第12話 サイクロプスの一頭が

 サイクロプスの一頭が俺たちに気が付いた。


 グオオオオッ!!


 唸り声を上げて俺たちの方に向かってくる。それに合わせて、そこに居た十数頭のサイクロプスがこちらに襲い掛かって来た。

 しかし、この程度今の俺の敵ではなかった。

 冷静になった俺は先頭のサイクロプスの心臓目掛けて、人差し指を突き出す。

「レーザービーム」

 チュンと言う音とともに、指先から光の弾丸を飛び出した。その光の筋は、先頭のサイクロプスの胸を貫通し、さらに後ろのサイクロプスも貫通して光が消えた。

 サイクロプスの群れはそこで動きを止めた(・・・)。

 このレーザービームは、空気中のフォトン粒子にMPを融合して、高出力のエネルギーにして放出している。一定の焦点に収束させることで高熱のエネルギーを一点に集めて相手を貫く。

 ダンジョンの中は薄暗いため、俺のMPを食い焦点距離も最大三〇メートルほどしかない。

 さらにこのレーザービーム、貫通力は無敵に近いんだけど、切り口を焼き切ってしまうため、きちんと止血されちゃうんだ。まあ、手術でレーザーメスを使うとほとんど出血しないのと同じ原理だな。魔物の核にでも直撃すれば、核が熱膨張に耐え切れなくなって爆死すると思うんだけど……。今回はそうはいかなかったらしい。元々MPの消費を嫌って、ビームと云うより光弾ぐらいの刹那の放出だ。魔物相手ではダメージがほとんどなかったらしい。だけど、このことは想定内だ。


 メンドクサイ……。それが正直な感想だ。

再び動き出し、こちらに殺到するサイクロプスに睨みつけて、口の中で呟いく。

「身体強化3、俊敏3」

 スキルを重ね掛けして、脛当て仕込んでいたレーザーブレードを取り出しMPを流し込む。

 ブオンという音とともに光の刃が現れる。 

 身体強化3によって元の能力の約2.2倍、さらに俊敏3で素早さ約2.2倍、今レベル80だからルート80で約9倍。

 元の能力×9倍×2.2倍で約20倍になったわけだ。スピードならさらに2.2倍の44倍になっている。人間を辞めて化け物になっているレベルだ。


 十数匹はいるサイクロプスの群れの中にスピードを生かして踊り込む。

 左右から放たれたこん棒や大斧の攻撃は、スピードを生かしたままステップで躱して、正面から振り下ろされた大斧は、更に加速して後方に置き去りにする。

 どいつもこいつもスローモーションのような動きだ。

 そして、懐に飛び込んだ正面のサイクロプスの首をレーザーブレードの横薙ぎで跳ね飛ばした。

 そこに一瞬の気のゆるみがあったのだろう。

 首を刎ねたはずのサイクロプスの体が一段と加速して、俺に体当たりをかましてきた。

「なっ?!」

 躱しきれない。飛んできたとしか思えないサイクロプスを大上段から振り下ろしたレーザーブレードで一刀両断にした。

 

 左右に分かれるサイクロプス。俺のレーザーブレードの軌跡を追いかけるように、巨大な斧が俺に向かって振り落とされる。

 背後に別のサイクロプスが張り付いていやがったのか?! 


 くそったれーーーー!! 回避が間に合わない。


 とっさにレーザーブレードから左手を放し。右手を引く反動を利用して、左の拳を大斧に向かって突き上げる。

ガッキーーーーンーーーー!!

 金属音が辺りに響き、衝撃波により踏ん張った足元にクレーターが出来上がる。


 カイザーナックルは見事にサイクロプスの大斧を受け止めていた。一瞬にらみ合った俺たち。そいつは、他のサイクロプスより一回りでかく赤銅色の皮膚と瞳を持っていた。

 しかし、それも一瞬だ。上がり切った左拳を引く反動で右手に持ったレーザーブレードを逆袈裟懸けに切り上げる。

 俺の一撃は心臓の辺りにある魔核を完全に粉砕したようだ。サイクロプスは砂塵がくずれるように跡形もなくなり、後には魔石が転がっていた。


それを見たサイクロプスたちが我先へと横穴に向かって逃げ出したのだ。

 逃がすか!! 

「ファイヤーボール!!」

 逃げるサイクロプス目掛けて、ファイヤーボールを連射する。しかし、サイクロプスの鎧のような皮膚を少し焦がすだけだ。

「ちっ、ファイヤーボール、レベルマックス!!」

 さっき放ったファイヤーボールの1.3の10乗、約22倍の大きさのファイヤーボールがサイクロプスに命中して火柱が上がる。

「ふん、サイの丸焼きだ」

 自慢げにエムの方を振り返ると、エムの目は半眼になり俺をあほかと見ていた。

「……なんで?……」


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