第3話 そんな疑問をかき消すように
そんな疑問をかき消すように、頭の中で再びチロロンと電子音と先ほどの女性の声が響いてきた。
「ヒュドラ討伐を確認しました」
「経験値を取得しました。レベル1からレベル2に上昇」
「レベル2からレベル3に上昇」
「レベル3からレベル4に上昇……」
こんな言葉を繰り返し、やっとレベル60で止まったと思ったら、また声が……。
「スキル身体強化を取得しました。身体強化がレベルマックスに達しました」
「スキル鋼のうろこを取得しました。鋼のうろこがレベルマックスに達しました」
「スキルレーザービームを所得しました。レーザービームがレベルマックスに達しました」
「スキル火炎魔法を所得しました。火炎魔法のレベルマックスに達しました」
「スキルアイテムボックスを取得しました。 アイテムボックスのレベルが6になりました」
「スキルグロ耐性を取得しました。グロ耐性のレベルが3になりました」
こんな調子で何個かのスキル系の羅列が続き今度は、
「レーザブレードを取得しました」
「ヒュドラの魔石を取得しました」
次から次へとチロロンと音がうるさいわ、フリーダイヤルに掛けたら案内する女の人と同じトーンで話されイライラするわで、いい加減電話を切ってやろうかと思ったところで、頭の中の音と声が止んだ。
よかった。冷静に考えると終話ボタンなんてなかったのだ。
「システムからの通信は終わりましたか? です」
脳に直接情報を流し込まれたため、頭がくらくらしていたが、癒しの声に何とか持ち直すことが出来た。そして、振り返ればさっき小瓶をくれた美少女が背後に立っている。
色々知りたいこともあったんだけど、混乱する俺がまず最初に訊ねることが出来たことのは……。
「あの、何が起こったんですか?」
しかし、この質問は俺の疑問を解決してくれるベストな質問だったみたいだ。
「うーん、どこから話しましょうか?です。そうだ、私の名前はM(エム)っていいます、です。アルファベットのM」
「エムさんですか……」
エムと名乗った女の子をまじまじと見つめた。今まであった中で断トツの美少女。このパターンは……、俺は実は死んでいてこのお方は女神様?
しかし、服装は女神が着ているような服ではなく、ピンクでミニのナース服だ。顔立ちやスタイルは十人がいれば十人が超絶美人と答える美人だと思うけど、俺の好みにカスタマイズされたように可愛らしい感じで、胸も大きすぎず、腰も細く、ヒップから太もものラインに掛けてのS字曲線が黄金比を奏でている。そう奏でているんだ。このS字を数式で表すことが出来たら、あの教授あたりは最も美しい数式の調べと表現するだろう。
そして、ゆるふわウエーブの腰まで伸びる長い髪の毛の色は薄いピンク、揺れると桜の花びらが舞っているような錯覚さえ覚えてしまう。でも、その頭に乗っているのは……、ネコ耳?!
「エムって言うのは、超ひも理論を総括するM理論のエムなんですが、ミステリーの意味でも、マジックでもモンスターでもマトリクスでもなんでもいいです。どうせ、京介さんには理解できないことなの、です」
「俺に理解できないだって?」
「そう、私がなぜ生まれたのか、なぜここに居るのか、です。実は私はあなたの潜在的無意識の産物なんです、です」
そう云うと、彼女は自分が創造された過程を話し出した。良く分からない部分の方が多かったけど、俺が何とか理解できたのは次のとおりだ。
この世界と云うか元の世界も含めて、この世界は、ユングというえらい学者さんが考えた集合的無意識によって作り出された虚構の世界らしい。集合的無意識って言うのは、個人の意識の底には潜在的無意識の領域があり、また、その無意識の底には、集合的無意識の領域があり、その集合的無意識にすべての人類の意識はつながっているということらしい。
それがどういうことかと云うと、集合的無意識とは生産、創造する領域と考えられており、元々ここに存在している知識にアクセスすることで、各地に残る同じような神話や科学的な発見や発明などを成し得ることが出来たということだ。
しかし、このネコ耳少女の話では、それは少し違っていて、個人の望む願望が少しずつ、個人の無意識の領域を通って集合的無意識に蓄積され、それが一定の数量を超えるとそれが外的世界に影響を及ぼし、世界がそれに合わせる現象が起こるということらしい。
これを理屈でいうと「百一匹目の猿現象」とか「シンクロニシティ」とかは、時や空間を超えて同じ発想や同じ行動が同時に起こるのはなく、集合的無意識にアクセスした多くの人が同じ発想をするので、「しゃあない、この世界の理(ことわり)をそういうことにしといたろか!」と世界の方が変わるというのだ。
まあ、一定数を超える願望がこの異世界を作り出しているということらしいって……。
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