第6話 シモンはゴルゴと会話する
月が雲に隠れてしまい観測できない夜のこと。
マーフィンの冒険者ギルド、シモンの部屋に大きな体躯の男がやって来た。
歳は40半ばぐらいだろう。
肌は浅黒く、金色の髪をオールバックにさせていて青色の瞳は野心に溢れていてとてつもなく鋭い。
鍛え抜かれた筋肉に、上品な服装。
そして親指を除いた8本の指には、下品なぐらい輝く金色の指輪をはめている。
「シモン。あいつを追い出したようだな」
「ああ、ゴルゴさん! ええ、やりましたともやりましたとも! とうとうアルベルトをギルドから追い出してやりましたよ」
ゴルゴ――
この町で一番大きな商店、ガイゼル商店を構え、町一番の金持ちである。
ゴルゴの顔を見るなり、深々と大きな椅子に座っていたシモンは飛び上がるように立ち、席をゴルゴに譲る。
ゴルゴは椅子に座り、足を組んで偉そうに背もたれに寄りかかる。
「グッド! よくやった。あのガキはゴキブリのように不愉快だったからな……この町では仕事もできないように根回しも済んでいる。後は野垂れ死ぬのを待つだけだ」
「あいつは本当に目障りでしたからねぇ……しかしギルド内では案外人気者でして、解雇したことに対してみなが不満の声をあげるているのです。その点だけは勘弁していただきたいものだ」
「それぐらい、我慢しろよ」
「はぁ……」
この町の経済の中心にいるゴルゴにシモンは頭が上がらない。
いつの間にか、彼の子分みたいな立場に成り下がっていた。
だがシモンには不満など一切ない。
ゴルゴとこうやっていい関係を保つ方が、シモンにとっても都合がいいからだ。
武器や防具、それに冒険に必要な道具なども安く提供してもらえる。
冒険者たちが使用する物は、ガイゼル商店から卸してもらったものを冒険者ギルドから購入させていた。
そのためそれらを安い値段で用意することができたのならば、単純に利益も上がるということだ。
シモンも昔は冒険者として色々仕事をやってきたのだが、冒険者ギルドの経営を始めてからは、金の虜となった。
冒険者をするよりも安全に金を稼げる。
完全に冒険者としての魂は失い、どれだけお金を稼げるか、それだけが彼の頭の中を支配していた。
「ゴルゴさん。これからも、よろしくお願いしますよぉ」
「分かっている。こちらもこのギルドで儲けさせてもらっているからな」
「おかげ様で私めも、いい思いをさせてもらっています」
「グッド! 『互いの利害を一致させるのは大事なことだ』。先代は俺から見たらクソみたいな男だったが、これだけはいい教えだと思っている」
下品に笑うゴルゴ。
シモンもゴルゴに同調するように不快な笑みを浮かべていた。
「だけどシモン。ギルドの評判、また上がったみたいだな」
「ええおかげさまで。一年ほど前から冒険者の質が上がりましてねぇ。高難易度の仕事もどんどんクリアできるようになって、利益も急上昇です」
「お前が儲かれば俺も儲かる。いい冒険者は逃すなよ」
「そのつもりでございます」
ゴルゴは葉巻を咥えて、火を点ける。
もうもうと部屋に煙が立ち上り、シモンは一つ咳をした。
「ところで、アルベルトの奴はまだこの町にいるんですかね?」
「いいや。部下の話によると、今朝出て行ったきり町に帰ってきていないようだ」
くくくと笑うシモン。
「王都レイナーク辺りにでも行きましたかね? 道中死んでくれていたら一番いいのですが」
ニヤリと笑みをこぼしてゴルゴは答える。
「確かに死んでくれるのが一番だが、レイナークに行ったところであいつは何もできないだろう。たとえ仕事をしていたとしても、俺が全力で邪魔をしてやる」
「さすがゴルゴさん! その容赦ないところがまたいいですな」
「容赦ないぐらいじゃないと、商売は成り立たないからな。俺の障害になる可能性のあるものは叩き潰す」
葉巻を地面に落とし、ギュッと踏み付ける。
「私もゴルゴさんを見習わなければいけませんな。情けをかけすぎて、結局あいつを追い出すのに一年もかかってしまいましたから」
「ふん。よく言うよ」
ゴルゴは席を立ち、出口へ向かって歩き出す。
「……ふと思ったんですが、あの男、ローランドに行ったということはないんでしょうか?」
ピタリと足を止めて振り向くゴルゴ。
「あんなところに行くのは馬鹿か大馬鹿ぐらいのものだ」
「……確かに」
二人はふっと笑い合う。
「まぁ……こちらでまた何かあいつの情報がつかめたら、即刻ゴルゴさんにお伝えいたしますので」
「グッド! その時は頼む」
「かしこまりました」
深々と頭を下げるシモン。
ゴルゴは部屋から出て行き、階段を下りていく音が室内に聞こえてくる。
これからもゴルゴとうまく付き合っていけば金持ちでいられる……
自分は生涯成功し続け、金持ちのまま人生を終えるのだ。
そう信じてやまないシモンは、ニヤリとほくそえんだ。
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