第18話 アルは異世界の料理を作る②

 今ある食材『熊肉』を使って何ができるだろうかと思案する。

 俺の頭の中には、異世界の料理の知識もあった。


「うーん……」


 今回ティアに作ってあげるものを考えるが……調味料などがこの世界では手に入らない。

 どうしたものか。


「何を迷っているのでしょうか?」

「ああ。作ろうとしている料理がね、どうしても異世界の物が必要なんだ。代わりに何が使えるだろうかと考えててさ。原材料があれば錬金できるんだけど……」

「では、異世界の物を購入なさいますか?」

「はっ?」


 俺は意味が分からず、ティアの顔をポカンと見た。


「いえ。異世界の物が必要なのでしたら、異世界の物を購入なさってはどうでしょうか?」

「いや、それができたら困ってないんだけど」

「なら、問題は解決ですね。私の機能で購入できますので」

「……なんでできるの?」


 俺は戸惑いに戸惑った。

 なんでそんなことができるんだよ。

 君、剣でしょ?

 便利すぎるのにも程があるでしょ?


「で、どうやったら買えるんだい?」

「はい。サポートの【異世界ショッピング】を習得してもらえれば購入可能となります」

「……異世界のネット通販かよっ」


 便利なのはありがたい限りではあるが、そろそろなんでもありになってきたな、この子。


 だが断る理由も無かったので俺はティアに頼み、【異世界ショッピング】を習得してもらった。


「商品はどうやって選べばいい?」

「はい。私のステータスから商品の選択ができます」

「そ、そう。じゃあ見せてもらってもいい?」

「かしこまりました」


 ステータスは少しぐらいの距離なら移動可能らしく、俺の目の前にステータスを表示させるティア。


 ネット通販のことは知識しかないので、初めてのことで新鮮だった。

 

「これがネット通販か」


 表示されている数々の商品。

 料金はゼルで表示されていて、特にメチャクチャ高いというわけでもない。

 今の俺なら十分に購入できる額だ。


 指でステータスをスライドさせていくと、いくつもの気になる物が目に映る。

 だけど今回買う物は決まっている。


 商品を選択していき、『カート』に入れていく。


「あ。お金はどうやって支払えばいいんだい?」

「【収納】の方にゼルを入れていただけましたら、そこから支払いができるようになります」

「そうなんだ」


 俺はすでに所持金全てをティアに預けていた。

 どうせ手荷物になるし、それにティアに預けておくのが一番安全だろうと考えてだ。

 その額、およそ100万ゼル。

 デビルグリズリーの素材が特に高く買い取ってもらえた。


 【収納】にお金があればいいということは、もう購入する準備は整っているということだな。

 俺はほんのり緊張しながら、『購入』ボタンを押した。


「…………」


 ステータス画面には『ご購入ありがとうございました』と表示されている。


「後は商品の到着を待つだけか……ちなみに、どれぐらいで商品って届くんだい? というか、どうやって届くんだ?」


 それが一番謎だ。

 どうやって商品が届くのだろう?

 時空配達員みたいなのがいるとか?

 そんなバカな話はないか。


「はい。すでに【収納】の方に到着しております」

「早っ! 一体どんな仕組みになってるんだよ」

「それは……企業秘密でございます」




 ◇◇◇◇◇◇◇




 ペトラの店で台所を借りて調理を開始する。


 ショップで購入した、異世界人がキャンプなどで使用するライスクッカー。

 丸い銀色の物で、5合炊ける代物だ。

 これにお米を入れて、ご飯を作る。


 次にこれまたショップで購入した鍋に水、醤油、砂糖、みりんを入れて、熊肉とたまねぎ、豆腐を投入し、ことこと煮て完成だ。

 作り方はいたって簡単かつシンプル。


 カウンター席に座るティアの前に、それを出す。


「アルさん、これ、なんですか?」

「これは……遠い国の食べ物で、熊肉のすき焼きさ」

「すき焼き?」


 火から離したというのにまだぐつぐついっているすき焼き。

 湯気がもうもうと立ち上がっている中、赤みのある黒い醤油によく浸かっているお肉たち。


 ペトラはそれを見て、ゴクリと喉を鳴らしていた。

 

 片手でパカッと卵を割り器に入れて、ご飯と共にティアに出す。


「ささ、遠慮なく食べてくれ、ティア。これは頑張ってくれたご褒美みたいなものだから」

「はぁ……」


 ティアは無条件で俺のために働いてくれる。

 無償で仕事をしてくれるのは嬉しいけれど、それじゃ俺の気が済まない。

 欲しい物は分からないので、こうやって料理でおもてなしをすることにしたのだ。


 ティアは一度ため息をつき、フォークで熊肉を刺して卵をくぐらせる。

 

「ご主人様、いただきます」

「どうぞどうぞ」


 パクリと口に含むティア。

 あまり口を動かさず上品に噛んでいた。


「う……」

「う?」

「美味いにゃあああ!」

「……へっ?」

「甘辛く濃い味がついたお肉を卵にくぐらせることによって、ちょうど食べやすいマイルドなものににゃり、口の中に止めどなく幸せが広がっていく! そしてご飯がまた合うにゃ!」


 ティアはハフハフいいながら豆腐を口にする。


「熱い……っ。だけど肉とはまた違ったうま味がある……これがすき焼き……異世界の食べ物は美味しすぎて恐ろしいにゃ! まさに魔王級美味!」

「…………」


 ティアが嬉しそうに食事をしているのを俺が見ているのに気づいて、彼女はハッとする。


「もうしわけございませんでした……少々取り乱しました」

「い、いや、美味しそうに食べてくれて嬉しいよ」

「は、はぁ……しかし『美味しい』というのはこういう感覚なのですね……なんとも素晴らしいもので感動いたしました」


 その後ティアは、できる限り平常心を保ちながらすき焼きを平らげた。

 だけど猫耳がピョコピョコ動いてるので、誤魔化しきれてないからね。

 というかその猫耳動くんだな。

 言葉使いもそうだけど、完全に猫化してるよね。


 ま、喜んでもらえたし、ティアの意外な一面を知ることができたから、今回のおもてなしは大成功ってところかな。

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