったサリーとマリーが取り残された。
しばらく放心状態だった二人だったが……。
「ケントとクランは?」
どちらからともなくもれた疑問に答える者はなく、二人はお互い支え合いながら立ち上がった。
しかし、周期的に起こるマッドレミングの死の行進を何回か経験して、学習済みの知恵をもった魔物もいた。狡猾で人の言葉も話せば嘘も吐く、相手に苦痛を与えて狂喜する負の感情を持った魔物、ゴブリンである。
ゴブリンはマッドレミングが死の行進を始めたと同時に、自分たちのコロニーに身を隠し、それが通り過ぎた後、テリトリーを広げる。他の魔物のテリトリーに入り込むことで、油断している人間に罠を張り、そして狩り、絶望を与え、欲望のままに蹂躙できることを知っていたのだ。それにいかに人間に自分たちが嫌われているのかも……。
そして、人間たちにとって良質な羊毛を提供するデビルシープのテリトリーにいる二人の女を見つけたことで、卑劣な笑みを浮かべたゴブリンたち。
女たちは、さっきのマッドレミングの死の行進から逃れるために、MPを使いつくし、精も根も尽き果てたように放心している。
この期を逃さず蹂躙する。女の泣き叫ぶ声と絶望に歪む顔。苦痛を与え続けると、やがて心が壊れ人形と化す。家畜としての完成だ。
そんなことを思い浮かべながら、ゴブリンたちは慎重に女たちとの距離を詰める。女たちは放心状態でまだゴブリンたちには気が付いていない……。
もちろん巨大な群れが、ここまで統制が取れているのはゴブリンロードやゴブリンチャンピオンがいるからだ。
ゴブリンチャンピオンの合図で女たちに向かって矢が放たれた。
矢は狙い通り足に突き刺さった。歓声を上げ女たちに躍りかかるゴブリンたち。足を射抜かれて逃げることも出来ない女たちは襲い来るゴブリンに目を見開いた。
「痛っ!! なんでここにゴブリンが……」
「なんで? 」
よりによってこんな場面で一番会いたくない魔物だ。サリーとマリーはこれから起こることに絶望する。ゴブリンは鞭を持っている。男相手なら普通は剣やこん棒なのに……。
女専用の武器なのだ。
サリーは細剣を構え、マリーは杖を掲げる。矢の刺さった足がじくじく痛み、痺れてくる。矢には痺れ薬が塗ってあったみたいだ。
「ファイヤーボール!!」
「セイント アロー!!」
火の球と光の矢を飛ばすが、30ぴき以上いるゴブリンには多勢に無勢だ。続けて魔法の吟唱できないままに、鞭で打ち据えられ、衣服が破れ、皮膚が裂けて血が滴り落ちる。そして剣や杖は鞭に巻き取られ、打ち据えられたことで膝をつく。膝を付いてしまうと足がしびれて立ち上がることも出来ない。
やがて、数匹のゴブリンに四肢を押さえつけられ、衣服をはぎ取られ、体中に牙を突き立てられる。
「「いやーーあーー!!」」
二人の悲鳴が洞窟内でこだました。
(犯されながら食われる……)
体中の痛みに気が狂いそうになった時、自分たちを押さえつけていたゴブリンたちの頭を打ち抜く光を目にしたのだった。
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