第6話 ここでは俺が主観で俺が主役だ
しかし、ここでは俺が主観で俺が主役だ。
意気揚々と開け放した窓枠に足を掛けたところで、俺の動きが止まる。
ここから、地面まで5メートルはありそうだ。確かこの研究室は3階にあったはずなのに上も下も病棟は無くなっていて、コンクリートの外壁の代わりに空洞と同じ岩肌に変わっている。
さすがにこの高さから飛び降りるのには躊躇するよね。俺が後ずさりしようとしたところで、叫び声と共に再び臀部に鋭い痛みが走った。
「グズグズするな!! です」
気合とともに放たれた一撃の軌道は蹴り上げるような軌道だったらしく、前のめりの姿勢のまま外に飛び出した。
このままだと頭から落ちる! そう思った瞬間、体が勝手に前転そして捻りを加えて綺麗に着地する。さらに着地の衝撃も吸収して着地後、微動だにしないテレマークを決めていたのだ。
な、なんでこんなことが出来るんだ? そんなことを考える間もなく俺の背後に危険を感じる。素早くその場を避けて背後を見た。
すざざざあっ!!
俺がいままでいたところには砂塵が舞い上がり、胸を強調しながら腕組みをしているエムが立っていた。
いや、女の子が上から降ってくるのはエブリタイム、ウエルカムなんだけど……。
「ラッキースケベのチャンスだったのに……、です」
この人、俺の願望が生み出したとか言ってるけど……、命を懸けてまでラッキースケベは望んでないから。
「ふざけるな、そんな勢いで飛び降りたのを受け止めたら、下手したら死ぬだろうが!!」
「そんなことはない、です。京介さんはそれだけの力をすでに得ているはず、です」
「はーっ! あの勢いで飛び降りた人を受け止められるだって?」
「イエス、そもそもこの世界のルールは……」
そう言って話し出したエムの話は、まあ、おおよそ予想していたとおりだった。
すなわち、この世界にはレベルという概念がある。レベルというのは異世界ものでは王道だがその具体的な定義はよくわからない。まあ、敵との間で相対的にしか使えないものだな。だがこの世界はレベルの定義はいたってシンプルだ。
平均的な男子の身体能力×レベルという図式が成り立つ。
今の俺はレベル60って言ってたから、普通の男子の60倍の身体能力を持っているらしい。そうなると、男子の100メートルの平均時速は約25キロ×60=1500キロ。
音速は1200キロだからマッハ1、25で走ることが出来る。
もっとも、そう単純にはいかないらしくて、筋断面なら2乗、筋体積なら3乗の力が必要になるため、肉体的な記録は5倍前後になるらしい。
また、そのレベルはこの世界では上限が100らしい。
あと、スキルに身体強化というのがあるが、これは1レベルで身体能力のおよそ3割増しになるらしく、こちらの上限が10ということで、俺の場合、マックス10だから1.3の10乗で約13倍、すなわち、65倍になるわけだ。もっとも、このスキルと云うのはMPを消費するらしい。
でも、俺はラノベは読んでもゲームはあまりしなかったので、このHPとかMPと言うのは重要視していなかった。凄いんだなぐらいの情報で読み飛ばすことがほとんどなので、俺自身には俺の潜在意識が反映しているため、初期値はかなり低かったらしい。
ヒュドラ討伐によって、経験値がある程度HPやMPに振られたんだが、HPの方は、ブロックで殴られても痛みを感じない程度、MPも身体強化をマックスで使い続ければ3分でMP切れを起こすらしい。
どこかの宇宙人と同じだ。
まあ、スキル鋼のうろこを取得したので、マックスなら聖剣レベルの刀や魔法なら別として、ほとんどの刀や魔法では傷つけることが出来ないらしい。
そこで話が元に戻るんだけど、5メートルの高さから飛び降りるぐらい50センチの段差を飛び降りるのと同じ程度、その高さから飛び降りたエムを受け止めるのは、4キロぐらいの肉塊を50センチの所から落としたのを受け止めるぐらいの感覚らしい。
うん、確かに可能だ。ミニスカートをひらめかせながら落ちてくるエムをお姫様抱っこで受け止める。その時に感じる太ももの柔らかさ……。
俺は膝から崩れ落ち、両手を地面について心底後悔をしてしまった。
「すんでしまったことは仕方ない、です。それより早くドロップアイテムをひろうの、です!」
ドロップアイテム? たしかシステムからの通信でそんなことをそんなことを言っていたような……。
周りを見回せば、着地した10メートルほど前に、長さ30センチほどの黄金色のリレーバトンのようなものが落ちている。さらにその近くには一抱えもある血のように赤い宝石のようなものも落ちている。
あれのことか?
その場所に行こうとした瞬間、俺の足元にはそれらのものがあった。
あれ、ちゃんと移動した自覚はある。それに周りも普通に見えていた。いや、若干周りがスローモーションに見えたような……。
いや、レベルってすげえ! 人間を辞めているレベルだ……。
「まだ、体が慣れてないようです。まあ、おいおい慣れて行くでしょう、です。このダンジョンで魔物を倒しながら進めば、です」
「ちょっと待て、ここってダンジョンだったのか?」
「イエス、ここはダンジョン最下層です。さっきのヒュドラはこのダンジョン主なの、です。京介さんは、ここからダンジョンを攻略しつつ、地上を目指します、です」
「それって普通は逆でしょ!!」
「でも、京介さんはこういう理不尽な方が好みかと……?」
「エムさん、それは違うから……。そんな目に遭ってばっかりだったから、いつの間にか諦めとともに受け入れていただけだから」
冗談じゃない。こんな洞窟を魔物と戦いながら進んでいくとか。落ちてきた感覚でいえば、地上に出るには一キロ以上も上らないダメだろう。そんな危険は冒したくないんだ。
「やっぱり、研究室に帰る。あそこには電気もエアコンもある。健康で文化的な最低限の生活が保障されているんだ」
自分で云っといて最低のやつだと自分でも思う。無気力、無関心、無感動、三無主義を地で行っている。
まあ、人との距離感がつかめないで、感情や感動が欠落してしまっているくせに、自分は傷つくのが嫌で、自分の不甲斐なさを周りのせいにして、それが許される環境に逃げていた俺には、自分で未来を切り開くって云うのは荷が重い。
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