第4話 そんなこと、あるかい!!!!

「そんなこと、あるかい!!!! 絶対、おかしいやろ!! 俺がさっき見たのは、すべての近代的建物や人が粒砂に変わり、異世界の世界がフイルムの逆回しのように出来上がったんだ。いくら何でも、ありえないだろう」

 俺の反論に、肩を竦め大げさなジェスチャーで小ばかにしたような態度をとるネコ耳少女。ちょっとかわいいからって、この態度は腹が立つよね。

でも、こんな態度を取られても、俺の好みからは外れない。


「はあーっ、ここから先は京介さんには理解不能と判断する、です。でも、一応説明だけはしときます、です」

 むかーっ、どうせ俺は二流大卒です。

「京介さん、超ひも理論って知っていますか、です?」

「超ひも理論? 超金持ちの女の人に養ってもらうことか?」

「ちっ、そこから始めなきゃですか!です」

「エムさん、なんか言いましたか?」

「いえ、なんでこんな人がこの場所にいたのかっていうことが疑問なの、です」

「いや、俺はアルバイトで……」

「あーっもう、分かりました、です。大事なことだからよく聞くように、です。 2回は言いませんから、その耳の穴、よくかっぽじって聞くの、です」

 そうして、エムが話始めたことは、要約するとこんな感じだ。当然、理解できなくて何度もエムに聞いたけど……。俺のレベルに合わせて話をしてくれたらしい。


 物質を構成する分子や原子をさらに小さくすると、陽子や中性子それに電子という素粒子に分解されるらしい。素粒子と言うのは、これ以上小さくできない粒子らしいが、これを構成するものは、さらに小さいひもになるらしいのだ。

 そのひもの形は2種類あって、一つは輪ゴム型、もう一つはミミズ型であるらしい。そのひもがDブレーンという膜に引っ付き、色々振動することで、あらゆる原子の形に変わるというのだ。

 例えるなら、一本の弦を弾くことで色々な音を奏でるように、このひもが振動することであらゆる原子を構成することができるというのだ。

 そんなばかなと思うだろう。しかし、ほぼそのことは事実らしい。なにしろ、このひもはそんじゃそこらのひもではない。なんと11次元に存在するひもなのだ。

 11次元ってどんな世界かって? そんなことを俺に聞くなよ。俺だってさっぱり分からないんだから、きっと想像もつかない歪んだ世界で想像もつかない動きをしているんだろう。

 で、これが事実だとすると、目の前に存在する世界は、普遍の物質ではなく何らかの影響で変化する状態だということになる。状態だということは、だれか観察者がいなければその状態が確定しないということになる訳だ。


 どうしてそうなるかって? 俺みたいに深く考えず、話を素直に聞いておけって。

 原子って言うのは形が決まった物質のはずだよな。そしてそれによって構築された目の前の世界、例えば建物や人など、平たく言えば神羅万象は物資のはずだが、超ひも理論で云えば、実は不変な物質ではなく、ひもの振動で変化する状態だったりするわけだ。

 状態と言うのは、あやふやで誰かが観察して初めて確定されるものらしい。


 シュレーディンガーの猫の話は知っているだろう。放射能物質に反応して青酸ガスを発生する物質と猫を一緒に入れた箱の中では、箱を開けるまで、猫の生死は2分の1の確率で存在する、すなわち、観測者が蓋を開けて中を確認した時に初めて、猫の生死が決まるということになる。言い換えれば箱を開けるまでは、生きている猫と死んだ猫の状態が重なり合って存在しているという意味になるんだ。

 これは量子という素粒子の状態が、そもそも不確定的で確率的な重なり合った状態を言っているわけで、観測者が観測して初めて状態が確定するということだ。


そういう訳で、未来予知を考える時に空想された、もしもある瞬間におけるすべての物質の力学的状態と力を知ることが出来、かつそれらのデータ解析ができるだけの知性を持ち、未来がすべて見えるというラプラスの悪魔は、この量子論と共に死滅したのだった。確かにラプラスの悪魔も、すべての原子が構成を変え、こんな世界が一瞬で出来上がるなんて予測なんてできないだろう。

 だって、物資の力学的状態どころか、どんな状態になるのか確率的にしかわからない量子の未来を当てることは不可能だから……。

 シュレーディンガーの猫とかラプラスの悪魔ってラノベでも良く聞くワードだったけど、エムに説明されて初めてその内容がなんとなくわかったところだ。


 話が明後日の方にいったが、すなわち、今、俺がいる世界の観測者が集合的無意識という訳で、なろうとかの小説に感化された人たちの潜在的願望が、また、ひとつ新しい世界を作り上げたということらしい。

 また一つと言ったのは、過去にも同じような現象が何度もあり、その世界のありさまを集合的無意識にアクセスすることで、異世界の物語がまた一つ生まれ、その異世界の物語を読んで集合的無意識に多くの人が影響を与え、また新しい世界が一つできて……。

 あーっ、卵が先か鶏が先かっていう話になってきやがった。

 ちなみに、過去も未来もこういったパラレルワールドが同時に存在しているという説が超ひも理論では主流なのだ。


 とにかく、Dブレーンってやつは一つの宇宙と匹敵するぐらいでかいものもあるらしくって、俺のいた世界も俺が飛ばされた異世界もDブレーンの膜の上に存在しているらしく、SFで云うところのパラレルワールドは俺たちのすぐ隣に存在する。次元が違うためその存在を見ることも証明することも出来ないらしいのだが……。

 実際にそれを証明しようとして、アメリカのへルミオン研究所で日夜、実験を繰り返しているらしいんだけど……。


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