第5話 俺の最大の疑問
俺の最大の疑問、じゃあ俺の存在は集合的無意識が作り出した、前世の記憶を持たされたモブなのか? この疑問に対してエムの答えは……。
「ノー、です。この病棟と云うか、研究室は特別なのです、です」
「この研究室は特別?」
「イエス。さっき話したシンクロニシティに都市伝説があるのは知ってますか?です。
グリセリンの結晶化という伝説がなのですが、それまで、世界中の科学者がどのようにしてもグリセリンは結晶化しなかったです、です。
でもある日、貨物船のある樽に入っているグリセリンが一樽、偶然に結晶化しました。ある二人の科学者がこの種結晶を使って結晶化に成功したんです。そして驚くことにその瞬間、実験室のすべてのグリセリンが自然結晶したのです。
この日を境に、世界中のグリセリンが、17.8℃で結晶化するようになったんです。ただし、この部屋に置かれていたグリセリン以外は……、です」
「それは、この部屋だけ、集合的無意識の影響を受けなかったということですか?」
「イエス、です。この部屋だけは集合的無意識の影響を受けませんでした、です。そして今回も、ここだけは、集合的無意識の影響を受けないで、あなたの潜在的無意識の領域を使って作り出されたのです、です」
「俺の潜在的無意識の領域だって?」
「京介さんがこう在りたいと願望する世界がここにはあります、です。この部屋電気が点いていますよね。そのことに京介さんは何の疑問も持たないですよね。潜在意識の中で無意識に電気が在るのは当たり前って、京介さんが考えているからです。それに、私がネコ耳なのも京介さんは猫耳があった方が女の子は可愛いと思っているからで、語尾がニャンじゃないのも、それは京介さんが我慢ならないからです、です」
なるほど、だから一番肉体的に充実していた18歳ぐらいに若返っていたんだ。無意識にそのくらいが俺の人生でベストって考えていたんだ。
それになに、このエムっていうネコ耳少女は、俺の潜在的無意識の産物なの? 確かに、
俺の趣味にカスタマイズされているとは思うし、メイド喫茶とかで、語尾にニャンニャン付けられるのは、生理的に受け付けないんだけど……。それで語尾がです……ね。まあ気に入らない人は、ですをニャンとでも読み替えてもらおう。
「なるほど、そこで集合的無意識からのメッセージが頭の中に流れ込んでくるわけだ。経験値にレベルにスキルか……。集合的無意識が選んだこの世界は、俺がよく読んでいた転生ものと同じ異世界に近いルールなわけだ。知っているからって、そこは不安だらけなんだど……。
だとしたら、ちゃんとこの世界では集合的無意識が選んだ主人公や勇者がいるんだから、部外者の俺はこの世界で好きかってに生きることが出来るわけだよな? さっきのヒュドラ討伐で、そこそこのレベルには達したみたいだし……」
「それはどうでしょうか?です。あなたがこの部屋から出た瞬間、システムがあなたを異分子と認識して、排除しようとするかもしれないです」
「システム? 」
「はいです。システムとはこの世界の観察者すなわち無意識集合体のことです。そのシナリオにない京介はシステムにとって危険な存在です」
「すると俺はこの世界でも、やっぱり理不尽な目に遭わされるのか?」
「そうではないです、無意識集合体の願望と京介の願望のどちらが強いか、です。だって、世界は物質ではなく状態ですから、観察者が観察するまで状態は確定しません、です。
要は、だれが観察者となるかです。
この世界のシステムは京介さんが考えているルールのとおり、魔物を倒せば経験値が入ります。そして、一定の経験値をためるとレベルに変換されます。それに、倒した魔物のスキルが手に入ります、です。
ただ、京介さんには京介さんの潜在的無意識が生み出した強力な固有スキルというものがあるの、です。それがこの世界の状態に変化をもたらすの、です」
「うーん。あっ、あれか! 小瓶を投げた時に言われた爆裂というスキルか!」
「イエス。きっと京介の潜在意識の領域の影響を受けて、この部屋にあった由諸正しいグリセリンが特殊で強力な爆発物に構造変換したと思われます、です」
「じゃあ、他にもこの部屋のものは何か強力なものに変わっている可能性があるわけだ」
「イエス。です。それが何かはわかりませんが、私のように京介さんにとって便利なものに構成変換しているはずです」
いやまあ、エムが俺にとって便利かどうかはわからないけど、とりあえず、この部屋のものは持っていた方がいいか?
