第17話 そして、再びオアシスの出口の前には
そして、再びオアシスの出口の前には森が茂っている。さっきの森のように鬱蒼とした感じはない。地面に草花もあり光も十分に差し込んでいるようだ。
「とりあえず、突っ切ってみますか?」
「イエス。ただし気を付けて、です」
二人で頷き合うと、森の中に入ってみる。天井を見ても地面が回っている気配はない。
時々方向を確かめ、森の中ほどまで来ると、左右化からの嫌な気配を感じて足を止めた。その途端に、左右から樹液のような粘液が飛んできた。それを避けるように後ろに飛び左右を確認する。
すると左右から、前身がモウセンゴケのような粘毛に覆われ、粘毛をうねうねさせながら、近づいてくる人型の魔物がいた。
「俺はハエじゃないぞ」
俺はそう呟きながら、思考を巡らせる。草は火に弱かったはず。
「スキル、ファイアボール」
両手を魔物に伸ばし、掌から火の玉を撃ちだす。ファイヤーボールは見事命中、それでも数歩下がり、やや怯んだぐらいだ。
「ちっ、粘液で炎の威力が弱まるか」
「レーザービームで切断してしまえ! です」
「スキル ファイヤーボール マックス」
再びファイヤーボールを掌で作り出す。ただし、この炎は真っ黒な炎だ。
「漆黒の炎!!」
そう叫んでファイヤーボールを打ち出す。漆黒の炎は地獄の業火。さすがにモウセンゴケの化け物を燃え上がっている。
「京介!! この森に燃え移っちゃうとこのダンジョン全体が酸欠に陥るでしょうが!! ここの植物たちが光合成をして、酸素をダンジョンに全体に供給しているの、です。
私の言ったことを無視して、ただ、漆黒の炎ってかっこつけたかっただけでしょう!!です」
後ろから頭をひっぱたかれた。そのツッコミは当然読んでいた。まさか、各オアシスの森が光合成をしてこのダンジョンに酸素を供給していたとは思わなかったけど……。
叩かれた頭を抱えながら、エムに言い訳をする。
「大丈夫、さっきサイクロプスを燃やした時、ちゃんと学習しました。この漆黒の炎は燃やす対象物を限定できるんです」
俺の発言の通り、数体いたモウセンゴケの魔物を焼き尽くすと黒い炎は消えたのだ。
この漆黒の炎の熱は数万度に達するのだ。こんなものが近くで燃えればこちらだって熱くてたまらない。というか燃えちゃうだろ。だから、燃やす対象を限定できるのだ。これぞ火炎魔法のレベルマックスのなせる業だ。
自慢げにエムを見ると、エムは悔しそうに俺を睨んでいる。
「だって……、まさか……、バカだと思ってたのに……」
なにか一人でぶつぶつと言っている。確かに俺は出来の良い方じゃなかったけど、命に係わることなら一回で理解する。それが昭和生まれクオリティだ。
まあ、そんなことは言われ慣れているので無視して話を進める。
「一服しましょうか?」
「未成年がたばこを吸ってはいけません、です」
「いや、言葉のあやだから……。もっとも少し前まで吸ってたけどさ。この治験のバイトのために辞めたんだよ。金もかかるし……。くそ、あのバイト代どうなるんだろ?」
「さあ、私には、前の世界のことはちょっと……です」
「ああっ、気にしないで。この世界の方が断然面白そうだから」
弱く微笑みながらエムを見る。
この世界って、俺はお呼びじゃないんだよな。たまたまあの研究室にいて、俺の潜在的無意識が反映されたらしいんだけど……。確かに偶然、チートを手に入れ仲間も手に入れたけど……。前の世界みたいに、他人いや観察者の都合で振り回されるんじゃないか?ってやっぱり怖い。自分で上手くいくはずないんじゃないかって否定してしまう。
俺の潜在的無意識ってなんなんだ。俺自身が自覚しない願望ってどこに在るんだ。
ラノベの主人公みたいに女の子を侍らせ、大冒険することが願望なのか?
分からない……。俺はエムからクビを振って立ち上がった。
「京介、どうしたのです? 考え事ですか? です」
「いやあ、この世界に来てまだ3時間ほどしかたってないなって。それなのに修羅場を何度も経験して……。前の世界じゃいつ死んでもいいと考えながら、死ぬことも出来ずに、おめおめと生きていたんだけど……。やっぱり、死にたくないや……」
「まあ、死と隣り合わせの剣と魔法の世界ですからね、です。で、京介の一番の願望は平凡な男がハーレム築いて無双するですか?」
「ははっ、そのくらいの甲斐性があればいいんだけど……。前にも言ったけど平凡なやつなんて世界中探したっていないよ。他人を見下したい奴らが平凡て言葉を使っているだけだよ。でも結局は何も反論できなくて、――やっぱり結果的には平凡なのかな、それでも何となく生きてこられたから」
「じゃあ、今の願望も生きたい? です」
「いや、今は食う、寝る、遊ぶだな」
「それを生存的欲求っていうんです、です」
「じゃあ、それを堪能するため、もうひと踏ん張り行きますか」
「イエス。です!」
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