第14話 アルは王都に行く②

「おうペトラ! なんだこいつは!?」


 ペトラについて町の外に移動すると、なんともガラの悪い赤髪を逆立てた男が俺の眼前まで近づいてきた。

 と言うか鼻が触れ合っているのだけれど。

 近すぎる。ちょっと離れてくれ。


「この人はアルさんといって、今回うちで仕事をしてくれた人です」

「そうなのか? ああっ!?」

「そ、そうだけど……ちょっと離れてくれません?」


 男はギロッと一度俺を睨むと、待機していた馬車に乗り込んだ。

 なんなんだよ一体。

 

 彼の腰には剣があるが、冒険者をやっているような印象はない。

 というかどう見ても町のチンピラにしか見えないんだけれど。


「で、誰、あれ?」

「あの人はボランさんって言って、この町で一番強い人なんです」

「それでそのボランが何で一緒にいるんだ?」

「平たく言えば護衛というやつですね。さすがに私だけで王都まで行くのは危険なので。あ、でもアルさんがいたら大丈夫だったかも」


 ペトラは可愛さ極まりない笑顔を俺に向ける。

 だがブルーティアの無い俺を当てにしない方がいいと思う。

 きっと一般人と大差ないよ。切ないぐらい。


「でもあんな悪人面した人に頼んでいいのか?」

「ああ見えてボランさん、案外いい人なんですよ」


 馬車の方へと視線を向けると、ギラついた目で俺を睨むボランの姿があった。


「……ほんとかよ」


 俺は嘆息しながら、ペトラに続いて馬車へと乗り込もうとした。

 すると。


「おい!」

「な、何?」


 ボランは眉間にできる限りの皺を寄せ、大声で俺に言う。


「足元気ぃつけろよ! 危ねえから怪我すんじゃねえぞ!」

「あ、はい」


 表情と言っていることが一致していない。

 なんなんだよ、こいつ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 道中、特に危険もなく(ボランの視線が危険そのものであったが)王都レイナークへと到着した。


 当然だがローランドやマーフィンと比べても圧倒的に大きい。

 数えきれないほどの人が行き来していて、中には騎士や冒険者の姿も多く見られた。

 石造りの建物が多く、活気に溢れすぎるぐらい溢れかえっている。


 俺たちは馬車を引きながら冒険者ギルドの本部へと移動していたが、あまりにも人が多く、人に酔いそうになっていた。


「あれがギルドですよ」

「あ、そうなんだ……」


 中央に大きな城があり、その手前に大きな屋敷のような建物があった。

 人の出入りも多く、周囲の建物よりもいっそう豪華な造り。


 馬車をギルドの横に置き、ペトラの荷物運びを手伝い中へと入る。


「おお! アルじゃないか!」

「テロンさん」


 ギルドに入ると、俺に声をかけてきた人がいた。

 それはマーフィンのギルドで働く職員、テロンさんだった。


 ヒゲを蓄え、冒険者よりもゴツイ体の持ち主。

 なんであなた冒険者しないで事務なんてやっているの?

 と聞きたいぐらいたくましい肉体の人物だ。


「お前、シモンに辞めさせられたんだってな? ったく、何考えてんだよあいつは」


 プンプン怒るテロンさん。

 マーフィンを離れてまだ3日ほどだと言うのに、彼の姿が妙に懐かしく思える。


「みんな心配してたんだぞ? マーフィンから出て、どこに行ってたんだよ?」

「ローランドだよ」

「ローランドってお前……なんであんなところに行っちまうんだよっ」

「あんなところって……確かにあまりいい場所ではありませんけど……」


 ペトラはローランドの事を言われて少しカチンときたようで、町の良い所を言おうと試みたようだが、すぐさま黙り込んでしまった。

 

「ああ、あそこに住んでるのかい? 気を悪くさせちまったのなら悪かったなお嬢ちゃん」

「い、いえ……」

「アル、これからもあそこで暮らしていくつもりなのか?」

「まぁ、今のところはそう考えてる」


 テロンさんはペトラに気をつかってか、俺の耳元で囁くように言う。


「あんなゴロツキだらけの町より、こっちで暮らす方がいいんじゃないか?」

「そうなんだけどさ。あっちで商売するのも悪くないかも、って思ってるんだ」

「商売……ね。マーフィンじゃ、ゴルゴに目をつけられて仕事はできないもんな、お前は」

「うん」

「そっか……でも、俺はこっちで商売する方がいいと思うぞ」

「向こうでもお金を稼ぐ方法があるんだ。それに……」

「それに?」


 俺はペトラに視線を向ける。

 

 あの町では奇跡とも言えるほどの善良な女性。

 俺はこの子を助けてあげたいと思っている。

 一宿一飯の恩ではないけれど、確実に終わりへと近づく彼女のことをなんとかしてやりたい。

 裕福にならなくてもいいけど、せめて不安のない毎日を送れるぐらいにはしてあげたいんだよな。


「いや、なんでも無いよ」

「そうか。じゃあ、みんなもお前に会いたがってんだから、たまには顔を出せよ」

「ああ。そうするよ」

「エミリアもまだ帰って来てないが、帰って来たらお前がローランドにいることを伝えておくよ」

「ああ……」


 パタパタしててエミリアのこと忘れてた。

 俺が出て行ったなんて話を聞いたら怒るだろうか……

 あいつのことだから、シモンに怒鳴り込みそうだな。


「帰って来たら……荒れるだろうなぁ、あいつ」

「……やっぱりそう思う?」


 テロンさんも同じことを考えていたようで、少し青い顔をしていた。

 

 その後一言「じゃあな」と言って去って行くテロンさん。


 彼と別れた俺は、ペトラとボランと共にギルドの奥へと入って行った。

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