この部屋の中に在る物を物色してみるが、大体、グリセリンのほかは学校の保険室や理科室に在るような包帯や消毒液それにビーカーみたいなものしか見当たらない。また、置かれていた書類はラノベに変わっている。
俺って、学生時代は、いつも教科書や論文はラノベ感覚で読めたらって考えていたからな。どうやら、グリセリン以外に役に立ちそうもないけど、ラノベを始め部屋に在る物は、アイテムボックスに収納していく。
このアイテムボックスって本当に便利だ。念じるだけでどんなものでもその場から消えて、アイテムボックスに収納されてしまう。現実に異世界に居るのに今更読む必要もないだろう。
よし、だったら異世界に一歩踏み出してみよう。あっ、でもこれだけは聞いておかないと。
「エムさん。ここから出ても特に問題は起こらないよね?」
「大丈夫、です。レベル、スキル、ともに変化しません」
「あっ、それから、エムはこの世界に詳しいの? 集合的無意識じゃなくて俺の願望が形になったものなんでしょう」
「イエス。京介さんはこの世界に来るときに、女神や召喚者に逢いませんでした。集合的無意識の管轄外でしたから。でも、京介さんの願望でその代わりに私が創られたわけ、です。よってこの世界の理(ことわり)は大体理解しているの、です」
なるほど、俺が思い描いた異世界転生とはだいぶ違うが、女神に逢って、チートスキルを貰う代わりに、俺自身が女神の代替えとしてエムを生み出したわけだ。エムはこの研究室からきっと出られない設定だろうから、あとは自分の力で何とかやってみるのみ。
俺は手を差し出して握手を求める。
「少しの間だったけど世話になった。成り行きでこんなことになったけど、何とかやってみるよ」
俺の差し出した手をエムは握り返してくれる。全く女性の手を握ったのはいつ以来か?
「はい、私もお供します、です。これも王道です、です」
そこでにっこり笑うエム。
いや、確かに少し心細かったけど、付いてきてくれるの? 俺の潜在的無意識、グッジョブだ。ひょっとして王道の異世界ハーレムまで付いてきたりして?
俺の考えを読んだようにエムの顔が嫌そうに歪む。
「ノー、私に求められるのは、京介さん自身が好かれているかどうか不安で、強引に行ったら嫌われるのではないかという思わせる微妙な演技です。それが潜在意識にある願望なの、です。
このヘタレ!!!! さんなのです。
京介さんの意識下にある願望で叶えられるのは、不可抗力でこのミニから時々見え隠れするおパンツのチラリズムとラッキースケベだけなの、です」
あーっ、くそーーーー!! そんなところも王道なのかい!!
「そう王道です。京介さんは前の世界で平凡でありふれた青年なの、です」
「エムさん。そこは違うぞ。平凡なんて人はいない。確かに身長体重は平均的かも知れないけど、バブル崩壊の余波をまともに受けた2流大出だけどさ……。その当時の若者って、自分は人とは違う。何かを成し遂げる存在だって意識だけは高かったんだよ。今の若者と違ってさ……」
まあ、周りの学生が、イベント企業起こして大金を手に入れ、派手に遊び歩いているのを見て入れば、俺だって他人とは違う何かでかいことをやり遂げるんだって、根拠のない自身を持ったって不思議じゃない。
最初から平凡だって自覚していれば、自分に過度に期待せずに、絶望して達観してしまうこともなかった……。
平凡だだからこそ、人並みには努力しようと考えることが出来たかもしれない。
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