第15話 アルはデビルグリズリーと戦う①
俺たちはギルドで納品を済ませ、外に出て来ていた。
本部とのやりとりなどが分かり、結構ためになったことが多かったな。
テロンさんとも会えたし、来て良かった。
「あ、これどうぞです」
グリーンリーフと鉄鉱石を納品したおかげでお金が手に入り、ペトラは俺にぎっしりお金が入った袋を手渡してきた。
俺は遠慮なくそれを受け取る。
「結構いい稼ぎになったなぁ」
「私から見れば天の恵みですよ。アルさんのおかげでもう少しお店続けれそうです」
ホクホク顔で言うペトラ。
だけどそれって、根本の問題は何も解決してないよな。
俺があそこで仕事をしていけばそれで何とかなるかも知れないけど、町があんな風じゃこれから先、あの町に未来は無い。
ペトラはそんなことを一切念頭に無いらしく、愛らしく笑っている。
まぁ、これだけ喜んでるなら、今はいいか。
「あ、ボランさんにもお金渡しておきますね」
「ああっ!? サンキューな!」
なんで怒りながら受け取るんだよ、あんた。
嬉しいなら嬉しそうな顔すりゃいいのに。
「じゃあそろそろ帰りましょうか」
「え? もう帰るの?」
「はい。寄り道なんてしてたら、遅くなっちゃいますよ」
「あーそっか。ティアがいたら素材売っても良かったんだけどなぁ」
今からでもティアを【
そんなことを考えた時だった。
「おい! デビルグリズリーの大群が来たぞ!」
「またかよ! 最近どうなってんだ!?」
騒然とし出すギルドの人々。
冒険者たちも、城の騎士や兵士たちもレイナークの外へ向かって駆け出していた。
「おいてめえ! 何かあったのかよ、ああっ!?」
ボランが冒険者の一人の胸倉を掴んで怒声にしか聞こえない声でそう訊く。
ただ喧嘩を売っているようにしか見えないからもう少し振る舞いを考えた方がよいのでは?
俺はそう思うが、言っても無駄だと瞬時に判断し、何も言わないでおいた。
「こ、こんな時になんなんだよ!? レイナークにモンスターの大群が来てるんだ! お前と喧嘩してる場合じゃねえんだよ!」
男はボランを一睨みしながら走り去って行く。
「モ、モンスターの大群って……これ、帰れないんじゃ……」
「だろうね。こんな状況で外に出るなんて、自殺行為もいいとこだ」
周囲にいる人たちは恐怖に震え、知り合い同士で大丈夫であろうかと不安の声で会話をしている。
「なんでこんな手薄の時に現れるんだ!」
「誰かモンスターと繋がってるんじゃないのか!?」
「き、今日こそ終わりかも知れないな……」
ボランは周囲の声を聞き、プルプルと震えだす。
「みんな困ってんのかよ! 俺が行ってぶっ倒してきてやる!」
「ちょっと待ちなよ。ボランって町で一番強いって言われているらしいけど、どれぐらい強いんだ? この様子じゃ、敵も強力だと思うよ」
「強さなんて関係ねえだろ! ああっ!?」
「関係あるよ。敵わない相手に無謀に挑むのは褒められたものじゃない。できることとできないことを区別しないと」
「区別もキャベツもねえんだよ! 全部俺が倒す!」
顔の前で拳を握り締めてボランはそう叫ぶ。
俺はため息をついてボランに言う。
「だったら、俺も行くよ」
「ああっ?」
「もしかしたら俺なら、なんとかなるかも知れない」
俺はペトラの方を向き、彼女に話す。
「ペトラはギルドで待機しておいてくれ。絶対外には出てくるなよ」
「出ろと言われても出れませんよ」
ペトラは青い顔でそう言った。
俺は彼女に頷き、そして一度大きく息を吸う。
「【
俺がそう叫ぶと、目の前の空間がキラキラと輝きだした。
輝く空間の中から、何かを斬った後なのだろう、刀を振るうティアが現れる。
「うおわっ! 何すんだ、てめえ!」
「失礼しました」
ボランの鼻先に触れそうになっていた刀を帯刀するティア。
「すまなかった。戦っている最中だったんだな」
「いえ。私の最優先事項はご主人様なのでお気になさらずに」
「早速だけど、外に大量の敵が来てるらしいんだ。そいつらを蹴散らしたい」
「かしこまりました」
ティアは頭を下げると神剣の姿になり、俺の背に納まる。
そのまま外へ行こうかと考えたが、ボランのステータスを確認しておくことにした。
「【
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ボラン・ボウラン
ジョブ:ナイト
レベル:5
HP:23 FP:9
筋力:10 魔力:4
防守:15 敏捷:8
運:9
スキル 剣1 硬化1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「いやいや。ボランもここで待ってた方がいい。絶対来ちゃ駄目だ」
町一番って言っても、レベル5じゃ流石に……
駆け出し冒険者程度の実力じゃないか。
これでモンスターの大群と戦おうなんて自殺行為もいいところだ。
レベル2の俺も人のことは言えないけど。
「行くに決まってんだろうが! モンスターなんて俺が――」
「その代わりと言っちゃなんだけど、ペトラたちのことを守ってやってくれないか? それはボランにしかできないことなんだ」
「……よし。やってやる!」
「頼んだよ」
彼は素直に納得してくれた。
見た目からは想像できないぐらい優しいボラン。
外で戦うより人を守ることを優先してくれるんじゃないかなと思ったが、俺の考え通りの選択をしてくれた。
騙したみたいで彼には悪いけど、無駄に人が死ぬのを見たくはない。
◇◇◇◇◇◇◇
巨大な門をくぐり、草原にいる敵の姿を視認する。
『デビルグリズリー……でございますね』
「ああ……」
デビルグリズリー。
全身に生える毛は夜のように真っ暗で、悪魔のような深紅の瞳。
大きさは人の倍ぐらいあるだろう。
危険度Cクラスのモンスター。
この間のヴァンパイアと同じ危険度ではあるが、その実力はピンキリだ。
Cの底辺のヴァンパイア。
Cの上位に位置するデビルグリズリー。
ヴァンパイア相手でも並みの冒険者じゃ歯が立たない。
それよりも見るからに強そうなデビルグリズリー。
並みの冒険者はおろか、実力のある冒険者でもまともに相手にしないモンスターだ。
そのデビルグリズリーが……300はいる。
兵士や冒険者たちは必死に戦っているが、強大な敵に苦戦し、次々と人が死んでいく。
グリズリーたちの白い爪が、血で赤く染まっていた。
「こ、このままじゃ……俺たちは」
「くそっ……諦めるな! 諦めなければきっと……」
「俺たち……死ぬのかよ!?」
戦場に絶望が広がっていき、戦士たちはみな、みるみるうちに青い顔になっていく。
中には対等以上に戦える人もいるようだが、如何せん数が多すぎる。
このままじゃいずれ全滅するのは火を見るよりもあきらかだ。
「この様子じゃ、上級冒険者は仕事でここにいないようだな」
『騎士にしてもそうだと思います。何か理由あって、レイナークにはいないようですね』
「……ちなみにだけど、俺がこのデビルグリズリーたちに勝てる見込みはどれぐらいあると思う?」
『ご主人様がデビルグリズリーたち相手に勝てる確率は……1%と言ったところです』
何その絶望的な数字。
だったらどうやってこの場を切り抜ければいいんだ……
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