第17話 アルは異世界の料理を作る①

 デビルグリズリーを大量に倒し、いくつかの素材を手に入れた。


 『黒い毛皮』『熊の爪』『熊肉』。


 毛皮と爪は必要最低限の分以外は道具屋で買い取ってもらい、肉に関しては置いておくことにした。


 いざという時用にと、味がどんなものなのかと言う好奇心。

 二つの理由から保存を選択した。


 ちなみにティア曰く、【収納】の中では食料は腐らないらしい。

 なんて便利なんだティア。

 できる子過ぎて抱きしめてあげたいぐらいだよ。 

 剣の時に抱きしめたら変態にしか見えないかも知れないが、姿かたちは女の子をしているのだ。

 周囲からは変態扱いされないだろう。

 ティアから変態扱いされるかどうかはまた別問題ではあるが。


「しっかし疲れたなぁ。もう夕方だし、どこかで宿を取ろうか」

「そ、そうですね……」


 ペトラは自分の所持金をチラチラ確認しながら汗をかいていた。

 

「あー……宿代ぐらい出してあげるよ」

「い、いえいえ! そんな悪いですよ……」

「でも遅くなったのはペトラが悪いってわけじゃないしなぁ」

「宿代ぐらい、自分で出しますから」

「俺は野宿でもすっか!」


 ボランは人通りの少なくなったギルドの脇で、ゴロリと横になる。

 なんでもありか。お前は。

 こんなとこで寝てたら怪しい人だって通報されるよ。


「ほら。もうボランも宿代出してあげるからさ」

「ああっ! マジか!?」

「マジだよ。マジ。もう今日中に帰る手段がないんだから仕方ないし」

「あのご主人様」

「何?」


 ティアが眼鏡をくいっと上げ、口を開く。


「【空間移動ワープゲート】を習得すれば、一瞬でローランドまで帰ることが可能ですよ」

「え? そんな便利機能あるの?」

「あるのでございます」

「……なんてできた女なんだ、お前は」


 俺はティアの頭を撫でた。

 特に意味は無かったが、とりあえず撫でておいた。


 するとティアは、喉をゴロゴロと鳴らす。

 あれ? 猫耳って、オプションだったよね?

 本物の猫みたいになってない?


「では、習得してお帰りになりますか?」

「ああ。頼むよ」


 ソードモードになったティアを手にし、俺は【空間移動ワープゲート】を使用する。


 【空間移動ワープゲート】は、一度行ったことがある場所に移動できるというスキルのようだ。


 俺の目の前の空間に大きなが開き、その穴の向こうにローランドが見えた。


「ア、アルさん……なんでもできるんですね」


 唖然としているペトラとボラン。

 俺たちは穴を通り、一瞬でローランドへと足を踏み入れる。


 ボランと入り口で別れ、俺とペトラは酒場へと向かっていた。

 すると酒場の前で話をする男女の姿が見えてくる。


「どうしたのー、ロイ?」

「う、ううん……なんでもないんだけど……あ、いや、なんでもあるんだけど……そのっ」


 店の前にいるのは、ペトラによく似ていて、桃色の髪でおさげを二つ作った可愛らしい女の子。

 ペトラと同じエプロンをつけていて、胸はあまりなさそうだ。


 その女の子の目の前で、俯き真っ赤な顔をしている少年。

 こちらも可愛らしい顔をしていて、金髪で自信なさげで。

 薄汚れた白い服にブラウンのズボンを穿いている。


「ルカ……それにロイ」

「ああ。あれが妹さん?」

「はい」

「じゃあ、あのロイって子は?」

「ロイは……ルカのことが好きな子です。でも恥ずかしくて何も言えなくて、昔からずっとあんな感じです」

「ふーん」


 ロイはちらちらルカの顔色を窺い、急に逃げるようにその場を去って行ってしまった。


「あんな分かりやすい態度してるのに、ルカってばロイの気持ちに気づいてあげれないんですよ」

「へー。鈍感なんだ」


 店に戻ろうとするルカであったが、ペトラの姿に気づき、彼女に手を振る。


「お姉ちゃ~ん、おかえりなさい」

「ただいま、ルカ。ねえ見て見て」


 ペトラは金の入った袋を広げ、ルカに中身を見せてあげていた。


「うわ~。これなら当分なんとかなるね~」


 おっとりと、のんびりと、ゆったりとした声でルカはそう言った。

 

 ペトラはルカと嬉しそうに会話をしながら、視線を俺の方に向ける。


「ルカ、この人がアルさんだよ」

「ああ~。初めまして~」

「この子、のんびりした子なんですよ。悪い子じゃないんでよろしくお願いしますね」

「ああ。よろしくね。ルカ」


 ルカは終始笑顔で、俺のことを見ていた。

 全く崩すことなく、それがデフォルトだと言わんばかりにずっと笑顔でいる。


「あ、そうだペトラ。キッチン借りてもいい?」

「え? はい、どうぞ」

「ありがとう」


 俺は一度倉庫に戻り、ティアに人間の姿になってもらった。


「今日はご苦労さん。いっぱいモンスターを狩ってもらったみたいだし、デビルグリズリーとの戦いもティアのおかげで倒せた」

「いえ。ご主人様のためなら当然のことです」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 俺はこほんと一度咳をし、ティアに訊ねてみる。


「ティアは、食事は取れるのか?」

「はい。基本栄養摂取は必要としませんが、食べることは可能でございます」

「だったらさ、料理、振舞ってもいいか?」

「料理、でございますか?」


 ティアは首を傾げ、怪訝そうに美しい顔をこちらに向けていた。

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